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2013年06月15日(土)
『不道徳教室』

M&Oplays『不道徳教室』@シアタートラム

おーもりくんが久々にヘンタイ役をやると聞いたときはイヤッハーと快哉を叫びましたね(え)。しかし『効率の優先』を観た翌日にこれを観たもんだから、やっ、おーもりくん大丈夫よ全然ヘンタイじゃないわよ!と逆に応援したくなりましたね…パンフレット掲載の岩松了×高橋源一郎対談にも「そーよねー美しいわよねー」なんて言いたくなるくらいです。『効率の優先』のトークゲストのひとりが岩松さんと知り、やっぱここらへんって繋がっているのねなんて妙に納得してしまったり。ファムファタルと言えば聞こえがいいか?魔性の女に出会ってしまった男たちの道行きはさてどうなる。

開幕、暗闇から浮かび上がったおーもりくんはハゲタカメガネっぽいのかけてる。なんかイケメンよ?イケメンよ?だいじなことなので二度言います。でも女に脚マッサージとかしてもらっててここどういうマッサージ?しかもあれよー店員に横柄な男よーやだわー。そんな男が女子校(おそらく)で国語の教師とか、女生徒にモテモテとか、やだわー(再)。しかしそれよりも気になるのはこの学校の教頭が岩松さんと言うところだ。なんて危険な学校なのか。リップクリームや手鏡と言った小道具もいちいち巧い!ニクい!

それにしても、数日前「傷病帰還兵を見掛けなくなったのっていつくらいからだっけ」と言う話をしていたのだった。小さい頃はよく見掛けたのです。片脚、片腕がないひとが「戦争で怪我をして働けません」と書いた札と空き缶を前に座っている光景。防空壕も残っていて、入ってみようってオリエンテーリングもあった(勿論崩落しないものを選んで、監督付きで、そんなに奥には入らなくて)。ちなみに遠足で陸軍墓地にも行ってます。地方にもよるのかな。戦争がまだ身近にあった。じゃれあうあかねたちは高校生と言うより中学生くらいの幼さに見えた。同時に大人の片鱗も見せる。これは個人的にはポイント高かった。現代の高校生は、数十年前の中学生くらいのメンタリティなのではないだろうか。そして印象としては、高校生よりも中学生に手を出す教師の方がヤバさが増す。ローティーンのような無邪気さと残酷さを持ち合わせる女学生たちが、傷病兵をまるで捨て猫のように隠れて飼う。川端康成の『みずうみ』をベースに書かれたという本作、時代設定は昭和なのか?と一瞬混乱。しかし携帯が出てくるのでやはり現代かと思いなおす。ここ数年、戦争について書くことが増えた岩松さんの無意識が働いたのだろうか。その奥にあるものとは何だろう?

岩松さんの作品には、いい大人の男たちが周囲が気味悪いと退くくらいじゃれあう場面がよく登場する(『市ヶ尾の坂』とかが顕著)。今回その図式が女学生たちに当てはめられていたのも見どころでした。その光景の楽しいこと!意味があるようでないようで、言葉のやりとりから仕草のやりとり、それがシンクロしグルーヴを生む。最初「???」となった観客たちも、次第にその場を楽しみ始める。そして三人の女学生の輝きと言ったら!三人がそれぞれ自分の得意分野であろう動きを見せる場面があるのだが、趣里さんのバレエ、大西さん、二階堂さんの格闘技的な動きにははっとさせられた。舞台で見せる型を心得ているキレがあった。うわあ、たまらん。

あのーぼそっと言いますが、昨今若手ちゃんが舞台に出てがんばってる様子を観る楽しみってのもあるけど、やっぱり舞台で自分の動きがどう見えるかってのを心得てないひとは観ていてだらりとしてしまうのですね…こういうとこって本人だけの問題ではなく、演出家がちゃんと見てアドバイスしてあげないといけないと思うのです。こう動け!って振り付けるのとはまた違うことで。今回その部分の岩松さんの力量を思い知らされた。岩松さんが若手役者と組んだの久々に観た…2005年の『岩松了3本連続公演』以来かも……ので、そうだーこのひと役者をちゃんと育てるひとだったーと改めて思いました。

そんな彼女たちと、彼女たちにグレイと名付けられ舞台にその姿を現さない傷病兵。生と死の谷間を森の奥で見付けてしまったかのように、三人は秘密を共有する。その森に迷い込んだ山城の人生はその後どんなものになるのか。社会との接点を失い、多分あかねをも失う。ラストシーン、ゼラニウムをはじめとする鮮やかな赤い花に囲まれて立ち尽くすあかねは山城が見た幻か、それとも。ふとあかねの姿に『シブヤから遠く離れて』の娼婦マリーを思い出しました。また会えたような気がして嬉しかった。使用曲のカエターノ・ヴェローゾ「Cucurrucucu Paloma」(ペドロ・アルモドヴァル監督作品『トーク・トゥ・ハー』のあれです!)も印象的でした。

戯曲は『悲劇喜劇』2013年7月号に掲載。この岩松了特集号、充実の内容です。まさに永久保存版。岩松さんが気になる方、是非。