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2005年05月13日(金)
『メディア』

『メディア』@シアターコクーン

お、お、おっかねー!こえー!!そんでおもしれー!!!

前のヴァージョンを観た時には思わなかったことです。面白過ぎて終始ニヤニヤしてましたよ…。

12年前に観た時は全員男性キャスト、辻村ジュサブローさんの重厚な衣裳に身を包んだメディア=嵐徳三郎さんがクレーンに乗ってぶいーんと空を飛んで行ってしまいました。台詞回しも随分違って、形式美として観た記憶があります。

今回のメディアは大竹しのぶさん。鬼!鬼がいるよ!メディアが実体化しておる!感情をドバッとほとばしらせる。怒りも嘆きも逡巡もトゥーマッチが標準なので、常に笑いとギリギリです。いやもうすごかった…人間あんまり不幸が続くと笑うもんですよ…笑うしかないと言うか。

大竹さんの滑舌や声の通りが素晴らしいのは勿論ですが、そういうことを感じさせる以前に台詞の意味そのものがバシバシ伝わる。かなり喋るスピードは速いんです。でもそれが相手に怒りをぶつける為であったり、迷っている暇はないからであったりと、その場の状況に必要なスピードだなと納得させられてしまう。しかもちゃんと聞き取れる。実は相当すごいことをこなしているような気がします。翻訳も現代的になっていてとても解りやすい。

蜷川さんの舞台にしては音楽が少な目だったのも、台詞でぐいぐい進む内容だったからなのかな。

コロスは16人の女性。蜷川さんの舞台で女性オンリーのコロスが登場したのは『エレクトラ』が最初でした。エレクトラの従者であり、友人でもあった女性たちがそのまま歳をとったような老婆のコロスが、今度はメディアの復讐を見届けます。無力なコロス。メディアに助言しても聞き入れられない。実際その言葉すらメディアに聞こえているのかどうか。コロスの実体はないのかもしれない。観客としてはコロスと一緒に「やめとけ、やめとけ」と思っているんだけど、メディアをとめることは出来ない。無力でもあるけど、無責任でもある。

男優陣は出番は少な目ですが、皆印象的。生瀬さんはほんっと声がいい〜。そして色気がある!上昇志向があるような振りして、実は人生投げてませんか?と言うイアソン。結構酷い男なんだけど、そして台詞だけ聞いてると何でそんなにモテるねんと思うんだけど、生瀬さんが演じるといやいやそこに女がぐらっと来るんだよ…(笑)とつい思ってしまいますなー。そういう意味で、イアソンの実体化っぷりもすごいなと思った。

鋼太郎さんのところで笑いが出たのも良かった。いやほらあまりにも怒涛な話なので、わ、笑っていいかな…って雰囲気がちょっとあるんですよ。で、クレオンが悩むシーンで「あ、笑っていいんだ!」と和んだような。横田さん演じる報告者も、結構とんちんかんなこと言ってるんだよね…誰か突っ込めよ!とか思ったり。笠原さん演じるアイゲウスもお調子者だし。でもそれが、人間味溢れてる感じがしました。

途中、現代劇を観ているような感覚になりました。トゥーマッチだし、普通に神と同居してるようなところはいかにもギリシャ悲劇なんだけど、子供殺し、嫉妬の対象を根絶やし、復讐のためにはどんな残虐なことでもする、いや復讐だからこそ想像を絶する方法をとる。と言うのは、今となってはそんなに珍しいことでもない。うーんやはりおっかない。2500年も前からこんななのに、意外と人間ってタフだなあ。こんなこと続けてるのに絶滅しないもんかね。

まあ、2500年なんて神からすれば爪の先ほどの長さもないんでしょう。

照明と美術は毎度のごとく素晴らしかったです。水を張った舞台、咲き乱れる蓮の花。蓮って浄土に咲いてる〜とか、安息の地にあるようなイメージがありますが、そこで繰り広げられるのは修羅場です。皮肉だ〜。どんなに血が流れても、咲き続ける蓮の花。美しかったなあ。序盤、水面を蓮の葉っぱに乗ったこどもがすーっと滑り出てきた時は鳥肌がたった。ぎゃーたまらん!蜷川さんとこのチームはほんっと大好きです!

最前列にはビニールシートが配られていて、飛んでくる水しぶきをよけながら観ていたのがちょっと笑えた。東京グランギニョルとかパラノイア百貨店みたいだー(笑・こちらは水ではなく血のりが飛んできてたんですが)。パンフの表紙の絵が会田誠さんの『美しい旗』だったのは嬉しいビックリでした。