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2012年12月12日(水)
『生きちゃってどうすんだ』、DCPRG

カンフルと言うかドープと言うか。年末進行と言う名の竜宮城を出て、300歳くらい歳とった気分と清々しい気持ちが混ぜこぜになった状態でいきなり観るにはかなり強烈な二本。昼から下北沢へ出掛ける途中、号外がまかれる光景を目にした直後、と言うのも…ご本人が意図しないこと迄召喚してしまった感じで……流石にゾッとしましたわ。

とは言え、こういうことはままある。

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大人計画『生きちゃってどうすんだ』@ザ・スズナリ

まああれだ、モチーフであってテーマではない、現在を見詰める劇作家はそれらをつかまえる確率も高い、と言うことから決して珍しいことではないけれど、当日に観るとギョッとするよと言う話ですね。それにしたって号外の両面。演劇にカナリア的な要素はあるものだし、それにいちいち意味を見出してしまう見方もちょっと自分でもあかんなあとは思うものの、流石に当日だとなんとも……。言葉の端々にはっとし、ラストシーンを凝視する。

しかしあのラストシーンは格好よかった、絵的にも(笑)。登場人物がどんな姿をしていようと、あの走る姿は美しい。このシーン、天久聖一さんの絵心も冴えてた。シビれた。

「死んじまえ」でなく「生きちまえ」が呪いの言葉として有効な世の中。いや、それはずっとそうなのだ。生きてる方がしんどい。rest in peaceとはよく言ったものだ、どちらが安息を得られるかと言ったら?自明のことだ。ひとは生きていることこそが喜びだと思おうとする。そうだろうか?…松尾さんは、ずっとそれを描いてきていたし、世の中の隠されている感情に対して目を閉じることはしないのだろう。暗い穴を見詰め続ける。見付けたものは引きずり出す。それは笑いとともにある。やっぱり新しい命がやってくるとほっこりしたり、命が消えようとするとそれを少しでも先に延ばそうと手を掴んでしまう。その繊細な、でもやっかいな心の動きを、松尾さんは丁寧に掬っていく。

こまごまとした小ネタも松尾さんの真骨頂と言う感じですごくよかったな。しにんちゅにいちばんウケた…シャイニングも好きー。あと「美しい姉たち」の名前が後の家系図(このヴィジュアルがまた、件の人物が起こした事件の相関図を思い起こさせる訳ですよ)で判明するのですが、あ、あの三人か、そうか。と言う。そこが別に言及されないとこもまたいい(笑)。

劇団の面々が映像出演、なんと新井亜樹さん迄!ひ、さ、び、さ!!!嬉しかった。『ウェルカム・ニッポン』を観られなかったので、個人的にはこれが今年の大人計画本公演。いいもの観られた、観られてよかった。

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DCPRG YAON 2012 追加公演@新宿BLAZE

ゲストにSIMI LAB、大谷能生。

いろいろ考えることてんこもりの濃い内容だったが、一晩寝て思い出すのは「プレイヤーもオーディエンスも皆大儀見元、大儀見元で検索するとどんなことも解る」と、菊地さんのあれは素肌ジャケットですか?と言う……。かなり好みのパターンなジャケットだったんですが、下にシャツ、着てましたか?長渕、長渕なのか。

DCPRGのライヴの日には社会情勢になんらかの動きがある、と言うのは昔からの定説でしたが、本日もミサイルが飛びまして。前にもテポドン飛んだ日とか、いろいろありましたよね。しかし今回それに対しての言及はなく、ニコ動で配信されていたからと言うこともあるかも知れないが、この辺り今期のDCPRGのセットリストから「Hard Core Peace」が消えたことと同様、象徴的なことのように思っている。メランコリーが、薄い被膜のように場を覆っている。それが哀愁としての色気にもなるのだが。

とは言っても演奏面はどんどん傭兵が傭兵らしくなっていき、となると同時にああやっぱり戦争が起こるのだな、とも思う訳です。よく出来た構造だな。さてこの妄想はどこ迄続くか。

「Circle/Line」のアウトロが大儀見元(本体)と田中ちゃんと千住くんの絡みになっていたり、久々「Catch22」アウトロで千住くんのソロが聴けたり、ラップが噛んでくるとアリガスへの負荷が増すのだなあと思ったり、類家くんのソロをここにぶっこんでくるか!と思ったり。田中ちゃんが相当いろいろ変えてきてるなと思ったけれど、それは単に今回田中ちゃんがよく見えるところにいて、リズムのガイドとしていたからかも知れない。ああ、観ているときはいちいち憶えているよう意識していたのに、大儀見元で全部とんでしまったな(笑)。あと研太さんのダンスがかわいかったです。

あ、そうそう研太さんから思い出した!「Duran」導入、アミリ・バラカの声を左手に収めんとCDJを操る菊地さんと、それに瞬時に応えていく田中ちゃんの絡みがすごくよかったんだ。リズム感覚のリテラシーが一致しているふたりのスリリングな応酬。

BLAZEいいとこでした。見やすいし、音もよかった。10年前『殺し屋1』を観た新宿ジョイシネマ跡に出来たライヴハウスです。こんな形で再び来ることになるとはなあ。そしてこの場所、菊地さんファンにはよく知られている?(『歌舞伎町のミッドナイト・フットボール』参照)ホテルケントの跡地でもあるのです(現在はホテルウィングになっている)。この辺りも言及しなかったあたり、いろいろ思うところがあります。歌舞伎町も当時とは随分変わった。

しかし彼はこう書く。「先の事は本当に解らない。ので素晴らしい」「よしんば、結果として先に悪い事が待っていたとしても。だ、先が解らない事は人類の唯一の希望であり、喜びである」。

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うーん、いいハシゴだった。