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2009年01月10日(土)
『チェ 28歳の革命』

『チェ 28歳の革命』@新宿ピカデリー スクリーン1

封切り日に行く程の気合いの入れよう。昨年のジャパンプレミア(ベニーとソダばあが出席)は全然当たりませんでしたよ…そういやその翌日の会見@明大では、ベニーはソニックユースのTシャツを着ていたなあ。好きなのか?

いやー待った。最初にこれの話聞いたのって何年前だったか。出来上がってよかったですね!二部構成のパート1『28歳〜』は、ゲバラがカストロらと老朽船でキューバへ出発する1956年から革命を成功させハバナに入城する迄の1959年、その後キューバ代表としてゲバラが国連総会で演説をする1964年を描いています。

『トラフィック』が大好きだったひとはこれも気に入るのではないでしょうかー。ひたすらドキュメンタリー調、画質も色味やノイズに拘り、自然光が印象的なものになっています。ところどころ『夜になるまえに』を思い出す空気感、湿度があった。同じキューバを撮ったものとは言え、ちょっと驚きました。撮影はピーター・アンドリュース(=ソダばあ)。あとカストロ役のひとの声が『夜に〜』OSTで印象的だったPedro Luis Ferrerの歌声にすごく似てた。

第三者の目線で撮っているので、登場人物の心情が語られることもなく、チェがこの場で何を考えていたか、どういう心持ちで行動したかは、観客は推測するより他ありません。それがもうリアルで。喘息で喉をひゅうひゅう鳴らしながらジャングルをひたすら進む、野営でゆったり読書している、ゲリラ戦に参加してくる農民たちに読み書きが出来るようになれと勧め、医者として怪我人を治療し、とどまっている場所では地元民の診療をするチェ・ゲバラ。彼が何を考えているかは、演説で語られる内容以外は、全て行動を観て考えるしかありません。戦場では的確な指示を飛ばしますが、感情をあらげることなく、叫ぶこともありません。演説シーンがいちばんエモーショナル。しかしあくまでも醒めています。

演出もとても抑制が効いている。戦闘シーンも何気に地味です。ちょっとでも盛り上がりそうになるとシーンが変わる。淡々と銃撃戦が起こり、淡々と同志の死体に火が点けられるのを遠くから見詰め、淡々と怪我人の治療をし、運搬をし、次の戦地へ向かう。部下たちのいざこざをなだめる。歴史的には激動の日々が、まるで静かな日常のように落ち着いて映ります。しかしその静かな日々の中、ゲバラがどういった信念のもと行動しているのかが窺い知れるシーンが浮かび上がります。略奪や強姦を行った部下を処刑するシーンが印象的でした。ここも淡々としていたなあ。

これだけ淡々としているのに、132分があっと言う間。

余計な説明が一切ないのは好印象なのですが、それなりに予備知識は入れて行ったものの付いていけなくなった部分もあり。時系列がパズルのように入り組んでいます。それぞれの年や場所ごとに映像の質感を変えているのですが、それをファーストシーンで全部頭に入れておかないと、以降「えーとここはいつのどこだ」と混乱します(苦笑)長回しのシーンも少ない。スペイン語だし字幕情報多いし。そして終盤ドッとウケたところがあったんだけど、丁度上映中席を立ったひとが眼前に立ち塞がったので何でそこが面白いのかわかんなかったよ!(泣)リピートしたい……。

そうそう、意外と茶目っ気のあるシーンも多かったです。「どこも悪くないんだけど、医者ってのを見たことなかったから来た」っておばあちゃんとか、部下に盗んだ車を返して来いと命じたゲバラが「盗んだ車で行くくらいなら俺は歩く」と言った直後に『ハバナ迄289km』ってテロップが出たり(笑)本人たちはジョークで言ったのではないんだろうけど、そういうちょっとほっとするような風景もあの時あの場にはあったのでしょう。

それにしてもベニーのゲバラっぷりはすごかった。ゲバラやん、もう。顔立ち自体はそんなに似てないと思うんだけど、この作品ではどう見てもゲバラだったぞー!体重もかなり落としたとか(-25kg)…『ユージュアルサスペクツ』の時くらいなんじゃないのそれ……ひいー。今回製作も兼ねているし、彼のこの映画に対する情熱が窺えます。そしてソダばあの作風ってホント幅広いと思った。『オーシャンズ』シリーズも撮ってるひとだもんなあ。

パート2の『39歳 別れの手紙』は、カストロと別れたゲバラがボリビアで捕えられ処刑される迄。観る前から気が重い。観るけど。