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2013年07月07日(日)
『ドレッサー』

シス・カンパニー『ドレッサー』@世田谷パブリックシアター

二日続けて集中力のある客席、わーい。グローブ座もだけど、天井高いところって客席のどんなちいさな音も響いちゃう感じですよね。その分静まり返ったときの空間の圧が絶大。実際どうなのかは知る術もありませんが、そういう冴えた空気のなかにいる演者と言うのは噛むなんて有り得ない、身体が滑るなんて有り得ない。そして実際そんなエラーは決して起こらない。「飛行機は墜ちると言う乗員全員の思いが一致したその瞬間に墜ちる」って言ったのは誰だったか…その逆版。同じ思いの集中力で場が満ちている劇場は幸福な場所だ。

バックステージものの名作『ドレッサー』。ロナウド・ハーウッド脚本だったんですね。『戦場のピアニスト』大好きで、原作(シュピルマンの回想録)だけでなく脚本も読んだくらいなんですよー。『テイキングサイド』もそうなんですね。どちらも戦時下における芸術家たちについて書かれたものです。『ドレッサー』も、非常時に幕を開ける舞台の様子が描かれます。空襲警報が聴こえてくる劇場、ノーマンは口上で「死にたくない方は」を言いかけ、焦って「お帰りになる方は」と言い換える。錯乱し疲弊した座長の状態だけでなく、芝居が上演される場所もそもそも非常時なのです。それでも幕を開けるか?開けるのです。そんなときに芝居を観るのか?観てるひとがいるんだなーこれが。そういう意味ではどっちもどっち、タガが外れていますな。狂気の俳優、それを支える裏方たち。舞台に立つ者のエゴ、その尻を叩く裏方のエゴ。それを観て好き勝手言う観客。笑えてやがては恐ろしい。どうでもいいがノーマンがカーテンから手を出すところ、『NO MORE 映画泥棒』のあれに似てた(笑)。

大泉さんと橋爪さんが素晴らしいのは勿論、今回三谷さんと初顔合わせの役者さんが多かったようで(女優は全員そうだとか)、それもいい効果をあげていたように思いました。いんやそれにしても、大泉さんのノーマンよかったなー。前半は座長がぐったりさんなので、その周囲であれやこれや世話をやく、殆どひとり芝居か!てな場面が多いんですが、ニヤニヤして延々観てられそうなの。淹れた紅茶が「うすい!」迄の歌といい身のこなしといいもー目が離せません。そして映像で観てると忘れがちだが大泉さんて結構大柄なんだよね、身体のバランスもよくて三つ揃いとかのしっかりした洋装が似合う。翻訳ものと相性いいかも!と思いました。

今回おおっ!?となったのは、画ヅラが非常に映画的だったと言うこと。座長のドレッシングルーム、その廊下、舞台裏と言ったレイヤーを、左右にスライドさせたり舞台ごと奥に滑らせる。これが単なる舞台における場面転換ではなく、映像におけるワイプのように見えるのです。定点の観客視点がバラエティ豊かなものになる。アングルは観客が決めると言う演劇鑑賞の常を逆手にとったような演出でした。特に奥へと滑っていく舞台(の上の舞台)と登場人物たちは、その遠くなっていく画ヅラ、ちいさくなっていく音声とともに、コメディ映画のエンディングのようなおかしみとせつなさを感じさせるものになっていました。劇場機構を巧く使ったなあ。新鮮な驚きがありました。なんだろう…決して画期的!発明!って手法ではないんだけど……絶妙でした。たまたま自分の席がそう見える位置だったのかも知れないけど(1階M列20番)。これ三谷さんのプランなのか、美術の松井るみさんのプランなのかすごく気になるところです。

三谷さんが『ドレッサー』に触発されて『ショウ・マスト・ゴー・オン』を書いたと言うのはよく知られています。『リア王』らしきお芝居の公演初日、舞台裏で起こるトラブルに次ぐトラブル。「幕をおろ」してなるものかと奮闘するひとびと。見事な機転と冷静な判断力で、数々の難局を切り抜ける舞台監督役を演じたのは西村雅彦さんでした。2005年にPARCO劇場で上演された『ドレッサー』でノーマンを演じる西村さんを観て、老境サンシャインボーイズ『リア玉』のことや、三谷さんと西村さんがまた一緒に仕事をすること、三谷さんが『ドレッサー』もしくは『リア王』を演出することをちらりと願ったひとは多いのではないでしょうか。そのうちふたつは現実になりました。残るは『リア玉』です。

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よだん。

グローブ座で客席の音がすごく響く話、ひとから聞いた面白いエピソードがあったの思い出した。どなたかのファンミーティングがあって、最後に「それでは客席の皆さんとご一緒に写真撮影をします」ってアナウンスがあった途端、コンパクトやらファンデケースを開けるパチパチパチ…って音が会場中に響き渡り、「グローブ座って音いいなー!」と思ったそうです(笑)。微笑ましい。

と言えば、菊地さんのPTAまたグローブ座でやってほしいー。なるぴよのタンギングを聴くならここだぜ。移籍に伴い一時縮小とのことだけど、メンバーが減るのかライヴの機会が減るのかどっちなんだろう。