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2003年10月25日(土)
『赤目四十八瀧心中未遂』

ああ〜なんでこの2本をハシゴしてしまったんだ!と思わず後悔してしまったこの日。こんなすごい2本を1日でいっぺんに観てしまうなんて〜浸る暇がないじゃないか!ちなみに両作品に麿赤兒さんと森下能幸さんが出演されてました。それだけでもう濃いっつーの(笑)めちゃめちゃタフな2作品、まずは1本目『赤目四十八瀧心中未遂』。ネタバレしてます。

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『赤目四十八瀧心中未遂』@ポレポレ東中野

こ、これはすごい。今年のベストになるかも。この作品に関わったひとたちの思いがフィルムに焼きつけられているかのようだ。車谷長吉氏の直木賞受賞作『赤目四十八瀧心中未遂』の映画化。

“アマ”に自分が迷い込んだかのような錯覚を受けた。荒戸源次郎監督の集めたメンツが、その役を生きている。演技がどうとか言う余地を与えないのだ。寺島しのぶさんは綾ちゃんだし、大楠道代さんは勢子ねえさん。内田裕也さんは彫眉以外のなにものでもない。臓物を運んでくる犀ちゃん、タトゥーの業ちゃん、娼婦たち。綾ちゃんのお兄ちゃん。皆がアマに住んでいる。

それは生島役の大西滝次郎さんも同様で、彼だけが浮き上がっている。声がうわずったり、身体が小刻みに震えている様子は、序盤「主役に大抜擢されたプレッシャーか?」と勘繰ってしまったのだが、これはアマに馴染めないよそ者そのものなのだ。彼を「ハメた」演出の意図もあるかも知れない。スタッフの作った場で、もがきながら泳いでいる姿は、生島でしかなかった。

生島は全てを諦めているかのようで、まだどこかに逃げ道を探している。ロッカーで綾ちゃんを待っている間「来るな、来ないでくれ」と言ったのは死への恐れだったか、あの女とは添い遂げられない無念さから漏れたものか。電車のガラス越しの言いようのない表情に、安堵の欠片をも感じたのは自分の勘違いだろうか。彼はここにいられる人間ではないのだ。彼がよそ者だから、敵意を示される、視線に晒される。「あんたはこんな所にいるひとじゃない」と言われる。彼がよそ者だから、勢子ねえさんも自分の過去を話す。綾ちゃんとの死の道行から弾き飛ばされる。

だが死に損なった彼は、きっと何かを書くことが出来た筈だ。そしてまた何処に行っても「ここはお前のいるところではない」と言われ続ける筈だ。それがある限り、彼は書ける筈だ。それはものを書く人間にとってはこのうえなく不幸で、幸せなことだ。こういう書き方しか出来ないひとは、間違いなくいる。そしてそれは、ひと握りの人間にしか許されていない。だからこそ、どこに行っても居場所がない。

アマの住人に感じる愛情と嫌悪感は、自分が生島同様よそ者だからこそ湧く感情なのかも知れない。多分通じ合えることはないだろう。でも、彼らは今どうしているのか、とても気になる。あの路地を曲がれば、彼らがこちらを盗み見ているだろうか。

気になる点をひとつ。

犀ちゃんは生島のことを敵視しているように見えた。それはよそ者、闖入者に対するそれだと思うのだが、犀ちゃん自身は津軽弁を話していた。と言うことは、彼もよそ者だったと言うことか?生島に向かって、お前などアマに馴染めるはずがない、とでも言いたげだった犀ちゃんは途中でふいと姿を消す。この世界を出て行ったのか。生きて出て行ったのか、それとも死んだか。自分の意志かそうでないのか。この辺はとても気になる。

舞台挨拶の際、犀ちゃん役の新井浩文くん(青森出身)が「自分の台詞を津軽弁に書き直して台本に起こした。喋るのはすいすい出てくるのに、文字で書くとなると難しかった」と話していたので、脚本段階では津軽弁ではなかったと言うことか。原作ではどうなっているのだろう。

まだ気になるところは沢山ある。絶対リピートする。原作も読む。少しでもいいからアマに居着きたい。生島に感情移入して観てしまったので、次は綾ちゃんのことを考えたい。

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舞台挨拶も観てきました。荒戸監督、寺島さん、大西くん、大楠さん、内田さん、大楽源太さん、新井くんが来場。

新井くんは入場するなり客席にガンを飛ばすと言うふてぶてしさ。いや、そこがいいのよ!本人はガン飛ばしたつもりないかも知れないけど、目ぢからがすごいんだもんよ。そういえば犀ちゃんの登場シーンでも目がクローズアップされてたなあ。ホントにすごい目だ。

内田裕也氏はオヤジギャグを連発してました。オヤジギャグだけにサムいんですが、怖くて突っ込めません。

このあと横浜でも舞台挨拶があって急いでいたのか、終映後男性キャスト陣がぞろぞろと東中野駅に入って行くのを見てビビリました。で、電車で移動したのかな…裕也さん、映画の姿まんまの白髪ロン毛黒づくめだったんですが(笑)

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大森くんはタトゥーの業ちゃん役。普段大森さんていいひと〜なんて言われてますが、それ嘘だろ!相当悪かっただろ!と思ってしまいそうな程の柄の悪さでした。役がよ、役が。やっぱり怖い役者さんだ。好きな役者さんが、こんなにすごい作品に出ているって、このうえなく嬉しいことだな。