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2003年06月08日(日)
『エレファント・バニッシュ』

世田谷パブリックシアター+コンプリシテ共同制作『エレファント・バニッシュ』@世田谷パブリックシアター

テアトル・ド・コンプリシテ(現在はコンプリシテ)の演出家、サイモン・マクバーニーが日本の役者とのワークショップを経て、村上春樹のテキストを上演すると言う。しかもその役者と言うのが、吹越満、高泉淳子、堺雅人、宮本裕子、高田恵篤、立石凉子、望月康代。期待しない手はないでしょう。そして最近になってマクバーニーが『オネーギンの恋文』に出演していたと知り(タチヤーナの家庭教師役だったそうだが…お、憶えてない…)これも縁だわとますます期待が高まり(憶えてないくせにな)。

舞台の舞台たる由縁は、いつでも、どこででも上演出来ることだと思っている。そしてそれは、今ここでしか出来ないものをやることだとも思っている。この演出家、この出演者、このスタッフのカンパニーが、2003年の東京でしか観られないものを作った。ハコのつくりも個性的な世田谷パブリックシアターにぴったりの作品。このあとの大阪(シアタードラマシティ)、ロンドン(バービカン・シアター)の公演でもまた違った顔を見せるのだろう。

村上春樹フリークではないので(と言うより、村上春樹のテキスト自体はどうにもむず痒くて敬遠しがちなのだが、舞台にあがったものは好きだったりする。以前ニナガワ・カンパニーの待つシリーズで『ねじまき鳥クロニクル』の一部を上演したが、これもテキストと具現化された風景のギャップ、そこから滲み出てくる重さを面白く観ることが出来た)原作の構成には抵抗がなかった。ファンのひとはどう思ったんだろう。正直テキスト目当てではなかったので、マクバーニーの手法と、役者のあり方に注目した。

軽妙な文体を、暗い舞台、逆光照明、時には地上に立つことすらままならない(ワイヤーで吊られて90度傾いたままでの演技もある)役者の身体を通して見せる手法。モニターに映っていた役者の身体が、いつしか本体とズレている。ひとつの役のモノローグが、複数の役者によって語られる。言葉が身体から離れていく。

数回出てくる「大事なのは統一性です」と言う言葉が、序盤と終盤では全く違った意味合いに聞こえた。そうだろうと頭では納得しようとしている。しかし、そうではないと感じる肉体が、不眠の主婦、空腹の夫婦、消えた象とその飼育係のような現象を生むのかも知れない。逃げるのではなく、消える。そのあとは?無かも知れない。それを死と言うなら、そうかも知れない。しかし死ぬ迄生きて行かなければならないのは確かなことだ。それなら生きる。どうやって生きるのか?答が見付かる訳ではない。静謐な余韻と、不思議と心地よい疲労感の残る作品だった。

役者陣は吹越さんがダントツ。言葉とアイディアに身体がビュンビュンついていく。自分の肉体が言葉を発っしていると言う約束事すら有効ではない、自分の肉体ですら信用ならないこの舞台にいながら、自分の位置を把握出来ているように見えた。あの場にいてまだ遊ぶ余裕がある。台詞まわしの変化やアドリブだけではない、「今日この場ではこのやり方で行くけど、明日はどうなるか判らないよ」と言う余裕。何を考えているか判らない。底が見えない。舞台の舞台たる由縁を体現している。

正直観ていてヒヤヒヤしなかったのは彼だけでした…いや皆さんがんばっていたとは思うものの。吹越さんと2人1役を演じたパートの堺くんとかは面白かった。吹越さんとマクバーニーはウマが合いそうだなと勝手に期待していたので、これはすごく嬉しかったし、また何かやってほしいと思っている。

ワーグナー(これはテキスト指定)からUNDERWORLD迄、選曲も面白かった。楽日だけをとっていたのは失敗だったな、リピートしたかった。

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以下余談。

先日『ダウンタウンDX』を観ていたら広田レオナさんが出ていて、家族で動物園に行ったと言う話をしていた。「下の子供は動物園行くの初めてだったんですけど、ウチのダンナ(吹越さんですな)も青森の田舎育ちで、本物のキリンとか見たことなかったそうなんですよ、で、ダンナもうわ〜とか言ってて。その日の夜『レオナ、今日は楽しかった…どうも有難う』って言われて」。そこをすかさず「そんなじいさんみたいな、もうすぐ死ぬじいさんみたいやんそれ!」とDTのふたりに突っ込まれていたのだが(笑)これって今回の仕事のことも考えて、本物の象を見に行ったってのもあるのかしらん。象の絵を描くシーンもあったしね。微笑ましいお話でした。

それにしても『オネーギンの恋文』にマクバーニーが出ていたと言うことは、レイフ・ファインズと交流があるんだろうな。イギリスで舞台をやっているなら、お互い知らない筈はないだろうし。とはいえ、先鋭的な舞台を数多く手掛けてきたコンプリシテの演出家・マクバーニーと、クラシックなものをしっかり押さえているファインズの組み合わせは結構意外だった。マクバーニー演出のファインズはかなり観てみたい。とてもエキサイティングなものになるのではないだろうか。意外と(失礼)ファインズさんって身体が動くひとだしね。

そして世田谷パブリックシアター、次回の演目はジョナサン・ケント演出『ハムレット』。ファインズ主演の『ハムレット』を演出した彼ですよ!今回はオール男優キャストで、新しい試みが観られそうだ。何とか立ち見席を確保出来た、楽しみ。