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2013年06月21日(金)
『オセロ』

『オセロ』@世田谷パブリックシアター

いやー面白かった。某公演の「スタンディングオベーションをしてください」話にはドンびきしましたが(しかもこれ複数の公演であったとのこと。ひくわー)、こういう形で観客を参加させる手法は大好きです。逃してしまった『4 four』でもこのような仕掛けがあったとのこと、白井さんの興味は今「観客が観客でいられなくなる空間」に向かっているのでしょうか。以下ネタバレあります。

観客席に設置されている「演出席」。座席に配布されていた、“客席内を俳優が移動したり走り回ったり”“金属缶を大きな音で叩いたり”する、“場面参加の意味から、ご起立のお願いをすることが”ある等と書かれた「ご注意とお願い」。そしてキャスト表には“ヴェニスの議員/サイプラス島の島民……観客の皆様”。劇中劇としての『オセロ』としても観られるので、福田恆存による訳も自然に聴けます。日本語訳としてはかなり古い福田訳をこれだけ滑らかに耳に入れることが出来たのは、出演者たちの台詞まわしが素晴らしかったとも言えます。

この手の観客を巻き込む演出、二度は出来ないと言うか諸刃の剣と言うか、戯曲に対しての必要性がかなり確固としたものになっていないと単なるハッタリに終わる場合があります。しかし今回、観客が目撃者あるいは傍観者として物語中に存在することは、さまざまな効果を生んでいました。何故オセロはいとも簡単にイアーゴの策略にかかってしまうのか?善良に見えるエミリアは何故ああもオセロを口汚く罵ることが出来たのか?そもそも彼女は何故あの悪人イアーゴの妻なのか。そしてこの流れで観て行くと、オセロと娼婦ビアンカの近似性が見えてきます。数週間前、大阪市長の例の問題発言を巡り、twitterで『五木寛之氏の引揚体験』が話題になりました。羨望や嫉妬から生まれるさまざまな感情、無意識の差別意識。物語の登場人物中、これらと全く無縁の人物はデズデモーナただひとりです。そして前述したように、観客はこの物語のただなかに存在し、登場人物として扱われています。白井さん厳しい……。

しかしこうやって、自分のなかにある怪物を再確認し律する機会は定期的にあっていいように思いました。ぐうたらでなまけもので御されやすいからねー自分。逆に、観客のなかに幾人かはいるであろう(そう思いたい)デズデモーナのような心を持った人物が、この演出をどう感じたか知りたいです。

オセロとイアーゴの関係性を主演俳優と演出家の確執として描こうという仕掛けは若干弱かったように思います。それがいちばん強調された、一幕終了後の休憩時間にあった出来事をどのくらいのひとが目撃していたか…仲村さんが演出席にいる赤堀さんのところへ向かってきて少し話をしたあと、机を激しく叩きます。憮然とした表情でふたりは客席から出て行きます。既にトイレや物販コーナーに向かっていたひとも多く、二、三階席のひとにどれだけ伝わっていたかは少し疑問です。ここ以外に主演俳優と演出家の目立つやりとりはないので、最後の最後、演出家が主演俳優を射殺する場面が唐突に思えてしまいました。演出家を演じているときの赤堀さんが、どういった態度で仲村さんを見ていたかをもうすこし見たかった気もします。「演出席」が自分の席の二列後ろだったのでなー、そんな頻繁に振り返れなくて…それでも結構振り返ってましたが(笑)。

そーれーにーしーてーもー水橋くん演じるロダリーゴの愛らしいこと!最後生きててよかったとこんなに嬉しく思ったロダリーゴって初めてよ!パンフでご本人仰ってましたが、確かに「詐欺に真っ先に引っかかるタイプ」ですよ……なんてかわいいの、そしてかわいそうなの…かわいいそうの極みだわ!いやもうよかった。この役にこんなに持ってかれるとは水橋くんマジックおそるべし。いい役だったな……。そして客席内の照明が基本明るい+SePTは客席が見渡しやすいので、イアーゴが「誰がこんなことを!」て言う度「おめーだよ!」と赤堀さんを憎々しげに見詰めるたっくさんのお客さんが見えて胸が苦しかったです…もうねSePTの上空に「お ま え だ よ」「オセロだまされちゃダメ!」って大きな吹き出しが浮かんで見えるようだったよ……もーホント憎らしいよねあかほり(さんの役)!客席から膨大な憎しみを受け取ったであろう赤堀さんの体調がわるくなったりしませんように(涙)。と言いつつ衣裳がロシアの軍服みたいでかわいいわお腹出ててプーさんみたいだわパンフより髪が伸びてるわとかひっそり思っていましたごめんなさい。

それを言ったら仲村さんが格好よすぎてたいへん。なんてえの何やっても「どうしてそんな簡単に騙されちゃうの(格好いいのに)!」「なんでそんな酷いことするの(格好いいのに)!」「なんでそんな愚かなの(格好いいのに)!」てなりますね……下手すると「(こんなに格好いいのに)どうして皆オセロのことあんなふうに言うの……」と思っちゃいそうです。いやいやいや。しかし「これ迄愛することばかりだったので愛されることに慣れていない」って台詞は効いたな……ほろり。白井さんの演出する仲村さんはほんっとに格好いい。と言えば白井さんは一幕ブラバンショ、二幕グランシャーノの二役を演じましたが佇まいからなんからきっちり変化つけてて流石でした。

白井さんの演出には、一時期舞台上にいる役者の立ち位置も動きも徹底的に決められているような圧力を感じていたことがありました。舞台上に存在する美しきものたちを鑑賞することは眼福でしたし、それらの光景をとても愛していましたが、同時に恐怖も感じていました。今回の演出はそこから一歩出たような印象を受けました。井手茂太さんによる振付・ステージングは随所に効果を示し、リズム慣習として栗原務さんがクレジットされているのも興味深く、整理された美しさには磨きがかかっている。しかし、今回は制御と同時に演者たちの自由も感じました。mama!milk(vc、cb、acc)による生演奏も素晴らしかったです。低音メインの弦の響きは安らぎと迷いを同時に感じさせてくれました。

その他。

・オセロに絞め殺されるときドレスの裾がめくれて露になった、山田優さんの脚の細さに目を見張る。ほ、ほっそ!ちょっと我に返った(笑)

有川さんのパンツ事件を思い出したときもちょっと我に返った(再)

・作品世界に没頭しているのに「我に返る」。結構気持ちのよいもので、集中すればする程起こるものです