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2011年01月22日(土)
『犬とあなたの物語』『AKIRA』

『犬とあなたの物語 いぬのえいが』@TOHOシネマズ川崎 スクリーン2

レイトの『AKIRA』の前にもう一本観ようかね、楽しそうなものを気軽に、と観に行ったら気軽なんてとんでもないヘヴィーな内容で腰が抜けた。おーもりさんが出ているパート(長崎俊一監督)は重く厳しいストーリーです。

6話によるオムニバス。オープニングタイトルも出さずいきなり本編、あっと言う間にひきこみます。おーもりさんと松嶋菜々子さんの「犬の名前」がメインなのですが、その前後にいぬと人間のさまざまなエピソードが、デフォルメを加えられてテンポよく配置されています、相当おかしい(笑)。お笑い芸人さんが沢山出ていて、それも効果的でした。

「犬の名前」を観ている+観たあと、それらいぬとの楽しい暮らしの描写がジワジワ効いてきます。巧い構成。以下ネタバレあります。

「一郎!」「美里!」やたらめったら名前を呼び合う夫婦の会話で幕開け、アメリカ映画か(と言うより翻訳劇の舞台かな)と思う程の違和感。実はこれが仕掛けだったのだと後で気付くことになります。やってきたペットのラッキーは自分の名前を呼ばれないと振り向かない賢いいぬ。いぬを飼うことに後ろ向きだった一郎とラッキーが少しずつ心を通わせていく描写が丁寧。ほのぼのしさも然程なく、そっけないくらい。しかしあたたかみがあり、徐々にラッキーが家族の一員になっていく経過がとても微笑ましい。

一郎は若年性アルツハイマーに侵され、日々記憶を失っていきます。仕事に必要な英単語、自分の家、家族の名前……。いぬに餌をあげる習慣を憶えていても、いぬの名前を忘れます。ラッキーのことを自分がちいさい頃に飼っていたいぬ、ジローと呼びます。自分の名前がラッキーだとわかっているラッキー。ジローと呼ばれたラッキーは、それでも一郎に寄り添おうと歩いていくのです。

前の席に家族づれがいて、ちっちゃいおんなのこが時々ちいさな声で「かわいいね」「あはははは」なんて話していたのですが(迷惑ではなくむしろほのぼのしかったよ)、彼女がそのシーンのとき「ジローじゃないよ、ラッキーだよう」なんて言ったもんだから周囲のひとたち一気に涙腺決壊。おまっ何してくれる!嗚咽が出そうになったおえーい(泣)…映画館ならではのエピドードですな。ああ映画館で映画を観られるっていいなあ。

一郎の介護のため美里がだんだん疲弊していく様子がシンプルに重ねられていきます。過度にドラマティックな演出はない。仕事内容を軽減してもらう。会社も協力してくれる。しかし綺麗だった流し場にはいつの間にか沢山洗い物が溜まっている。一郎と美里は懸命に日々のくらしを維持しようとしますが、それはジワジワと崩壊していきます。「ああ、こうなっていくんだ、これはどうしようもない」と納得させられてしまうのです。

近くに助けを請えるひとがいなかったら?いぬを預けられる環境がなかったら?実際そういうひとの方が、きっととことん悩むのです。しつけが出来なかったから、大きくなってかわいくなくなったから、なんていい加減な理由でいぬを捨てたり殺したりするひとは、ペットが家族だなんて意識することすらしない。里親をさがす組織があるじゃんとつっこむひともいそうだけど、それに気付かない程美里は追い詰められていたのではないかと思います。

本当にそのことを考えているひとたちは、他人が知らないところで、黙々と行動している。ペットは家族です!なんて言うのは簡単だし、良識を振りかざすひと程裏にある事情を顧みていなかったりする。ひとりを助けなければならないとしたら?優先順位をつけなければならないとしたら?彼らはなんと言うのだろう。家族とは、絆とは責任とは覚悟とは、についても考えさせられる内容でした。

いやそれにしてもしんどかった…このままでは家族を傷付けてしまうと悩んだ一郎が美里に首を絞めてもらおうとする描写も酷だった……。休日に家族で、とかデートで、と観に来たひとはエラい目に遭うと思います(苦笑)。でもすごくいい話だったなー。おーもりさんの演技も素晴らしかったです。黙ってるときの演技がえらい説得力ある…あとなにげないシーンが絵になりますね。いぬと座っておにぎり食べてるシーンとか。保健所の職員役の斎藤歩さんもよかった。ちょっとした台詞の言い回し、いぬを返してと美里に迫られたときの表情が印象に残りました。

巨大化したジローが出てくるシュールなシーンがあったんだけど、そこもよかったなー。ここでCG使うんかいって言う(笑)。こども+夢(?熱出してうなされてる)の支離滅裂な視界の表現としてとても面白いものになっていました。それにしてもしばこいぬってホントかわいいわ…バリバリのねこ派だけどしばは大好き。

あー、あとひとって自分が先に死ぬことばかりを想定しがちですが、自分が残されたときのこともそれと同じくらい考えておいた方がいいよねとつくづく。自分が見送られる前に、ちゃんとひとのことを見送らねば。

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『AKIRA』@チネチッタ川崎 CINE12

22年振りにスクリーンで『AKIRA』を観た…しかもシネコンのいい音響で。か、かんげき……ドリパスありがとー!(泣)

ドリパスと言うのは、映画のグルーポンみたいな共同購入システム(サイトはこちら)。観たいとチケットを買ったひとが既定人数に達すると上映が成立します。成立しなかったら上映なしよってのもドライ過ぎてなんだかムズムズする…実際未成立のものも過去何作かあって、それってどうも……と思ってもいるのですが……。試行錯誤中のようで、改善点も出てきているので、いい方向に進めばいいなーなんてえらそうに思っていたりもして。

そんなある日、『AKIRA』が上映企画に登場。昨年の爆音上映会では満席で入れなかったんだよ!お、お願いします。買います買います。あっと言う間に既定200枚が売れ200枚追加、当日券(以前のドリパスではなかったそうですが、ここ最近は出してるそうです)もありで、チネチッタで2番目に収容人数の多いスクリーンで観ることが出来ました。おおお…22年前は田舎の映画館で、視聴覚室くらいのちっちゃーいところだったんだよ…う、うれしい。シネコンなので音響もいい!芸能山城組のケチャがー!ギャー、これこれ!!!

フィルムはかなり傷んでおり、色彩がああ昔のアニメだなあと思ったものの、それ以外は今観てもぜんっぜんオッケー。公開時は原作がまだ終了しておらず、ミヤコさまやカオリちゃんその他もろもろの設定がかなり違うのですが、原作を読了している今ではその部分も補完しつつ観られる。そうカオリちゃん…カオリちゃんなんだよね……すごいいい子なんだよー。そしてそんな頻繁に『AKIRA』について考えてる訳でもないのにあーアキラって28号だったよねー金田の名前は正太郎だよねーと素で思い出せる刷り込みっぷりに思わず下を向く。ええ、当時「…ミルク!」とか「血だぁ、こわぁい」なんて『AKIRA』ごっこをしたものです(赤面)。あーキヨコもタカシもマサルもいい子だったよねえええ。

補完といえば、SOLが墜ちていくシーンに昨年のはやぶさの最期を連想したり、ミヤコさまたちの教団にオウム真理教を思い出したり。あとたまたまなんですが、数日前『その街のこども』がらみで阪神淡路大震災のニュース映像をYouTubeで見直していて…その映像がまるっきり『AKIRA』の光景だったのです。飴細工のようにくにゃりと曲がり落ちた高架路、上がる火の手、煤けた空気。『AKIRA』は1988年公開ですが、この時は都市崩壊の描写(『AKIRA』は地震によるものではないが)がまだ絵空事だったように思います。有り得ない話ではないけど想像が及ばない、と言うか。しかし今では全くの現実だと思える。作り手が意図してそう描いた訳ではないと思うし、予言だなんて大層なことも思わないけれど、それでもこの作品には何かを知っているようなヴィジュアルがある。そういう意味も含めて、この作品は過去のものではないのだと思いました。当時観た『AKIRA』とこの日観た『AKIRA』には、確実に違う印象を持ちました。

つい最近宮沢章夫さんが1995年についてのメモを書いており、それのことも思い出した。→・Togetter -「1995年についての考察」

それにしても、金田等こどもたちのあっけらかんとした逞しさと言ったら。東京が崩壊しても「鉄雄は?」「いっちまった」、バイクでブーですもん。笑ってしまい乍らも、この楽観性は見習いたいと思った、いやホントに。あれくらい呑気に頑強でいたいものです。

上映後拍手が起こりました。いやーよかった、嬉しかった。

ものすごく原作を読み直したくなったが前半は実家、後半は押し入れの奥深く。あああ!サントラも聴き直したいがテープです、デッキ壊れてます。そだよー芸能山城組の組曲と台詞入りのサントラと二種あるんだよねー。買いなおそうかな……。