初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2013年08月03日(土)
『歓喜の歌』『地下室の手記』

劇団姦し『歓喜の歌』@ザ・スズナリ

あめくみちこ、かんのひとみ、那須佐代子から成る劇団姦し、赤堀雅秋脚本・演出による二作目。そもそもは赤堀さんの作品世界に惚れ込んだ女優三人が、彼を座付作家に迎え旗揚げした劇団です。で、赤堀節炸裂でした。じわじわ来る、今来てる。ハッピーエンディングではない、でもバッドエンドではない。日常は続き、問題は解決していない。何かが起こったことで登場人物の何かが劇的に変化するとか、何かによって登場人物が前向きになるとか、そういうことはないのです。でも、何かちいさなちいさな光がある。そしてその光は唐突に出現したものではなく、最初からそこにあったものだ。気持ちが沈んでいるとき、荒れているときに気付かなかったもの。それが、ちょっとしたことで目の前で輝くようになる。

3軒茶屋婦人会『ウドンゲ』を観たときにも思ったけど、赤堀さんが自分よりも年長の、それも女性を描くときの視点と言うものが気になっています。とても興味深い。厳しいんだけど、根底に愛を感じる。赤堀さんの愛は、人間って愛しいなあ、ダメだけど。と言うもの。社会常識から外れたダメ、人間としてと言う範疇から外れたダメ、ダメにもいろいろある。あるひとから見れば、家族が死ぬってときに?と眉をひそめそうな言動も、そのまたあるひとから見ればああそうだよな、人間って死ぬものな、と納得してしまうもの。その微妙なニュアンスを掬い上げる「人間を見つめる力」、そしてそれを「微妙なまま留まらせる手腕」が赤堀作品の真骨頂のように思います。注意深く注意深く微妙を掬い上げて行くと、それは繊細になる。シェイクスピアとチェーホフの台詞の絡め方も絶妙。大仰で芝居がかった台詞を語る登場人物、それをひき気味に聞く他の登場人物たちと観客。しかし語られる言葉そのものに耳を傾けると、成程そこにはある真理がある。先人への敬意をこういった形で見せる、その照れ屋な作家にまたグッときたりしました。

「家出」した三人の女性が抱えるもの。行き着いた先で出会うひとたちの抱えるもの。あるひとにとっては深刻で、あるひとにとってはそうでもない。お互い深入りはしない。そして不在の人間へ思いを馳せる構造。現れない男たち。三人の女性の旦那や同居人、死を待つ民宿の主人。登場人物たちの口を通して、そのひととなりが浮かび上がる。「どうってことのない話」が、ひとには必要だ。とりとめのない話、何それって話。それらの話をそのように話す、役者たちの力量も見事でした。

****************

カタルシツ『地下室の手記』@赤坂RED/THEATER

イキウメの別館カタルシツ、第一回公演はドストエフスキー作品『地下室の手記』を安井順平が“実演”。チラシにあった宣伝文句「理路整然と罵詈雑言」、これってまさにイキウメ作品で安井さんが演じる役のイメージにドンピシャだったのでこりゃー楽しみだーと思っていました。いんやそれにしても、それにしても。安井さんのポテンシャルたるや。

フリースタイル?と思わせられる導入部分からあっと言う間に持ってかれる。地下室とされる彼の部屋には、シェルターのように生活必需品が置かれている。食品、飲料、電子レンジ。それら小道具をどう扱うか…観た日はカップ麺にお湯入れて放置していましたが、リッツとかもあるし、食べたり呑んだりする日もあるのかな。他の日を観たひとの感想を辿ると、実際ちょっとずつ違うらしい…うーむ、どのくらいの割合アドリブなんだろう……と、思わせられてしまうところで既にまんまと術中にはまってますね。

ほぼ原作通りとのことですが、帝政ロシアから現代日本に舞台を移し、告白を「ネット中継」する、と言う形をとっています。中継はニコ動。ニコ動なので当然レスポンスが画面に流れます。実際画面の向こう側にいる視聴者には窺い知れない「俺」、同時に画面の向こう側の視聴者にしか見せられない「俺」、中継が始まったばかりのとき視聴者がいなくてちょっとさびしそうな顔をする、画面からは見えなかった「俺」。イキウメと言えば、のあの音楽を逆手にとった演出も冴える。いい話ぽくしてんじゃねーよ!俺はここから出ねえからな!かくしてクズは地下室にこもりつづけるのであった。さて、金が尽きたとき彼はどうなっているか。資本主義って大変ですよね。

とにかく安井さんありきと思わせられる舞台だったんですが、安井さんならこれやれるでしょってああいうホンにした前川さんもすごい。ガチンコです。イキウメ客演常連だった安井さんが正式に劇団員になったのが一昨年。前川さんはこの機会を窺っていたのではないだろうかと思いました。役者・安井順平のプレゼンテーションとしても非常に優れた作品。回想として現れる「訪問者」小野ゆり子さんも、実体を感じさせる存在感で時間軸を狂わせ、印象に残りました。

イキウメ次回は客演に手塚とおるさん、しかもホラー、しかも円形!円形でやった『太陽』の恐怖描写、ホンットに怖くて逃げ出したくなるくらいだったんで期待も膨らむ!