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2014年02月01日(土)
『アメリカン・ハッスル』『銀河系の果てを聴く』

『アメリカン・ハッスル』@新宿武蔵野館 1

いんや面白かった…んが〜じわじわ苦い!せつない!やっぱりねえ、ひとを騙したら騙した分の何かを受け取らねばならんのよ…受け取るってのは喪失も含めてですよ。因果応報ってことかも知れんが、それにしても苦いわ…デヴィッド・O・ラッセルの厳しさと優しさよ。ある側面から見るとハッピーエンドだけど、違う側面から見ると皆一生消えない傷を負ってる。

し〜か〜し〜個人的にはジェレミー・レナー目当てで観に行っているので、ジェレミー(の役)の肩を持ちたいわけですよ。ジェレミー騙すのやめて!可哀相だから!(泣)いやだって、いちばん善人じゃありませんでしたか…ってか別に悪徳政治家じゃないじゃない!汚職に手を染めるって言葉で片付けられない!ひと騙してないの彼だけじゃーん!ちょういいやつじゃーん!騙してないのにあんな目に遭うじゃーん!何それあんまりだよ!感嘆符もいっぱいつけるよ。か・わ・い・そ・う!!!!!かわいそう!!!!!しかも騙されっぷりがあまりにも素直ちゃんでかわいくてますますかわいそう。ああジェレミー戻っちゃダメ!その話にのっちゃダメ!と思っても何も出来ない観客のつらさよ。シークから宝物でーすって贈られた短剣を受け取るときパッと花が咲くような笑顔を見せる、この表情がまたすんごいよくてさ!スピードある展開で、具体的な言葉も少ないけど、アーヴィン(クリスチャン)と明け方迄語り合ったあの夜の描写とかさ…アーヴィンのことほんとに友達だと思ってたんだよ!あああもうかわいそう!!!!!

もうね、あの髪型も見慣れてくるともうかわいく見えるよ…撮影当時流れてきた現場の画像見て散々笑ったけど悪かったよ。まあそれは皆さんそうで、クリスチャンの1:9分けもブラッドリーのパンチパーマ(カーリーってことらしいがもうパンチにしか見えない。パンチって日本にしかないの?ってそもそもなんでパンチって言うの?…と思わず検索したらこんな由来だった。ある意味まんまだった)もジェニファーの似合わない盛り髪も、話が進むにつれそういうことなのか…と感じる部分が出てきてそれがまたせつないのな。オープニングで髪型を懸命に丁寧に丁寧に整えるアーヴィン、母親と同居してる家でホームパーマ(この言葉ももうあまり聞かないな)巻いてるリッチー(ブラッドリー)。リッチーに髪をぐちゃぐちゃ〜てされたときのアーヴィンの顔!ショックと怒りで泣く寸前みたいになって言葉も出ないあの顔!それを見て「とても時間がかかるの」とだけ言うシドニー(エイミー)…もうここで「この映画、……好き!」と思いましたよ。滑稽やらつらいやら。

て言うかブラッドリーも可哀相だったよ…アホでかわいそうな子のことが気になりますね……。まあ皆可哀相と言えば可哀相なんだが、どこでストーリーを切るかってとこですよね。今作はアーヴィンとシドニーと言う人生でもビジネスでも最高のパートナーを見付けたふたりが穏やかな幸せを手に入れる迄、と言うのがひとつの流れなので、カーマイン(ジェレミー)やリッチーのその後に焦点は合わない。それが余韻にもなるんだけど、どの人物に肩入れするかってとこですよね。ジェニファー演じるロザリンも、いちばんひとたらしだったけどいちばん生きるのがつらい人物なんじゃないかなと思える。ロザリンほんとうざくて面倒くさくて近くにいてほしくないけど、全く憎めない人物だった。カーマインがくれた電子レンジを即ぶっ壊したときはちょっと憎しみ湧いたけど(笑)。キッチンの黒焦げ壁紙がずっとそのまんまで(ロザリンの無頓着さが現れてるよ…)キッチンが映るたんびにせつなおかしかったわ…何日経ってもあのまんま……。

いんやそれにしても試合巧者の役者陣素晴らしかった。ブラッド・ピットばりに八時二十分眉になってるクリスチャンをあんなに沢山見たのも初めてだ(笑)。ノンクレジットで出てた彼にもビックリ、知らなかったよ!そしてサントラ、70年代コンピとしても素晴らしい。ロザリンが「死ぬのは奴らだ」を絶唱するシーン、すごくよかった。

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『銀河系の果てを聴く』@WATARI-UM

齋藤陽道『宝箱』展のライヴイヴェント。山川冬樹さんが聴覚以外の器官へと奏でる音楽。

数日前からワタリウムのtwitterに仕込みの様子が載っていて、この機材は何だろう?と思っていた。入場するとスタッフの方が「どう伝わるか読めないので、なるべく前の方、あるいはスピーカーの近くにいるといいと思います」と言う。床には振動式スピーカーらしきものが一定距離で設置されている。山川さんがライヴでよく使う白熱灯や、変わった形のスピーカーがスタンドに設置されている。プレイエリアはフロアの中心と壁面そばの二箇所あるようだ。

照明が落とされ、しばらく何も起こらない。まずは静寂を“聴く”。やがて上空からドン、ドンと言う音と振動。見上げると、吹き抜けから見える上階に山川さんがいる。ガラス窓を殴っている。吹き抜けになっていない場所にいた観客は、何が起こっているか判らなかっただろう。フロアに降りてきた山川さんは、出てきたもうひとりの人物と向き合う。暗くてよく見えないが、齋藤さんのようだ。グローブを装着したふたりのどつきあい、殴り合いが始まる。衝撃音と振動が床から、スピーカーから伝わり出す。

上半身裸になり、集音マイクを胸につけた山川さんの心臓の音が空気を震わせる。鼓動に同期して白熱灯が点滅する。齋藤さんが山川さんの腕を接写していく。プロジェクターを通じて、壁面スクリーンに動画が映し出される。手首の動脈が一定のリズムで動いているのがハッキリ見える。山川さんが心臓の鼓動をコントロールすると、動脈の動きも止まる。その動きと振動を“聴く”。聴くとは振動を感じることでもあるのだなと思う。

マーカーに集音マイクを装着しての筆談。このときには齋藤さんも上半身裸になっており、そのままの姿で筆談。ちょっとシュール。寒くないのかな?「音楽ってなーに?」と書く齋藤さんに、山川さんはいろいろな言葉とアクションで応える。力が入るあまりマーカーが潰れ、交換する。△でワルツを奏で、□、☆(一筆書きの五芒星)と図形を描き拍子をとる。マーカーのセッションが始まる。ギュッ、キュッ、キシー、ジジーと鳴るマーカーの軌跡が床を震わせる。・・○は「We Will Rock You」なリズム。ドンドン、シャーッ、ドンドン、キャーッ。赤と青の線が紙面を走り回り、みるみるノイズに染まっていく。フロアに笑い声が起こる。筆談エキサイトが続き(筆談、ワイ談の韻を踏む話面白かった。血流でダンスする身体のいち器官のことも)、やがて山川さんが書く。「さいとう君の心臓きいてみたいです。」齋藤さんが書く、「とまってるかも…。」力強く山川さんが断言する。「生きてるからうごいてる、ぜったい、うごいてる。」

集音マイクから流れてくる齋藤さんの鼓動。骨伝導マイクを装着した山川さんが齋藤さんの写真集からのテキストを朗読し、ホーメイを唄いギターを鳴らす。その間ずっと齋藤さんとスタッフ?が手話で会話している。あれは山川さんの朗読を訳しているのだろうか、それとも何か他のことを話している?手話が読めない私には判らない。耳で聴く音楽、目に映る音楽。内臓を震わせる音楽、肌をなでる音楽。

終演後「体験していってください」と山川さんが挨拶。こどもたちがマイク付きマーカーで絵を描き始める。そこに飴屋さんも混ざっている。床のスピーカーを触ってみた。ビリビリと絵描きの音楽が伝わる。いつの間にか山川さんと観客のひとりのセッションが始まっていた。馬頭琴、ホーメイとジャンベ、団扇太鼓。初対面のようで、セッションのあと山川さんが名前を訊いていた。リョウタさんと言う方だった。こどもたちがシャボン玉を膨らませる。浮かぶ、弾ける。歓声があがる。光景が奏でる音楽。