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2014年07月05日(土)
『七月大歌舞伎』夜の部

『七月大歌舞伎』夜の部@歌舞伎座

図らずも初日。やっぱり独特な雰囲気がありました。『悪太郎』『修善寺物語』『天守物語』。全て初見。

狂言をベースにした猿翁十種の内『悪太郎』、市川右近さんが先月怪我をしたとのことで心配していましたが、舞台で観る限り影響は全くなし。智蓮坊の猿弥さんとのかけあいも楽しくてアガるー。華やか!

一転『修善寺物語』はあれですよ、芸術家の業とはみたいな話で…芥川龍之介の『地獄編』を思い出した。調べてみたら岡本綺堂の『修善寺物語』は比較的新しい作品で、1911年に発表されたもの。『地獄編』は1918年発表。なんらかの影響はあったのではないでしょうか。面作師夜叉王は死を前にした娘桂の顔を写生する。娘桂も覚悟を決めており、後悔はしていないと言い切る。屏風絵を完成させるため、焼かれる娘を描いた『地獄編』の絵師良秀は、絵を完成させた後自殺しますが、夜叉王はどうなったのかなあなんて思い、アガっていた気分が落ちる(…)。

夜叉王を演じたのは中車さん。登場から客席を沸かせておりました。桂は笑三郎さん、その妹楓は春猿さん。そーなんですよ今月の歌舞伎座には猿之助一門がぞぞっと出揃ってるんですよ! 猿之助さん以外!(笑)猿之助さん、いつ迄出ないつもりなのだろうか。なんかもー面白がってるでしょもはやって思いたくもなる。ここんとこ猿之助一門のことは北大門組(『新しき世界』参照)と呼んでいますが(私だけがな…通じるひとがおらん……)こういう存在に肩入れしてしまうのは個人の嗜好か。いやでも本音を言えば歌舞伎座で猿之助さん観たいよ……。

『天守物語』はなんだかんだで舞台は初。文章で読んでるときと手ざわりが違って大層愉快な話だった…それって自分の想像力が足りないってことか。や、でも、演出的にも面白かったんだよ! あの映像使ったとことか結構ウケてたよね…天空エレベーターみたいな。ロープウェイか? ここ笑っていいのかな的なクスクスがあちこちから漏れていたよ……。富姫と亀姫とのキャッキャ具合にはもう素直な笑いで場も和んでいた。なんかもー女子会みたいなんだもの。「こんないいおみやげ貰っちゃったら私のなんてつまらないものだわ…!」とか、かわいい……。まあそのおみやげってのがお殿様の生首だったりするんですが。

愉快だわーと思ったのは、人間てほんっと愚かよねえってのを臆面もなく描いてるところ。異形の者たちからの視点だから尚更容赦がない。泉鏡花のこういうところ、憎しみでもなく皮肉に徹しているのとも違う、ああ仕方がないいきものがいるーてなほぼ諦めの感情には惹かれるものがある。『夜叉ヶ池』もそう。『夜叉ヶ池』は1913年発表で、『天守物語』は1917年発表。この頃になってくると、もはや人間たちの末路は描かれない。だから一瞬後味いいな、と思うんだけど、あとになって考えるとああ人間は見捨てられたんだな、と気付きます。もうあんなやつらは放っておこう、あんなやつらには関わらず、静かに暮らそう。むしろ図書之助あっちに行けてよかったねとか思っちゃうよね〜(厭世観)。それにしても洪水好きよね…日本での自然災害の歴史を見るようでもある。

玉三郎さんの富姫、海老蔵さんの図書之助は眼服でございました。ふたりが舞台に揃うと同時にほわ〜んとしたため息があちこちから。うーつーくーしーいー。舞台写真が入った筋書がほしいので、後日買うことにしました。あとなんてえの、これ完全に個人的な思いもあるんですけど、海老蔵さんの台詞を初めて対話として聴けた。なんでしょこのひとの語りや謡いって、相手がいようがいまいがって印象が凄く強かったんですね。これは相手が玉三郎さんだからだろうか。もっと言えば、海老蔵さんが演じたものでこれがいちばん好きな役かも知れない。