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2012年08月16日(木)
『ふくすけ』

シアターコクーン・オンレパートリー+大人計画2012『ふくすけ』@シアターコクーン

再演から観ています。初演は悪人会議、再演はニッソーヒで、今回はコクーンと大人計画名義になっていますが、んんーと、大人計画が制作にしっかり絡んだと言うこととして名義があったとしても、やはりコクーンならではと言う感じがした公演でした。作品そのもののパワーは流石なもの。終演後胃が重い重い。

ラスト、古田さんがテーブルをダン!と飛び越える姿に「きたぁ!」とシビレたのですが、それは舞台における古田さんの格好よさにであってヒデイチのそれとは違う感触。パンフレットで古田さんが「自分の色を出さずにやれれば成功」みたいなことを仰っていて、確かにそれは終盤のこのシーン迄保たれていたと思うのです。吃りからくる引っ込み思案な性格、それによっていじめを受けた過去、そんな自分を愛してくれたマスへの思い…抑制した小さな声で、ヒデイチの輪郭を確かに伝えていく古田さんはやはり巧い方だなと感心するばかりだった。しかし最後の最後でその抑制が解かれた。そしてそのシーンこそが、「見たい古田さんの姿」だったと思ってしまった。嬉しい反面困惑する自分もいる訳です。今回の感想はここに集約されるかな。自分にとって、初見(再演)のインパクトが凄過ぎたのだ。

再演された時期ってのがまたオウムの一連の事件の後だったと言うことにも、現在(未来)を見通し、そこに居合わせる松尾さんの“天才”を感じたのだった。震撼する高揚感の中流れる第九「歓喜の歌」も、再演の時期は年末でドンピシャだった。キャスティングも絶妙だったんだよね……。いやいやいや、こういうことはきっと初演から観ているひとは再演に対して思っているだろうし、キリがないことなので延々書くのはやめておこう。

華やかなキャストで華やかにコクーン用に仕上げられた印象の今回の上演では、それらインパクトは勿論薄れる。しかし、多層的なこの作品の、違う顔に気付くことが出来る。フタバら若者たちの「純愛に代表される美しいものを信じたい気持ち」はいつしか諦観に変わり、考えてもどうにもならない人生の理不尽さに、それでも抗いたいと言う衝動を抑えきれない。二十代でこれを書いた松尾さんが、ヒデイチらの年齢に近付いた今この作品を演出すると、インパクトだけではない哀切さが加味されたように感じました。そしてそれを心に留められるくらい自分も歳をとった。ふくすけの長ゼリにも余裕が感じられ、これも初見のときとは違う「世の中への醒めた視線」として印象に残りました。

あ、今回インパクトあったところって、小松さんがコズマ三姉妹のエツだったことだよ!(笑)キャスト発表になったとき小松さん何の役やるんだろうと思ったけど女性役かい!いやあ、これはよかったな…そうそう、今回キャスティング発表になったときいろいろこんがらがったんだ。イメージとしては古田さんってコオロギなんだけどポジション的にはヒデイチぽいな、松尾さん今回も出るしコオロギ続投かと思ってたらその後コオロギはオクイさんって聞いて、えっじゃあ松尾さん誰やるの?と思ってたら男爵だったんだ。

いやー、オクイさんのコオロギよかったな…あの「そりゃ俺じゃねえか」の台詞が似合うひとって限られた(選ばれた)ひとだよね(ほめてる…?)。いやそれはともかく、翻弄されるコオロギの疾走が観られてよかった。あと蝉之介さんて脱いだら意外とすごい、そして猿時くんは再演時とあまりにも姿形が変わっていた(笑)。

あと生ムカデ人間が観られて嬉しかったです(笑)。

それにしても場面転換や段取りの多いこと。松尾さんも言ってたけどホントこれどうやってスズナリでやったんだろうか……。

メモ:opのダンス曲はVoodoo Glow Skulls「Brodie Johnson Weekend」。