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2012年02月28日(火)
『2012年・蒼白の少年少女たちによる「ハムレット」』2回目

さいたまネクスト・シアター『2012年・蒼白の少年少女たちによる「ハムレット」』@彩の国さいたま芸術劇場 インサイド・シアター

と言う訳ですごい勢いでリピートしてきました。あああ、あと何度か観たいくらいだったがもう無理だ…いやリピート出来ただけでも有難いと思おう。観られてよかったよー!この劇場でソワレ観るのっていつ以来だ…さい芸での蜷川作品って4時間前後あたりまえなのでいろいろと恐ろしくて(『エレンディラ』初日の話はwebで読んでヒィとなったー)マチネばっかりとっている。

しかし活況、満席。座布団席も出ていました。リピーターもいるようだし、評判を聞きつけてやってきたひともいるのかな。だとしたら嬉しいな。客席の雰囲気もよく、快適に観劇することが出来ました。週の頭、平日の夜にやってくるひとってそれなりの舞台好きだろうし、しっかり観ようと思って来ているひとも多いだろうからなあ。

……なんてことを思ったのも、いやその、前回席運が悪くてですね。開演前から後ろの小学生がおかーさんと「携帯切れって言ってるよ」「いーやー!絶対イヤ!」「じゃあブルブルにしとけば?」とか言ってる。うわーどうするべと思ったがその後すぐ開演してしまい、案の定ブルブル鳴らしやがりました。そしてまー終始落ち着かない落ち着かない。喋る脚をバタバタするトイレに出る喋るチラシ束落とす喋る……助けてくれー。正直これはキツかった。てかなんでそんなに携帯切りたくないのん…それはそんなに大事なことなのん……おかーさんも連れてくるんならそこんとこ頼むよ(泣)。

もっと平日に来られたらいいんだけどな、しかしそこは社会人なので限界がある。作品の評判が伝わってからもチケットが買える(ギリギリだったが)のは健全でいいな、でも通常、チケットが最初っからじゃんじゃん売れないと興行側としては困るから話題性を先行させないといけないのかな。カンフェティの割引お知らせとか見てるとどんよりするよな…最初っから割引狙って通常価格で買わないひともいそうだし、悪循環だよなあ……でも空席があるのは悲しいし。やってる側としては客席が埋まってた方が嬉しいだろうし。演劇のチケットって高いもんなあ…でもそれだけのことをしているから高いのであって、だからこそ、目の前で生身の人間が演じていることに対して敬意が必要だよなあ……。

うーむ、昨今の演劇業界事情迄考えて悶々としてしまった。気軽に観られたらいいけど、安易に観るものではないなとも思ったりもします。難しい。

ものすごく話が逸れた…しかしまあそんな環境のなか入り込んで観られたのだから、この作品にはそれだけの力があったと言うことですな!だからリピートしたくなったんだしな!黒幕が取り払われアクリル板に仕切られたステージが現れた途端、客席のあちこちから「おおお」と言う低い声。うわーこういう反応って楽しいよ、開幕です。

今回のハムレット、台詞の意味がズバズバ頭に飛び込んできます。言葉がちゃんと視覚化され、理解出来る感じ。例えば初っ端、ホレイシオの台詞「少なくとも、手はここに」。地下から上がってくる途中のホレイシオが、ハッチに手を差し上げるのね。わ、わかりやすい!初めてこの台詞を咀嚼出来たと言ってもいい!いや理屈では、遅れがちだけど来てるよー+ジョークだよーって解釈は出来るけどさ、こういうところって流しちゃいがちじゃないですか…シェイクスピアの書く台詞は終始飾り立てられた言い回しなのだから。今回の河合祥一郎訳は2003年の蜷川版『HAMLET』、同じく2003年のジョナサン・ケント演出、野村萬斎主演の『Hamlet』で聴いているものですが、演出ともども興味が行く部分が変わります。萬斎さんは訳にもかなり意見を出したそうで、アドリブ的な部分も多かったように思います。いろんな『ハムレット』を観たけど、ローゼンクランツをスポンジくん呼ばわりする言い回しは萬斎版以外で聴いたことがない(笑・スポンジって言葉自体は戯曲にあるのですが)。「寝殿で死んでんのか」等のたたみこむような駄洒落の連打はそのまま使われており、言葉遊びを原文から日本語へ訳す際の工夫を楽しめます。

前回書いたように滑舌があまりよくない役者もいるのですが、それでもちゃんと言葉の意味は伝わります。この辺りは蜷川マジックだなと思う。台詞の意味とそれを表現する役割が、どの演者に適合するかを的確に判断し、配置している……。そしてこの作品、役者論、演劇論としての台詞も多いのです。「役者というものは、時代の縮図」「作り事の、絵空事の熱情に全身全霊を打ち込んで、想像の世界に入り込み」「秘密を守れない。何もかも話してしまう」。若い役者たちが心に留め、口にする言葉としても理想的。このカンパニーで『ハムレット』をやることの意義に感じ入りました。

と言えば、その辺りのローゼンクランツの台詞に、今の演劇事情について言っとんのか!てな痛烈な揶揄があるんだけどカットされていたな(苦笑・都の役者たちがどさまわりを余儀なくされた理由)。

そうそう、滑舌悪いとか絶叫多いとか書いておいてなんですが、まっさらのど素人が出演している訳ではないので、破綻はしないのです。若い集団としてのポテンシャルはかなり高い。あれだけ叫んでも喉潰しているひとがいないしね…何げにすごいことです。それはこまどり姉妹が現れるシーンにも感じました。ガッツリ「幸せになりたいの〜♪」に持ってかれてしまうハムレットとオフィーリアですが、彼女たちが去っていったあと、カオスにまみれた空間を一気に自分たちの世界に引き戻すことが出来た。観客もそれを敏感に察知し、すぐに劇世界に戻れた。タフな状況、高い要求に力強く応えている彼らは、単なる「無気力世代の若者」ではありません。

前回は上手側ステージ後方、今回は下手側ステージ前方から観ました。あー正面からも観てみたかったー。隠れていた役者の表情を違う角度から見られる。弦楽セレナーデのシーン、ハムレットとオフィーリアがあんなふうに離ればなれになっていたんだー!と気付いてどわーと泣く。ぎゃーんハムレットに手を伸ばすオフィーリアの表情が悲痛極まりない!なのになんであのタイミングでハムレットの手を握るんだよホレイシオ!なにすんじゃー!ハムレットも手を伸ばしかけてたのにー!はあはあはあ、このときは一瞬小久保くんを恨んだね…いかん、役と中のひとを混同しがちだ。それ程いい芝居だったってことよー。それはともかくホレイシオ以外の全員が退場していくなか、ハムレットの周りだけ時間が止まっているかのように見えた。その静謐な立ち姿、叔父の真実を眺めやる光景の悲痛さ、美しさ。素晴らしかった!

フォーティンブラスがハムレットの遺体へ敬意を示すシーンは、2003年版の小栗くんのプランが踏襲されていました。「休憩時間、遊びで演じていたらこの役に抜擢された」と中西くんが言ってましたが(後述の『人生教室』参照)、何それ小栗くんのものまねでもしてたの…?(笑)

以下おぼえがき。

・アクリル板越しのレアティーズとオフィーリア、クローディアスとレアティーズ、ハムレットとオフィーリアは、視覚的にも図式的にも興味深かった。親愛の情を手を差し伸べ合うことで表す兄妹。誓いの挙手、それに応じる身分の違い。そして手を伸ばしても伸ばしても壁に阻まれ、心が届かない思いびと。いやホントこれは素晴らしいセットだった

・ラストの楽屋風景、川口くんと深谷さんが談笑しているのが見えて「わあふたりとも生きてるー、笑ってるー、よかったねええ」なんて思ってしまったよー(バカ)
・土井さんもパーカーに着替えてかわいい表情。そだよホントは若いんだよこのひと…じょ、女優!
・緑のジャージのホレイシオ(笑)
・ホレイシオ、重心を低くしたときにきちんと腰が入りポーズが決まる。演じた小久保くんのプロフィールには「和道流空手二段」の文字。なんか納得した……
・いやーそれにしてもハムレットとホレイシオの衣裳よかったわ。ハムレットの衣裳とか、フツーにヨージの服みたく着たまま出歩けそうだよ。ブーツも格好よかったー。ホレイシオのボトムもタイパンツみたいな幅広で、上がジャージになっても似合う(笑)
・こまどり姉妹、本日のお着物は黄色。土曜日は黒を基調としたものでした。検索してみたら桃色の日もあったそうで、一体何種あったのー!

・そういやフォーティンブラスくんは鎖じゃらじゃらだから肩や背中にぽつぽつミミズ腫れが出来てますな
・オフィーリアの綺麗な脚にも痣がー(泣)あれだけどこそこぶつければね……
・ガートルードの肩のミミズ腫れは、まさに劇中で出来たっぽく「あれっさっきなかったのに?ひっかけた!?」とオロオロした
・この日は群衆のひとりがハッチに衣裳の裾ひっかけて転びかけたのにもヒヤリとしたー。床が透明なので、客席の位置からだとハッチが開いてるのか閉まってるのか判りづらいんですよね。気を付けてー
・茂手木さんもこんな感じで怪我しちゃったのかな。降板はホント残念だよ…おだいじに
・皆怪我なく千秋楽を迎えられますように!

・どうでもいいがアクリルの床、下からだとこんなふうに見えるのかなー(笑)
- IDEA*IDEA『猫の下ってこうなっていたのか・・・』
- 日本野良猫協会『香箱座りの底はこうなっている!!』

あと自分用メモ。

■asahi.com:マイタウン埼玉『蜷川幸雄 人生教室』
・(上)愛情の罵倒
・(中)集団に生きろ
・(下)世界と出会え
・(番外編)いい初日 あすも挑戦

■日経新聞劇評
・蜷川演出の核心にある視線の力
これ、自分の感想とは真逆なところもあるんだけど面白かったしすごく興味深く読んだ!川口くんはちょうエモかったと感じたし、ハムレットを見上げるこまどり姉妹は、若い世代を愛情を持って案じていたように感じたよ。しかし成程、この解釈にも頷ける

あと今出てる(もうすぐ次が出ちゃうけど)シアターガイドの記事が面白かった。