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2012年09月28日(金)
『LYNX Live Dub』Vol.2『MYTH』

『LYNX Live Dub』Vol.2『MYTH』@SARAVAH Tokyo

配役は父=篠井英介、息子=菅原永二、友人=中山祐一朗、弁護士=佐藤誓。上演台本はこちらからダウンロード出来ます

『MYTH』と言えば、個人的には照明がいちばん印象に残っている作品。ストーリーも演出も演者も、愛情を感じる程に大好きなのだけど、あの「父の家」の扉を開く幕開き、そして扉を閉める幕切れを、照明で表現したことがとにかく鮮明に記憶に残っている。抽象の「扉」は音楽とともに、それを開閉する息子の心情すら情景として浮かび上がらせた。思えば照明で涙ぐんだのも初めてではなかろうか。

今回その指定が上演台本になかったことにまずハッとした。倉本泰史さんの、スズカツさんとの長いコンビネーションを思って感慨に浸る。

そしてあの照明は、円形劇場でステージの真上から照らされてこその効果があった。こどもの城とともに青山円形劇場がなくなる、と言うニュースを知った当日、サラヴァへ向かった。菊地成孔の言葉をなんだか思い出していた。「どんな人生にも、チークタイムは存在する」。

基本登場人物が目を合わせないリーディングであり乍ら、数箇所目線の動きがあった。それが「その役として視線を送らずにいられなかった」が故の動きに見え、好感が持てた。

そしてリーディングならではの緊張感を、篠井さんの笑い声が緩和してくれた。そう、篠井さん、笑うんです。今回フロアにある演者用と思われる椅子がキャストの数と違うなあと思っていたら、篠井さんはなんとテーブル席の観客とご相席。篠井さんがするっと席に着いたので、そこのお客さんがひっとかひゃっとかちいーさな声をあげ(そりゃ狼狽えるよね・笑)ドリンクをどかそうとする。途端に篠井さんがそれを手で制して「大丈夫です」と囁いた。ほんの二〜三秒の出来事。あっと言う間にフロアに溶け込んだ。そして息子と友人のやりとりにくすりと笑い、息子と弁護士の会話にふふ、と笑う。篠井さんは役としてリーディングに参加していると同時に、聴衆としてもフロアに存在していた。

そうやって聴いていくうちに、この作品の暖かさと明るさを再確認する。菅原さんと中山さんの会話のテンポのよさもそれをより明確にしていた。このふたりの間に流れるリズム、すごくいい。誓さんの言葉には、書かれたものを読んでいると言う感じがしないテンポのよさを感じた。

扉の開閉の照明は勿論なかったけれど、恐らく手動によるじっくりとしたフェイドアウト、キモの話者への、決して押し付けがましくない誘導転換も今回心地よかったです。そーだなー、この作品って、クラフト的な暖かみを感じる。ピノキオも出てくるしね。

十数年振りの再会もあり。憶えていてくださって嬉しかったです。人生いろいろ。

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よだん。

・アベンジャーズ脳になっているので、ピノキオたちがフカにのまれてるとこの描写にうるっときつつヨナのエピソードを思い出し「……社長!」と浮かんでしまう思いを私の頭の中の消しゴムは消しきれませんでした

・先日の面影ラッキーホールと町山智浩さんのトークイヴェントで「近頃の社会は自分で自分のことを『貧乏』って言うのはいいけど他人が言っちゃいけない、『スローライフ』って言葉とかに置き換えないといけないみたいな風潮がある」って話を思い出してブルブルしていた

・寸前に菅原さんが『遭難、』の女教師役のため髪型を変えスキンケアもしてるってツイート読んでたのでどんな姿で現れるのか実はドキドキしていた。いやふつうに自然な姿で出ていらっしゃいました。しかし綺麗な顔立ちよね

・自分の席から、篠井さんと菅原さんの横顔を同じ角度で見られるシーンが数箇所あったんだけど、おふたり顎のラインがそっくりでした