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2011年07月09日(土)
『おもいのまま』

『おもいのまま』@あうるすぽっと

飴屋法水さんが所謂商業演劇のフィールドで演出、美術、音楽デザインを手掛けた作品。飴屋さんの舞台にプロフェッショナルな役者さんが出演することも珍しい。嶋田久作さん、斉藤聡介さんくらいではないだろうか。石田えりさんの企画で、飴屋さんに声を掛けたのも石田さんだそうだ。出演者は4人。石田さん、佐野史郎さん、音尾琢真さん、山中崇さん。脚本は中島新さん。

石田さんは数々の映画で観ていて素晴らしい役者さんなのはひしひしと感じている。佐野さんもそう。佐野さんと飴屋さんは状況劇場からの仲で、3年前新転位・21の『シャケと軍手』で共演している。音尾さんはTEAM NACSの方。山中さんは舞台でも映画でも活躍中。役者陣には何の不安要素もない。となると興味はただひとつ、このひとたちが飴屋さんと組むとどうなる?

おおこうなるんだ、と言う部分とおお全然変わらん!と言う部分。すごく面白いし、すごく刺さる作品でした。

穏やかに暮らす夫婦のもとにふたりの記者がやってくる。ふたりは取材と称して、夫婦の秘密を暴いていく。抵抗し、ときには無視する夫婦。だが事態は悪くなるばかり……。以下ネタバレあります。

家にあがりこんだ記者たちは、夫の会社の経営が危ないこと、数年前から行方不明になっていた息子の遺体が数日前発見されたことをネタに夫婦を追及する。彼らは保険金目当てで父親が息子を殺したのだろうと踏んでおり、多少でっちあげでもスクープをあげようと息巻いている。妻が息子のために買い込んだ大量のおもちゃや服、夫が金庫に隠していたSMプレイのDVDと筋弛緩剤を見つけ出した彼らは、暴力的に夫婦を問いつめるのだが、決定的な証拠が得られない。業を煮やした記者たちは、夫婦を殺すことにする。

遺体処理準備のためブルーシートを敷かれた部屋で、夫婦が刺し殺されて一幕が終わります。

重苦しい空気に包まれたまま休憩に。舞台をぼんやり眺めていると、スタッフが散らかった部屋を片付けて開幕前の状態に戻していきました。……???

果たして二幕、同じシチュエーションが繰り返されたのです。しかし今度は様子が違う。一幕で息子は実家に預けている、死んでいない、と言い張っていた妻も、記者たちに高圧的な態度をとり続けていた夫も、物腰が柔らかい。床にばらまかれたDVDを目にした妻は「言ってくれれば私もそれなりに努力してみるのに…」と言い(ここ、石田さんの写真集を連想させるニクい台詞ですね。それなりにどころじゃないよ!ちょー素敵だよ!笑)、夫はSMクラブ通いをしていたことを正直に告白し、力を合わせて現状を打開しようとする。懸命な彼らの姿は時にユーモラスに映り、切羽詰まった状況は一幕とは違う表情を見せ始める。

こどもを失ったと言う事実は夫婦に深い傷を与え、それが癒えることは決してありません。二幕で「もうおもちゃや服を買い続けるのはやめるね」と言った妻に夫はこう声を掛けます。別にいいじゃないか。誰に迷惑をかける訳でもないんだから。

死んだ子の歳を数えてもいいじゃないか。あの子が小学校、中学校にあがり、大人になり、結婚しこどもに恵まれ、その後自分たちの葬式を出してくれる。忘れなくてもいい。

一幕終盤、包丁を手にした記者1は「わるいことばかり考えているとわるいことが起こる、結局それは自分が望んだものなのだ」と言う暗示的な台詞を吐きます。命を落としたであろう夫婦は、二幕で違う望みを叶えるのです。まさに“おもいのまま”。つらい現実を抱えているひとがそれとどう向き合うか、勇気を与えられる作品でした。

飴屋さんは以前インタヴューで自殺を考えたことがない、と話していた。生まれてきたので生きている。どんな状況であってもひたすら前を向き、状況を冷静に見極める。生きることが前提で、そのために死んでしまうことがあると言う危険性も承知している。ここが全然変わらない部分。そしてその作業に、生きるも死ぬも自在に演じられるプロフェッショナルな役者さんが参加すると、観客は演者の身体に不安を感じることなく一緒に生死の淵を覗き込むことが出来る。これがこうなるんだ、と思った部分。実際はかなり激しいアクションも多く、怪我人を出さずに千秋楽を迎えられることを祈るばかりです。

音響オペもzAkさんと飴屋さんがやっているそうで、ひょっとしたら音も毎日違うのかも知れないと思う部分がありました。同じものなど決してないからね。卓にハナタラシのCDRも置いてあったけど、どこに使ったかわからなかった。殴打音かな。

カーテンコール。拍手が随分長く続いたのに誰も出てきません。卓から飴屋さんがすごい勢いで走り出て、舞台に駆け上がって出演者を呼びにいきました。あたふた出てきた彼らを見て安心したか、自分は挨拶もしないで袖に引っ込んでしまった(笑)。髪を短くした飴屋さんは、岡本敏子さんを思い出す風貌になっていました。

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■よだん
前にも思ったけど、全く方向性は違うように見えるけど、飴屋さんとスズカツさんには通じるものがあるなあ。「ひたすら見る」演出、音への信頼感、生きること、死ぬことに対する目線。今回近い時期にふたりの作品を観て、改めてそう感じた