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2010年02月28日(日)
『富士見町アパートメント』Bプロ

自転車キンクリートSTORE『富士見町アパートメント』Bプロ@座・高円寺 1

久々じてキン、鈴木裕美さんの演出作品も久し振り。裕美さんの作る舞台にはいつも「ああ、お芝居ってこんなに心に波を立てるもので、いろんなものを胸に抱えて帰ることが出来るものだったなあ」と思わせられる。それがなかったことはないなあ。

そして企画から裕美さんが噛んでいる作品はハズレたことがない、自分にとっては。ちょっとだけ上の世代のおねえさんがどう年齢を重ねていくかを見せてもらっている感じ。それは鑑のようでもあり指針のようでもあり、自分もいずれ通る道。いろんな生き方を見せてくれる。

アパートの一室と言う同一のセットをお題に、4人の劇作家が新作を書きおろす。演出は全て裕美さん。2本ずつのプログラム、この日は鄭義信『リバウンド』、マキノノゾミ『ポン助先生』のBプロ。以下ネタバレあります。

存在感のあるセット。ステージスペースが空中に浮いているようにも見えた。セットの組み方のせいかな?額縁な感じが全くなくて新鮮。

『リバウンド』はかわいいオデブちゃん三人組のコーラスガールが時を経て別れていく話。小劇場界隈でオデブちゃん女優と言えば鉄板、池谷のぶえさん、平田敦子さん、星野園美さん。星野さんのみ初見でした。重い話だけれど、ひとが生きていく先これは避けられない。立ち止まることは出来ない。それを一時間の上演時間で丁寧に掬いとり、丁寧に演じ、丁寧に差し出したような絶望的な美しさの作品でした。コーラスガールたちの間に起こったさまざまな出来事を通して、嫉妬や羨望、寂寥、諦念と言った感情が交錯するさまが台詞の応酬で浮かび上がる。

池谷さんはTHE SHAMPOO HATの『葡萄』での影のある艶にビンタを喰らわされた気分だったのですが(赤堀さん慧眼!)、この作品でもその魅力が存分に発揮されています。声のよさは定評がありますが、何だろう、声だけじゃなくて…のぶえさんは半纏を着てても軍手をしててもとても色気があって、ドキリとする。彼女のゆく末を見守りたい、それは叶うことではない、それでもどこかで温かい場所を得てほしい、と祈り乍ら暗転の闇を心に染み込ませる。

DV夫の役で久松さんが声のみ出演しているのですが(録音ではなく実際にその場で声を出してる)、すっっっっっっっっっっごく怖かった。あー、ZAZOUS THEATERで何度か遭遇したあの久松さんだ。『銀龍草』で、好青年の化けの皮をはがされたよねー(笑)と言うと語弊があるか。ああいった人間の恐ろしさを演じられるんだ!と久松さんを改めてすごい役者だと思ったものです。あの役をスズカツさんが振ったのは大成功だったと今でも思う。

『ポン助先生』は、マンガ家残酷物語。唐沢なをきさんがマンガ化してくんないかなと思った…まんが極道な話でしたよ……。広島から上京したての新人マンガ家が、今は落ち目と言われているベテランマンガ家との交流でいい気になったり悩んだり。うまいこと笑えるようになってるんだけど、実はかなり壮絶なものです。ちょーこえー!最後も爽やかに終わるふりしてるけど、いや問題はひとつも解決してないやろ!て言う…隠しごとに対しての後ろめたさ、それがバレることへの恐怖すらマンガ家は呑み込んで原稿を描く。編集はひたすらそれをサポートする、どんなサポートであっても。笑いつつも背筋が寒くなったよ……。クリエイターのエゴ極まれり。作品のためなら何でもするよね…その向こうの読者のためか?いや、きっと自分のためだ。そして自分のために描いたものが読者にウケるとなれば、そりゃあ自分の(作家)生命を脅かしてでも描くだろう。

一時間でそれらの葛藤、底知れない業の深さ、生きる糧、と言ったものをテンポ良くギュッと提示。お見事!キャスティングも絶妙。こんな役の山路さん初めて観た、最高。そしていい身体してんなー!自転車乗りって設定は当て書きなのか?板に付き過ぎです。西尾さんも、本意ではなかったマンガ編集の仕事を自分のモノにしていく迄の気持ちの流れを、見せないことで見せると言うか…これホンの巧さもあるだろうけど、台詞にない部分でそれを感じさせるのってすごいなあ。そして黄川田くんはおんなのひとの扱い上手そうだな(笑)いちゃいちゃっぷりが板に付いていた。甘え方もな!

座・高円寺には初めて行った。ロビーには観劇に来たひと、ワークショップに来たこどもたち、何かの会合?に集まる若者たちに年配のひとたちが入り乱れ、杉並区のマスコット・なみすけのグッズ売り場もあった。なんだか公民館みたいでもあって、地元のひとに愛されていくといいなあと思った。

さてAプロはどうなる。あかほりの新作だよ、楽しみー!