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2012年12月15日(土)
『ポリグラフ 嘘発見器』

東京芸術劇場リニューアル記念 iii×三−1『ポリグラフ 嘘発見器』@東京芸術劇場 シアターイースト

芸劇リニューアル企画、3人芝居3本シリーズの第一弾。いっや面白かった…緊張感溢れるスリリングな105分。心理サスペンスとしての緊張感、演者が何をするか読めない緊張感、舞台がどう変容するのか?と言う緊張感。チームフキコシ(今回吹越さんが『ポリグラフズ』と命名しておりました)キレッキレです。フキコシソロアクトのセンス、スキルがこういった形で結実するか…いや、なんて言うんでしょう、チームフキコシなら期待通り…いやなんだろうこれも違うな……なんて言えばいいかなー。

普段このチームはこれらのセンス、スキル、探求魂を笑いと下ネタに全部ぶっこんでる訳ですよ。それらがシリアスな舞台に活用されるとこうなるんだ!と言う驚きと喜び?「すごいっしょ!?すごいっしょ!?」と言いふらしたくもなりますね(おまえの手柄じゃねーんだよ@愛がなくても喰ってゆけます。)。と言う訳で今回これを観て「高尚なアートだわー」と思ったひとはソロアクトを観に来て「下品なアートだわー」と思えばいいじゃない。高尚も下品もアートです。格好いいぜ。

カナダ・ケベック州出身であるロベール・ルパージュの作品『Le Polygraphe』。カナダの公用語は英語と仏語。冒頭、日本とフランスの血が流れる太田緑ロランスさんが仏語と日本語をまじえ上演中の諸注意をアナウンス。しかしところどころ、おかしなことを言っている(笑)。この形式で上演するのか…?と思っていると吹越さんと森山開次さんが登場、吹越さん曰く「こうやって聴いてると、なんだかフランス語がわかるような気がしてきますよね」などと面白いことをボソボソ話す。「勿論フランス語で上演するつもりでしたが、やめてくれと言われたので僕と森山さんはホッとしました。ね、森山さん」。緊張した面持ちだった森山さんの表情がちょっと和み、こちらもリラックス。「では、はじめます」、地続きで作品世界へ連れ込まれます。

話逸れるがこの辺り、『ヒッキー・ソトニデテミターノ』に吹越さんが出演したときあー吹越さんてハイバイのこういうとこにも通じるもんがあったわーと思いました。今回映像もムーチョ村松さんだったしな。以下ネタバレあります。

殺人事件が起こり、第一発見者の青年が嘘発見器にかけられます。クロかシロかの結果は青年には知らされません。事件は迷宮入り、しかし青年は自分がずっと疑われているのではないかと言う不安を拭いきれず、次第に変調を来していきます。彼の隣人であり友人でもある女優は、その事件をもとにした映画の主役に抜擢されます。撮影の帰り、駅で飛び込みに遭遇してしまった彼女はパニックになり、男性に助けられます。彼は青年を嘘発見器にかけた人物。男女三人の、愛、セックス、疑念が交錯します。

ストーリーのおおまかな流れはこんな感じ。しかし元のホンからかなり構成を変えたようです。時系列と地域を交錯させ、映像と演者の肉体でそれらを把握させる。東ドイツの壁を越え、ケベックの城壁周辺でデート。レストランで食事のテーブルにつき、自宅のテーブルでコカインを鼻から吸う。絡まった謎が少しずつほどかれていく。映像が映し出されるのは、白い壁面、演者の白い肌。舞台においての映像の使い方って、日本ではケラさんと吹越さんが群を抜いているように思う。

そしてその映像や小道具の見立てには、まず演者の身体ありき。太田さんがバスローブをはらりと落とした幕開けのインパクトは、次はどうくる?この身体の見立てはこれだけでは終わらないだろうな、と考えるスペースを頭の隅に作ります。実際それは森山さんと吹越さんにも起こり、演者の身体を意識させ続けて舞台は進みます。

吹越さんがソロアクト以外の演出をするのは初めて。つまり他人を演出するのは初めてだったそうですが、今回の作品は件の映像や小道具の見立て、と言った段取り的な舞台構成の認識を一致させるだけではなく、演者同士が精神的にも身体的にも密なコミュニケーションをとっていないと成立しないものだったように思います。プランを提案した吹越さん、初の他人演出で果敢なチャレンジ。受けた森山さんと太田さんも格好いい。出来上がったシーンの美しさと言ったら!これは是非実際に目にしてほしいです。舞台で観てほしい。吹越さんの作品は体感と言う言葉がよく似合う。

しかし『THE BEE』のときにもひっそり思ったが、身体が露になると東洋人と西洋の血が入っているひとの腰の位置の高さ、脚の長さの違いにはいろいろと考えさせられました…吹越さんも森山さんもプロポーションいいんですが!太田さんの脚の長さが!見とれてしまう程の美しさで!いやでも出演者三人とも、美しい身体だなとしみじみ。

あと森山さんがこれだけ台詞を使うのを観たのは初めてでした。いい声の方ですねー。やっぱり声も身体の器官。そうそう、音響も音楽(鈴木羊さん)も毎度乍ら冴え冴えでした。サントラ出るそうで、楽しみ。

舞台は常に緊張感に満ちていましたが、クスリと笑えるところもありました。『ケベック・シティの観光案内』とか、あとどのシーンだったか、どシリアスなシーンに演歌ぶっこんできてたでしょう?真顔で茶目っ気、吹越さんの好きなところ。前述しましたが、ソロアクトではエグい下ネタが多いけれど、それらを今回のように恋愛における右往左往に置き換えると思わず納得してしまう部分もあり、切っても切れないふたつの繋がりが浮かび上がって面白い。

しかしこうなってくるとルパージュの演出したものはどんなものなのか気になりますね…彼も自ら舞台に立つパフォーマーですし、映像の魔術師と呼ばれる演出家です。ルパージュは芸劇での公演経験もあるし、フキコシ版とルパージュ版同時上演なんていつか実現すればいいなとも思いました。

ちなみに記憶が間違っていなければ、吹越さんのソロアクト初のビデオリリースは1992年、『吹越満 ライブ イン フランス 腹切りカフェ』。ドーヴィル映画祭に招かれたときのパフォーマンスが収録されています。「なんで呼ばれたかわかんないんですけど…僕の芸風、フランスっぽいとよく言われるんですよね」と当時話してました。二十年後、フランスとこうやって繋がるとはなあ。いい話。今度は『ポリグラフ』をフランスに持っていければいいのに!

その他。

・東側諸国についてやマトリョーシカが出てきて、ロシアかぶれ中としてはニヤニヤした

・着いてみれば最前列センター。間近で観られたのは嬉しかったけど、全景をひきで観てみたい!リピートしたい……

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極東最前線/巡業2012『ゼロ番地から彼方の空まで』@Shibuya O-EAST

ううう、年の瀬に聴けてよがっだー!

今回三人全員MCがあると言うある意味貴重な…それほど言っておかなくてはならぬ!と言う思いがあったんでしょうね。歌にも演奏にも、そんな切実さ。終演後、外の冷たい風も心地いい。荒野に針路を取るのだ、夜明けを待つのだ。