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2007年04月28日(土)
『CLEANSKINS / きれいな肌』

『CLEANSKINS / きれいな肌』@新国立劇場 小劇場 THE PIT

至ってシンプル。ストーリーとしては決して珍しいものではない。家族の秘密も結構早い段階で観客には感じ取れる仕組み。

しかし120分の上演時間中全く退屈しない。台詞運びのテンポの良さもあるが(翻訳は小田島恒志さん)、ちょっとした言葉や、ちょっとした仕草に登場人物の生活、過去がきちんと定着しているからだ。神に祈ってスクラッチくじをひく母親、「自分を唯一救ってくれた人物」に傾倒する弟。母親と息子のやりとり。母親が薬物中毒で行方不明になっていた姉を家に入れた後、帰宅してきた弟とのやりとり。情報量がとにかく多い。そこにはストーリーの時間だけ、劇場の中で生きる筈の登場人物の人生が息づいていた。

脚本に実感と言うものが込められているからだとも思うが(作者のシャン・カーンはロンドン在住のパキスタン系イギリス人)、これペラい役者が演じたらみるみるそういう細やかな描写がとりこぼされると思う。それくらい繊細。銀粉蝶さん、中嶋朋子さん、北村有起哉さんはドッティ、サニー、ヘザーを「生きていた」。

結局最後に姉は神に祈る。その神は母親の信じる神ではないが、母親の神とはくじを当てる時に頼る程度の神でもある。父親と母親が別れた原因は、宗教上の理由と言うより、周囲のひとびとの目や迫害、そして自分の生活、嗜好(それは煙草を吸ったり酒を呑むことも含まれる)を変えたくなかったことによる。ストーリーはこの丸投げのシーンで終わるが、そこにはある種の気楽さも感じられる。だから希望も垣間見える。

しかし多分、この家族はずっとこんなことの繰り返しなのではないだろうか。実際問題の根は深い。それでも何とかやっていくのだ。あの修復能力はちょっと羨ましくもあった。

気になったのは暗転の多さ。短いシーンをどんどん見せて行く脚本の構成も大いに関係しているが、10分もしないうちに次の暗転、と言うのは観ていてちょっとつんのめった。リズムが途切れる。暗転なしでも時間の経過と登場人物の心理状態の変化は充分見せられると思ったのだが…演者の力量も申し分ないのだから。

それにしても北村くんは姉(役)に向かって「死ねば?」とか「死んでくれ!」って言う役が多いなあ(苦笑)

CLEANSKINSとは「きれいな肌」「焼印のない家畜」「群れからはぐれた者」「前科のない者」「白人のイスラム教への改宗者」の意味を持つ。2005年7月のロンドン地下鉄・バス同時多発テロ後は「前科のないテロ容疑者」の意としても使われるようになったとのこと。新国立劇場の「国際演劇人交流」の一環としてシャン・カーンが新作を書き下ろした今作。翻訳現代劇にどうしても出てしまうタイムラグがなく非常に興味深かったです。

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■鴨ちゃんのお別れ会
いい会だったようでよかった。あの豪雨は会が始まるちょっと前だったかな

■今出てる『せりふの時代』
篠井さんのエッセイにいたく感動した。そんで昨年の篠井さんのベストワンが『津田沼』だったことに驚愕した。わーいつかあかほり(敬称略が敬称)の芝居に出てほしいー!