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2004年03月12日(金)
『ファウスト ―ワルプルギスの音楽劇』

『ファウスト ―ワルプルギスの音楽劇』@世田谷パブリックシアター

「時よ止まれ、お前は美しい」。

この台詞でも有名なゲーテの『ファウスト』。ノーカット完全版で上演すると10時間↑になる超大作です。これを音楽劇として3時間で上演、構成も結構いじってあるそうです。原作は読んでおりません(アフタートークで、脚本の能祖さんが客席に挙手を求めたら、読破しているひとは「8人(笑)」でした)ので比較対象もなし。以下ネタバレありです。

いや〜何がすごかったって、篠原ともえちゃん!噂は伝わってきていたのですがホントにすごかった。狂信的な母親に育てられ、ファウストに愛されたばかりに転落の人生を辿る純真無垢なマルガレーテ。母と兄をファウストに殺され、彼の子供を身ごもり、生まれた子供を捨て、嬰児殺しに問われ、気が狂い、処刑される。1幕でここ迄やるんです。濃いよ!特に牢獄での狂乱っぷりがすごくって…怖くて鳥肌が立つって経験をしましたよ…。これを堕落したからだとか誘惑に負けたからだとか責められるかいな。そんなことじゃないよ、マルガレーテ、あなたは何も悪くないよおおお!とすっかり彼女に肩入れしてしまったので、このシーンではほんっと「ファウストのばかったれがあ!」とメラメラしながら観てましたよ。あんたのせいだあああ!とかって。それくらいかわいそーだったんだよ!

そしてファウストと結ばれるシーンのエロいこと!ちゃんとエロいところをエロく見せられてる。ビックリしました、かなり持ってかれた。『月光のつゝしみ』の時、女らしくなったなあ…と思ってはいたのですがこんなに化けるとは…。白井さんの抜擢も納得でした。後述しますが照明が独特で、このシーンの明かりもすごく良くて。篠原さんの白くて綺麗な肌(特に脚!)が暗闇に浮かび上がる妖艶さと言ったら!顔に明かりが殆ど当たらないんです。マルガレーテの羞恥心と、それでもファウストと結ばれたい願いがないまぜになっている様子がにじみ出て、それがまたエロい。これはよかったー。

いやあ、ホント素晴らしかった…いつか『ハムレット』のオフィーリアを演じてくれたらなあ…なんて思ってしまった。歌も流石でした。声もかわいいしなあ。

と、マルガレーテを絶賛しておりますが、他のひとはどうだったかと言うと。

筒井道隆くんの存在感は素敵でしたが、歌は唄わない方がよかったかも…テクニック的にかなり厳しかったです。音程がよれる、揺れる。石井一孝さんと一緒に唄うところは差が際立ってしまっていて、ちょっと気の毒でした。元の声は好きなんですけどね…。あと佇まいや雰囲気はいいんだけど、単純に立ち姿が美しくなかった(=猫背が目立つ)のが残念。まあこれを「いきなり若返ったからだよ!」って解釈してもいいんだけど…うーん、地のような気がします(苦笑)

キャラクター的には、ファウストはかなりスットコドッコイ(笑・いやホントに)で、それをメフィストがかいがいしく面倒見る図になるんですが、石井さんのメフィストは白井さん言うところの「この話はメフィストがファウストに惚れていく展開も軸になる」にぴったり。かなりお茶目さんでした。やることなすことお茶目すぎる!問題と答えは合ってるんだけど式が間違ってる!ああ言うふうにしか愛情表現が出来ないのね…悪魔だから仕方がないのか(笑)魅力的な悪魔さんでしたよ。自分の蹴り飛ばした椅子を自分で片付けたり、整頓好きでもありました(笑)

あ、あと河野洋一郎さん!あのガラッパチ(褒めてます。大好きなのよ!)が天使の役て!天使て!天使!天使!天使って!!!2階席最後列だったから最初どこにいるか判らなくて、休憩時間にパンフ読んでもう〜ビックリしたビックリした。あのひからびたねこ(私が言ったんじゃないですよ…『青木さん家の奥さん』で言われてたんですよ…)が天使!でも意外にしっくりきてまして(失礼)白い天使の衣裳も似合ってる!新境地だわ〜嬉しかったです。ちなみにあのしゃがれ声はもともとなんですよ…喉鍛えてなくて、嗄らしたって訳じゃないんですよ…ああいう声なんです。わかってやって…(笑泣)

峯村リエさんのマルテも愛嬌があってよかったです。だからあの最期は悲しかったなあ。彼女がもう少しマルガレーテと一緒にいられれば良かったのに。床嶋佳子さんのヘレナは、子供への愛情溢れっぷりがとても魅力的でしたが、展開が早い故そのシーンがあっと言う間に終わってしまったのが残念。

舞台構成はとても独特で、白井さんならではの不思議な感じがよく出ていました。天井とスライド式の壁がある舞台、スライドが動くことにより、台形にも三角形にも長方形にもなる。大きく分けてもシーンの転換(ファウストが移動する場所)数は18回あるので、このやり方は効果的でした。マルガレーテのいる牢獄のシーンでは、天井が下がってきて一気に閉塞感が増す。劇場の内装とも相まって、天国も地獄も目に見えるような恐ろしさがありました。

そして天井によって上からの明かりを封じているため照明が独特。舞台袖や、壁に映し出される映像からの明かりが多用されている。役者の顔にピンスポットが当たらない。マルガレーテとファウストの前述シーンではこれがとても効果的だったのですが、全編通してだとどういう意図なのか掴みかねました。アフタートークでお話を聞いて納得。

最後の最後、死んだファウストの魂を、約束通り奪っていこうとするメフィストを神が遮る。そこへマルガレーテが現れ、ファウストの亡骸へ寄り添う。これで良かったのかな、ファウストはともかく(笑)マルガレーテは…それほど彼のことを愛していたのねえとすっかりマルガレーテに持ってかれた3時間でした。

あーそれにしてもこの母子…『オスカーとルシンダ』思い出しちゃったよ。親が狂信者って言うか…。もう、こういうのしんどいわー。自分の身に憶えがあるからかも知れないけど。神を信じるってだけじゃダメなのかね。信じていることこそが信仰にならないのかね。何で自分はいつも罪深いと思ってなくちゃならんのかね。そういうことも悶々と考えてしまいました。

音楽劇としては、音響と生演奏の音が馴染んでいない印象を受けました。そして難解な曲が多い。唄う方も大変なんじゃないかなー。それだけこのストーリーの世界観を表したものだとも言えますが。中西俊博さんの普段見られない面を見られたようで面白かった。ファウストが死んでいくシーンの曲はよかったなあ…。

と言う訳で、すっごいいいシーンとう〜んう〜んなシーンがないまぜになっている状態でした。すっごいいいとこはすっごいいいいので、判断に困りますわ…う〜ん、でもこの劇場ならではのいいもん観たな〜と。なんか感想長いし(笑)

公演後のアフタートークにも参加してきました。長くなっちゃったんでこれは後日!