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2012年01月21日(土)
『ある女』(岩井さんver.)

ハイバイ『ある女』@こまばアゴラ劇場

やーやっとハイバイ観れた。ダブルキャストのまずは岩井さんver.から。……いやはや面白悲惨でどうしましょう。

不倫をしている複数の女性を取材し、社会的に道を踏み外していくひとりの人物を組み立てている。これがまた「あーあるある」と「ないない」の絶妙な綱渡り。しかし最終的には「これって珍しいことではないんだろうな」と思ってしまう。60〜70%は実話だそうだが、彼女の、そして彼女が関わった男性たちには知っている要素があるし、実際友人知人にそういう人物もいる。どこかで思いとどまる、どこかで引き返す、それが出来ないこともないのだが、ずるずる関係を続けたり、もしくはタイミングの善し悪しでこうなってしまう。ある程度迄踏み込めばこうなることは自明なのだ。

「妻がいると言うことを男が話さなかったから」「男が金をくれたから」で片付けることも出来るようにも描かれている。男性が何を思って、何を考えているかが表面には浮かんでこない。反面女性の心情は映像によって一人称で語られる。金を受け取るか、受け取ったらどうやってそれを還元するか、男性にとって自分の価値とは何か。そうして彼女は社会的に道を踏み外して行くが、その社会と言う枠組みを外せば、何を、どこが間違っていたか?と言う事実にはたと気付く。人間的に?性的に?

悪いことをしている、後ろめたいことをしている、そうだっけ?私何か間違ってるっけ?と思っているうちに思わぬところに立っているぼんやりとした意識。その都度悩み(ですらないかもしれない)を打ち明けられる定食屋の娘が社会的な正論を言い、その父親はただただ笑って話を聞くばかり。そうやって気付けば彼女は出口がない冥い道へ迷い込む。果たしてそこは死の世界か、光は見えてくるのか。闇から聴こえてくるのは、ただただ笑っていた定食屋の父親(彼も時を同じくして死の縁をさまよっている、かもしれない)の声。その声を求めてひたすらふらふらと進むある女は、きっとどこにでもいる女。人間が社会を形成する際に生じる不可解さ。

岩井さんの雑な女装(ほめてる)のおかげでこうやって俯瞰で観ることが出来る。笑い乍らこれはまずい、まずいんじゃないのか…と不安を抱えつつ、最後の数分でその不安が思わぬ(いや、どこかで予想は出来るのだ)展開で結末を迎える。その冷徹とも言える手腕はおっかな面白い。久し振りの新作だそうなので以前はどうだったんだろう…『て』はDVDで観たのですが。そうなんだよー『て』も『その族の名は「家族」』も舞台逃しちゃったんだよね、悔やまれる。

映像と音楽、照明にリズムがあって格好よかったです。スタイリッシュですらあった。暴力的なシーンをほぼ暗闇にする演出が、歪んだ笑いを呼ぶのに一役買っていた。思い出したのはTHE SHAMPOO HAT『砂町の王』。対照的な暴力描写。

さて今度は菅原さんver.を観ます。菅原さんの女装には定評があるので(せめて女性役と言え・笑)あの女性像がどんだけ悲惨なものとして描き出されるか楽しみでもあり怖くもあり。