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2012年02月16日(木)
『90ミニッツ』

『90ミニッツ』@PARCO劇場

ううむ、難物をとりあげましたね三谷さん。だからこそ、この題材を扱うなら、もう一歩踏み込んでほしかった。と言うのが正直な感想です。役者ふたりは素晴らしい熱演でした。西村さんと近藤さんのコンビをまた観られたことも嬉しかったし、西村さんが三谷さんの作品に出演していることも嬉しかった。以下ネタバレあります。

冒頭スクリーンに表示されるように、実際に起こったとても有名な事件を基に書かれた作品です。土地の風習を守るため輸血を伴う手術を拒否する患者の父親、手術を行い患者を救いたい医師。父親の信仰、医師の信念がぶつかり合う。どちらの考えが間違いだとは言えない。正しいことはそのひとのなかにしかない。どちらにも「愛情」と「良心」がある。その愛情や良心を、信仰や信念が上回ることは正しいことなのか。

と言うストーリー…かと思ったが、ちょっと様子が違います。実のところ、父親と医師は信仰や信念ではなく、恐怖感と保身のために主張を固持していることが明らかになります。愛情は恐怖に屈し、良心は保身に打ち負かされます。

キーワードとして永遠の命、生まれかわりがあります。患者の家族が代々住む土地では、ひとは生まれ変わり永遠の命を持つことが出来ると信じられている。二度と生まれかわれなくなってしまうから、永遠の命が断たれてしまうから、風習を破れない。これが信仰や死に対する畏怖ではなく、妻に対する恐怖、閉鎖的な土地で村八分にされる恐怖、土地を離れることに対する恐怖と同列に扱われている印象を受けました。ここがひっかかる。父親の三秒遅れの葛藤は、信仰ではなく恐怖からだったと結論が出てしまう。倫理を測るために信仰をモチーフに選んだ意味がここで宙に浮く。

医師が何故承諾書へのサインに固執するのかのくだりも、父親の信仰心を描ききれなかったがための後出しカードのような印象を受けました。信仰、信念に徹しきれない人間の弱さを描くことが狙いだったにしては、焦点がぼやけている。

酷い言い方かも知れないが、このテーマは三谷さんですら手に余った印象が拭えない。しかしこう言ってしまえるのは、三谷さんなら書ききれるのではないかと思ってしまうからだ。「奇跡を恨む」最後の父親の台詞が見事だっただけに。永遠の命を求める限り、彼らには今を生きることに安息などないのだ。それこそ永遠に、何度生まれかわろうとも。「死にたくない」とはそういうことだ。この矛盾を呑み込むのが信仰心だ。あの最後の台詞からは、信仰への絶望的な畏れが感じられた。だからこそ残念。

ところで西村さんの台詞回しってあんなに癖がありましたっけ?専門用語や滑舌を要する台詞が多い、医師としての威厳を表現、にしても妙に声がこもって聴こえました。

そしてこの緊迫感溢れる作品の上演中に携帯鳴らしたバカがいたのにガーン。いや作品問わずのマナーですけども。もうバカって言う!バーカバーカ!(泣)鳴らしたひとは恐縮してるのかも知れないけどやっぱりダメだよ…こればっかりは目くじら立てますよ。ちょっと前にこのツイートが話題になって素敵なことだなと思いましたけどそれはステージの上にいたひとが素晴らしいのであってやっぱり鳴らしたこと自体はダメ絶対。「ヴァイブにしとけば大丈夫だよね」って言うひといるけどそれもダメ絶対。すごい響きますよー。しまいには「なんでそれがいけないの?」ってひともいたりするがそんなら劇場でなくお茶の間にいてくれ。