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2013年02月24日(日)
『2013年・蒼白の少年少女たちによる「オイディプス王」』

さいたまネクスト・シアター『2013年・蒼白の少年少女たちによる「オイディプス王」』@彩の国さいたま芸術劇場 インサイド・シアター

いやー、凄くよかった……。『ハムレット』(一回目二回目)は昨年観た舞台のベストワンでしたがこれも相当です。もうネクストシアターはリピートを念頭においてチケットとった方がいいかな。今回はスケジュールが混み合ってて初見が千秋楽だったんだよー!しかも「オイディプス役とクレオン役を川口覚と小久保寿人のシャッフルで稽古してます。さあどうなるでしょー」みたくレポートされてたところ、開幕直前になって「ダブルキャストでいきます」とアナウンスされてのたうちまわったね。両ヴァージョン観たかったよよよよよ。

第四回公演にして初の客演なし。過去の本公演『真田風雲録』『美しきものの伝説』『ハムレット』は過剰な装置や仕掛けで役者たちにハッパをかけていたが、今回のセットはテーバイの風景を描いたバックドロップのみの裸舞台。衣裳もシンプル。思えばネクストシアターには、蜷川スタジオ、ヤングニナガワカンパニーと言ったこれ迄の若手集団とは違うハードルが課されていた。古典作品を真っ向からぶつける。口語表現ではない台詞を乗りこなし観客の耳に届ける、無意識の域に迄持っていった所作を観客の目に届ける。これが効果をあげている。そして人間が抗えない存在=神が存在するギリシャ悲劇を成立させるには、役者の熱量が必要だ。どうしても変えられない運命に立ち向かう。斜に構えている余裕はなく、あらゆる感情をさらけ出す。

コロスは身体ひとつに背負った三味線を慟哭とともにかき鳴らす。「私たちは若いのです」と言う台詞が痛切に響く。舞台を持て余さない程の力を役者たちは身に着けている。カオスに満ちた光景、これはアガる!

観た回はオイディプス=小久保くん、クレオン=川口くん。小久保くんは『ハムレット』のホレイシオ役でのクレヴァーな台詞まわし、それと相反するキレのよい身のこなしが印象的で、一気に認識した役者さん。次のザ・ファクトリー2『火刑』では繊細な感情が一挙に崩壊する激しさに驚かされたものでした。民衆にウガーと火を噴くようなエモいオイディプスをどうやるのかな…と楽しみにしていたのですがこれがよかった!全身の力を声に載せているような迫力で、決して通りがよくはなく若干ハスキーな声(でもこのひとの声好きだなあ)が、台詞の意味を伴いスパンと頭に届きます。と言うか、頭にねじ込まれる感じすらした。上半身裸の装束だったので、台詞を発する度に肩甲骨が大きく動くさまがよく見え、声が視覚を伴っているかのようでした。また綺麗な身体つきなんですよね。マッチョではない、無駄なくついた筋肉が、薄い皮膚の下にあると感じさせる。バレエダンサーのよう。しかもちょー運動量多い(笑)舞台をコの字型に囲む客席の階段を駆け上る、駆け下りる、クレオンをはったおす、ティレシアスをふんづかまえる、イオカステをしがみつくように抱きしめる。栗原直樹さんの名前がスタッフクレジットにあったので、アクション指導は栗原さんだったのかな。身体のキレも存分に発揮、ホントこのひと動きが美しい。あとキスシーンも綺麗。いやーいいわーこのひと。『盲導犬』への出演も決まっているので楽しみだ!

クレオン川口くんは基本抑えの演技、しかしオイディプスと対立するときの姿勢に鋭さを感じさせます。小久保くんとのやりとりが多いので、ハムレットとホレイシオの関係性を、逆の立場になって見ているよう。家族でもあり、友人でもあり、理解者でもある。盲となったオイディプスへの毅然とした振る舞いがまたよくて、彼からこどもたちを引き離すときの残酷なシーンにも、やむを得ないが上の優しさを感じることが出来ました。いやーしかしこうなるとやっぱオイディプス=川口くん、クレオン=小久保くんのヴァージョンも観たかったわ…どんなだったんだろううわーん。

コリントスからの使者役、松田慎也さんは受けの芝居がどんどん巧くなるなあ。ユーモアを交えたキャラクターで、しっかり笑いもとっていた。ネクストから役者を志したとは思えん…長身だし、もともと姿がいいひとなので中央に立つ芝居でも惹き付けられるし、コロスやってるときにも目が行ってしまいます。そして巧いと言えば手打隆盛さん。こちらはネクストに入る前から舞台経験豊富だった方で、ネクストの老け役を一気に請け負っている印象です(笑)。ふたりとも既にニナカンのプロデュース公演に出演しているし、これからもその機会が増えていくのでしょう。土井睦月子さんも同様で、今回の宣美にあるよう男ットコ前な美形でもあり、母、妻と言った役をセクシュアルな色気を漂わせつつ演じられる貴重な女優さん。てかこれ迄ハムレットのガートルード、今回のイオカステと禁忌の愛に身を投じる役が多いので(『話してくれ、雨のように…』でもワケあり女性役だったしね)、逆に現代の若者の姿としての彼女を観てみたいと言う欲求も沸きました。

蜷川さんがいらしてました。この公演の稽古中に入院、それについての報告と挨拶が客席に配布されていました。演出補は井上尊晶さん。こういうことはこれ迄にもあったし、これからもある。蜷川さんがやりたいこと、形にしたいことをスタッフや役者たちが汲み取る作業も多くなる。それがどのくらい伝えられるかを観ていくことにもなる。退院されてひとまずよかった、おだいじに。まだまだ蜷川さんの作品、沢山観たいのです。客席から蜷川さんを見付けた吉田鋼太郎さんが、ほっとした笑顔を向けて挨拶していたのが印象的でした。四月の『ヘンリー四世』に鋼太郎さんは出演されます。稽古が始まるのももうすぐなのでしょう。

その鋼太郎さん、カーテンコールでスタンディングオベーション(そうスタオベありましてん、予定調和じゃないやつ)。気付いた出演者の顔にぱあっと花が咲く、小さく手を振る。そういえばネクストシアターの千秋楽観たのって初めてだったなあ。キリキリと切磋琢磨しているのだろうな、と思わせられる舞台上の彼らからは想像もつかないかわいらしさ。小久保くんも今度はあなたが前に出なさいよ、みたく他の役者さんを前に押しやったりしてて、それがペンギンのおしくらまんじゅうみたいで微笑ましかったわー。そんな普通の若者である彼らの姿を垣間見られたことになんだかジンときました。

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その他。

・思えば『オイディプス王』で涙したのは初めてだったよ!物語をすっと心にしみ込ませてくれた演者の力もあろうが、何かしら、歳かしら。こどもの泣き声に一緒にえーんとなったよ!

・つうか両目抉って血ーだらだらのおとーさんてショック過ぎる。おかーさん首吊って死ぬし…てかそういうとこもこれ迄はあんま印象に残ってなかったわ…(ホンのヴァージョンが違うものなのかも知れないが。私が過去観たのはソフォクレス作、山形治江訳で、今回はホーフマンスタール脚本、小塩節、前野光弘訳。あ、あと山の手事情社の翻案で観ているのを今更思い出した。それ言ったらZAZOUS THEATERの『Thirst』も翻案だが)それこそイオカステの最後はギリシャ悲劇の常で「報告」されるだけなのだけど、その台詞がいちいち刺さってなあ……
(追記:『埼玉アーツシアター通信 No.43』にホンと訳のヴァージョンについて詳しく書いてあった!→PDF版P6-7

・終演後。
「酷い話だよねー」
「ほんっと酷いね!くるぶしに穴開けてひもで繋いでとかもう酷過ぎ!オイディプス可哀相!おとーさんもおかーさんも、育てのおとーさんもおかーさんも羊飼いも可哀相!」
「そもそもさあ、オイディプスを殺そうと考えなきゃよかったんじゃん?神さまは試したんだよきっと!」
「……!(ソノ発想ハナカッタワ)」
「そんな神託あってもこどもを見捨てたりしません!て言ったら神さま『よおしおまえたちの愛は本物!幸せに暮らせ!国も繁栄!』とか言ったんじゃね?」
「……そ、そうかも………神さま気まぐれだよね………」
「ギリシャのひとたち神さま信じ過ぎ!(そんな身も蓋もないことを)」
「あーなんでこうギリシャ悲劇とかシェイクスピアとか、神さまが出てくれば解決とかもー!腹立つ!オイディプス可哀相!(ループ)」
古典劇の理不尽さを現実に結び付けて世間話のように話せる楽しさ

・あ、あとね『セルロイド レストラン』に繋がるような台詞があってわあーと思った。楽観的に生きることについて。人生の対処法て2500年前から変わらないのねー

・80〜90年代の蜷川さんとこには宇野イサムさんと言う作家がいて、このひとの作品はどれも好きだったなー。『待つ』シリーズや『春』のなかの、ちょっと不思議=SF?な短編の数々。ネクストシアターは若手のスタッフも育てているようですが、作家は在籍させないのかな。古典劇での表現が身体に馴染んできたら、現代劇作家の作品上演もあったりするかなあ

・カフェペペロネ、本日はチキンマカロニグラタンをいただきましたー。具がごろごろー!おいしかったー!強風で埼京線が遅れて焦った。いつもはペペロネでごはん食べたあと館内を散歩するんだけどその時間がなくなり、パネル展を観られなかった(泣)