初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2013年09月14日(土)
『ヴェニスの商人』『遠景の音楽〜弦楽三重奏のための夜想曲〜』

『ヴェニスの商人』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

最初にぶっちゃけておくと、もともと好きな作品ではないのです、はああ〜。しかしシャイロックを猿之助さんがってなら、あのイヤ〜なキャラクター(笑)を面白く観られるかなと言うのと、蜷川さんが「原作にないラストシーンを加えた」と言っていたので。

そもそもこの作品が好きではないのはシャイロックがイヤ〜だから、と言う訳ではないのです。確かに彼はイヤ〜なやつですが、そのイヤ〜なやつになってしまった過程が、環境によるもの(断言するぞ)なのに本人=ユダヤ人の気質として描かれているところがイヤ〜なのねー。で、裁判にしても普段からの暮らしにしても、周囲の人間がよってたかってあげつらうとこがイ〜ヤ〜。で、それを喜劇にしてるってのもイ〜ヤ〜。なんでここ迄シャイロックがひねくれちゃったか考えてみろよと言う……。あとポーシャとバサーニオの指輪のやりとりのくだりな。ここほんとダメ、一線超えちゃった感じでダメ、ひとの携帯見たりとかヤジ馬が写メ撮るのと同じ感じで個人的にはホントダメ。ああいう形でひとを試そうって心持ちがもうイヤ〜!

とは言うものの、そのイヤ〜な話を手練の演技合戦で魅力あるものに見せてもらえたのはよかった。かなりよかった。猿之助さんは舌に紅を含んでべろ〜んと見せる等の歌舞伎的な手法を思い切り持ち込んだ外連味溢れるシャイロック像で、もうこんだけやられたら笑います、笑いますよ。横田さんのバサーニオと高橋さんのアントーニオも、天然ちゃんとナルシストの関係と見れば喜劇としての愛嬌が生まれる。しかし高橋さんて格好いいですよね、いやウィッグ着けてたからとかじゃなくて(笑)プロポーションも立ち姿もいいし、声いいし、舞台映えする。横田さんのバサーニオは、前述の指輪のくだりのボケっぷりが脱力な面白さだったので楽しく観られたよ……。こういういろんな解釈が観られるから演劇って面白い。

そして出色だったのは中村くんのポーシャ。オールメールシリーズのなかでもズバ抜けてよい女形でした。かつて(なのかな?今回出演してなかったのであらっと思って…)常連だった月川くんもすごかったが、彼も相当。発声、所作、申し分なし。男性が女性を演じ、なおかつその女性が男装で振る舞うという、オールメールシリーズならではのややこしい魅力を体現してくれました。やー、彼には『お気に召すまま』のロザリンドを演じてほしい。観たい。

セットは基本書き割り、機動力を活かしたスピーディな転換。そして巧者揃いなので早口な台詞も「おいおいなんでそんなに急ぐ、上演時間気にしてるのか」と思うこともない(笑)そういうの結構あるんだ…ただ早口で内容が伝わってこないっての。逆に伝わらなくていい箇所はそう了解させると言う、言葉の取捨選択も興味深かったです。猿之助さんのブツブツシャイロックはまさにそれ、膨大なシェイクスピアの台詞を逆手にとったもので、「あーひねくれじーさんのブツブツが始まったヨー、話半分で聴いといて構わないヨー」てなふうにもとれましたね、それでいでその挙動からは目が話せない。そしてここぞと言う場面ではしっかり言葉を通す。引力あるわ……。

ラストシーンは、喜劇を喜劇で終わらせ(たく)ないと言う、蜷川さんのシャイロックへの思い入れを感じました。改宗がどれだけ凄まじいことなのか、日本人にどのくらい伝わるかと言う提案にも思いました。

どういう運か最前列で、裁判の場面で高官たちが座る椅子が30cmもない近さ。私の前にはネクストシアターの隼太くんが座っていたのですが、局面によってちいさく呻いたりシャイロックを小馬鹿にした態度をとったり、細かい演技がよく見え聴こえたのが楽しかったです。ネクストの鈴木くんがオールメールシリーズで初めて男役を演じたところも新鮮。彼ら含むニナカン常連組のしっかりした仕事を見られるのもこのシリーズの醍醐味です。ネリッサ役の岡田さんのかわいらしさ、道化と言えばの清家さん、大川さんと新川さんの美丈夫コンビとみどころ沢山。スターを主演に呼ぶ話題性を常に持つ蜷川作品ですが、個人的には蜷川劇団の公演として観ています。

****************

高橋徹也『遠景の音楽〜弦楽三重奏のための夜想曲〜』@下北沢SEED SHIP

ワンマン観るのは初めて。しかも今回特別編成で、弦楽三重奏との共演です。Vo、G:高橋徹也、Pf:佐藤友亮、Vn:矢野小百合、Vla:田中詩織、Vc:今井香織。

最新作『大統領夫人と棺』リリースツアーの一環と言うことで、そのナンバーを中心に。このアルバムとてもよいのです、そもそも今回観に行こうと決めたのは六月に観たライヴで瞬時に魅了されたから。メジャーにいた頃からその存在は気になってはいたのですが…周りにファンの方が結構いたし、話もいろいろ聞いていて。なんだかんだでこのタイミングになりましたが、やはりライヴの威力はすごいな。すぐ次が観たい、もっと聴きたい、となりましたもの。これは小林建樹に感謝しなければ!彼が出演してなかったらあのイヴェントに行っていなかったもの。

SEED SHIPはビルの3F、全面ガラス張りの大きな窓をバックにしたいい雰囲気のライヴスペース。満員の観客の集中力も高く、静まり返って演奏と歌に聴き入ります。MCも終盤迄全くなし。アルバムの世界観をだいじに、丁寧に差し出そうと言う心意気を感じました。アーティスティックな職人技、と言う相反しそうな要素が無理なく同居していて圧倒されることしきり。演奏途中近くを通った救急車と消防車のサイレンが大きく響いたこと、曲間大声でスペースの空調に注文を出す客がいたこと(MC一切なしで進行していたことからも判るように、あの構成とても練られていたと思うんですよね…それが分断されたと思うのです……)が残念でしたが、演奏を始めると瞬時に空間を支配する。見事でした。キャンバスを持ってスタンドマイクで唱ったり、リーディングをラジオ音声のように鳴らしてイントロにする等の演出も格好よかったです。そしてあの声、耳を傾けずにはいられないなあ。

MCでストリングスの女性三人を紹介したあと「やっぱり女性って、ここぞと言うときはキメてきますよね…格好いい。(佐藤さんを見やって)…俺たちなあ……!」だって(爆笑)。ちょ、何言って、めちゃ素敵ですやん!何の不満が!痩身を黒の上下で包んだ衣裳とてもキマってますやん!佐藤さんだってベストにボウタイでキメてるのに!その後「脱ぐ!」とジャケットを脱ぎ、リラックスした雰囲気のなか最後の曲を。アンコールもその流れで。

前述のとおりセットリストの流れをとてもだいじにしたコンセプチュアルな内容、アルバムの楽曲そのものの魅力、それを伝えると同時に違う角度から光をあてて表現する技量。そのどれもが素晴らしく、カメラも入っていたのでこれはパッケージ化してほしいなと思いました。シビれた。

いやー、いいハシゴだった。プロフェッショナルな仕事に接すると、こちらも背筋が伸びます。ちゃんとしよう(何を)。