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2008年02月16日(土)
『恋する妊婦』

『恋する妊婦』@シアターコクーン

おりゃー行ってきたぞー!初日を逃したのは痛恨ですが、まあ芝居がこなれてきた頃に初見だったのはよかったかなと思うことにするぞー!

あんぎゃこれは面白かったわ…強いて言えば本多くらいのキャパで観たかったですが。のぞき見コメディやんこれ!趣味悪!流石岩松了!好きー!

劇中の台詞にもあるように「男と女は五分五分」かは判りませんが、どっちもどっちだってのは確かですな(笑)で、誰もが誰かに優越感を持っている。自分だけが知っている情報があると思っている。それを「あなただけに」教えようとする。それは無邪気な悪意だったり、意識的な悪戯だったり、単なる意地悪だったり、愛情の裏返しだったりする。楽屋への音声モニターのスイッチは果たしてオフになっていたんだろうか?大学生はきっと戻ってこない。この大学生は座長の前妻の息子かも知れない?疑心暗鬼になった方が損です。

座長は長嶋茂雄タイプで、周囲は振り回される。家族のようでいても、異物同士が一緒に生活をしている。それは血がつながっていようといまいと同じことだ。副座長の妻は、ちょっと頭は弱いが素直でかわいい座員と、実はいちばん意思疎通が出来ている。副座長の妹は、座長の妻に反抗している様子が窺えるが、それは家族のそれと通じるものがある。反抗した翌日には何の躊躇もなく甘えることが出来る。副座長が妻に暴力を振るっている隣で若い座員がお茶漬けを食べている。日常茶飯事だから気にすることでもないのだ。

登場人物は、そこに「あなただけが」いるから、言えることを言う、「あなただけに」しか見せない姿を晒す。舞台上で決め台詞の自主トレをする大学生は、そこに「誰もいない」から稽古が出来る。

観客はそれを全て目に出来るのだ。ここに優越感を見出すでしょ?と岩松了は問いかける。あのいやらしい笑顔でな!キー腹立つー!図星だー!

と言う面白さです。

これ、初演ではないので、勿論当て書きではない。しかし流石の風間さん、座長は彼しかありえねーと思わせられますな…動物的な勘で生きているような座長に見えた。誰に懐くかの判断の早さといい、あんなにすんなり受け入れたかに見えた大学生に終盤見せるよそよそしさといい、ある意味彼はいちばん素直なのだ。それは実は最悪だ。周りはたまらん。その座長に本能的なものから敵対心を感じている(と思える)、銀ちゃんの出来損ないみたいな大森さんが意外と(失礼)ハマッています。先述の「家族的な自然さ」は、やはりプロデュース公演では余程のプロフェッショナルが集まらないと空気が持たないことが多々ある。ちょっとした台詞の裏側にはとてつもない情報量があるからだ。その含みをどれだけ思わせぶりに口に出来るか。ここらへんは鈴木さんが抜群に巧かった。あと唯一の外部者、良々さんがやっぱすごいな…。彼の役は岩松さんの分身に思えた。

しかしいちばんかわいそーでかわいかったのは銀平くんだった(笑)

ちょっとしたタイミングのズレで台詞が全く通じなくなりそうな繊細なテキストだと思います。なので演者のコンディションに出来がかなり左右されると思います。とにかく精度が大事かと。観る側もかなり集中力使います。これを無駄と感じるか、劇中の台詞の通り「何かの役に立つ」と思うかは、かなり好き嫌いが出ると思います。

まあ、人間何かの役に立とうと思うのも傲慢だと思いますけどね。目の前のことに対処する、それをないがしろにしない、それで精一杯じゃないか。