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2014年08月14日(木)
『炎立つ』

『炎立つ』@シアターコクーン

原作未読、大河ドラマも観ておりませんが、タイトルとストーリーは有名ですよね。あの長い物語を舞台で、二時間半でどう上演するのだろう? と言う興味もありました。全五巻中『巻の四』が今回の舞台。木内宏昌さんが脚本を起こしたものだそうです。『カルテット』『おそるべき親たち』等、近年の注目作を手掛けている方ですが、青空美人の方だったのね!

平安時代の設定ですが、衣裳や美術は時代を感じさせないものになっていました。言葉―台詞、あるいは歌詞によって、舞台上の時間、場所、関係性が伝わるようになっています。固有名詞も頻出するので多少の予備知識は必要かもしれませんが、これが見事に役者の言葉だけで「伝わる」ように感じました。予習しなければならない作品だと言うことではありません。解らなければ、終演後調べればいい。それだけの興味も喚起すると思います。

あのー、字面だけを発声している役者の台詞ってひらがなだけで聴こえるような気がしませんか。でも、言葉を意味や解釈も含めて自分の身体に浸透させ、発声している役者の台詞は漢字に変換されて聴こえる。この芝居に出てきた台詞じゃないけど例を出すと「しじ」が「指示」と聴こえるか「私事」と聴こえるかと言うようなものです。前後の言葉とちゃんと繋がって聴こえるかどうか、意味が含まれているかどうか。数万の兵士の闘いや、籠城、兵糧攻めによる悲惨な飢餓感も具象としては現れません。メイクと衣裳による身体的な変化と、そしてやはり言葉で魅せる。言葉の力を強く感じさせる舞台でした。キヨヒラの心情モノローグが説明的になっていた箇所がちょっとだけ気になったけど(特にヨシイエに対してのもの)、これはこの舞台、時間の制限のなかでは必要だったのかもなあ。

愛之助さんを筆頭に、益岡さん、平さん、三田さん。そして歌い手の新妻さん。声に力のあるキャストは耳に楽しい。その音そのものを聴けると言う楽しさと、言葉の意味を伝えてくれる楽しさ。

災害や争いが絶えることはない。キヨヒラ、イエヒラとアラハバキの契約は表裏一体。どちらの願いも聞き入れられ、そしてどちらの願いも永遠には続かない。神と呼ばれる存在は、何かを起こすのではなく、何かが起こるのをただ見詰めるだけだ。コロスの嘆きが止むことはない。静かに消えいくカサラの歌声は、最後はとてもちいさなものになる。だが、耳を澄ませばそれは確かに聴こえる。耳を澄まし、ちいさな声に気付き続けることが、平安へ繋がると思いたい。

声に力があると言えば、三宅くんも個性的な声の持ち主。とても悲しい役でした。心に訴えかけてくる芝居をするひとなので、こういう役やられると観ている側も引っ張られる。愛に飢えている一方、終盤は身体的にも飢えていく役柄なので観ていてゾッとする程。身体の軽さやキレを見せる場面もあり、見応えありました。刀を振るスピードが速いのなんの。愛之助さんとの殺陣を観たかったなあと言う欲求もあったり。しかし新境地と言うか、こういう役を演じるのって珍しいですよね。これからもいろんな役で観ていきたい役者さんです。