初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2014年01月11日(土)
『恋するリベラーチェ』『マジック・マイク』

『恋するリベラーチェ』『マジック・マイク』@早稲田松竹

『石のような水』→『惑星ソラリス』→『ゼロ・グラビティ』→『ソラリス』ときてソダばぁ熱再燃のところ、いいタイミングで観はぐっていた二本がかかった。どちらも瑞々しい青春映画。人生は長い。どう送る?どう終える?どんなことがあっても、人生は素晴らしいと言えるか。命が消えるときに、人生は素晴らしかったと言えるか。

愛を求め続け、欲求をとめられない。お互いを大切にしている筈なのにそれをうまく伝えられなくて、身体と心は離れていって。美しいものが好き、音楽が好き、いぬ(どうぶつ)が好き、ママが大好き。料理上手、情に厚く、屈託のない性欲は底がない。ラインストーンをびっしり飾り付けた超重量級の衣裳を着て、軽妙なトークを交え、にこやかに軽やかにピアノを弾くどプロフェッショナル。実在のエンターテイナーをマイケル・ダグラスがチャーミングに演じます。『トラフィック』くらいからの枯れたダグラスが大好きなんですが、この作品でのかわいらしさはもはや年齢も性別も関係ない!ホントこのひと巧いわ……。問題だらけの人物だけど、それでも愛さずにはいられないリベラーチェの魅力が満開です。スコットを演じた聖子ちゃんカットみたいなマット・デーモンもキュートだった。若い頃のぷりぷりな感じ(リベラーチェが天使て言うのも納得)も、酸いも甘いも通過したあとのちょっとくたびれた感じも、どちらもかわいかった……。もうこのキャスティングがまず素晴らしい。

スコット本人による原作は、ある意味暴露本なのかも知れません。しかしこの映画は、死人に鞭打つような印象はなかった。ふたりの出会い、蜜月、別れ、死の床での和解を、丁寧にエピソードを積み重ねて描く。ふたりとも弱い人間だったことが正直に描かれている。そこには生活がある。いちばんグッときたのは、年老いたママが家に設置されたスロットで遊ぶシーン。大当たりを出して喜ぶが、自家用なのでコインが入っていない。「コインは?」と言うママ、慌ててリベラーチェを呼びにいくスコット。音符柄のエプロン姿でキッチンにいたリベラーチェは手持ちの小銭を探すが、そんなに沢山は出て来ない。「大当たりなのにこれだけ?」と言うママ。華やかなステージの裏に、激情を交わす間に、彼らはこんな日々をも過ごしていた。それはきっと、走馬灯に必ず出てくる時間。

字幕訳もいちいちかわいかったです。「もうオキャンな僕じゃないの」とか(微笑)。AIDS禍の時代、ゲイが迫害されていた時代。セルロイド・クローゼットは増える一方か、それとも?

-----

宣伝では観客の七割が女性と書かれていた『マジック・マイク』、むしろおっちゃんのが多かったのは何故だ…あれかなあ、公開時は女性が多い劇場に行きづらかったのかな(笑)。そしてそのおっちゃんら、ドッカンドッカンウケていた。そんな陽性の時間が過ぎ去り、主人公が直面する現実に客席が静まり返る。彼を見守り、彼が選んだ道にエールを送る。青春だけが持ち得る、期間限定の特権はいつか色褪せる。しかしその特権は、確かにそのときにしか掴まえられない。逃すな、今を。そしてそこにしがみついていてはダメだ。

アダムのお姉さんのキャラクターがよかったなあ、弟を心配しているけど、彼のやることを否定しない。理解しよう、偏見を持たないでいようと努力してる。そして実際、マイクのショウは彼女を魅了する。彼女はマイクを認めたうえで、譲れない自分の考えを持っている。そしてそれを臆さず放つ。一瞬のタイミングを逃さずに。

チャンスの神さまは前髪しかないって話はホントだなと思ったわー。そしてその前髪を掴むには、勇気がいる。

ショウのシーンの数々が素晴らしかったなー。ヘルシーなのにいかがわしい。狂乱のなかにあるクール。音楽とダンスの迫力。めまぐるしいカットとその速さ。そして役者たちの鋼の肉体。マシュー・マコノヒー(怪演)ってあんなにマッチョだったって知らなかった…『コンタクト』で印象がとまってた(浦島)。最新作では余命わずかなひとの役ですっごい減量したんですよね、も、もったいない(…)。

キラーラインは「いい=ヤバいこともやり過ぎればワンダフルだ」。

-----

それにしてもソダばぁの撮る「ヤクにはまってダメになる」ひとの描写はホントうすらさむいわ…こわいわ……ヘタなヤク中出すよりよっぽどヤクはあかん!ホントあかん!て思わされますよ。ヤク喰ってるところより、その前後の言動が怖いんだよね…あ、このひと依存症になってる自覚がない、と言う。こうやってずるずる行っちゃって、気付いたら戻れなくなってるんだよ。ODになったアダムのゲロをミニぶたちゃんが食べてたのとか、もうガーンてなもんですよ。この描写!しかしペットのぶたちゃんと言うとジョージ・クルーニーを思い出しますよね(笑)。

フォントおたくっぷり(以前自分で言ってた)も堪能しました。隅々迄行き届いたエディット、デザイン。長期休暇か引退か、と言われていますが、それでも気長に新作を待っていたい監督です。