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2003年05月18日(日)
『めぐりあう時間たち』

『めぐりあう時間たち』@新宿ピカデリー2

何も考えないで行ったら初日だった。もっと前からやってるんだと思ってた…(ボケ)と言う訳で結構混雑していました。以下ネタバレしてます、種明かしのような部分もあるのでご注意を。

1923年・リッチモンドで『ダロウェイ夫人』を執筆中のヴァージニア・ウルフ、1951年・L.A.で『ダロウェイ夫人』を読んでいる妊娠中の主婦ローラ・ブラウン、2001年・ニューヨークで“ダロウェイ夫人”とかつての恋人(だろう)に呼ばれている編集者クラリッサ・ヴォーン。彼女たちのそれぞれの1日。

3つの時代と場所の切り替えがとても巧い。混乱しない。「花は私が買ってくるわ」と言うひとつの台詞から、ぱあっと3つのパートに分かれる展開は絶妙でした。そして3人の女性の人生における不安、悲しみ、苛立ちがとても丁寧に描かれている(勿論、人生と言うのはこれだけに集約することが出来るものではないが)。それが描写だけでなく、ストーリー展開の鍵として美しく紡がれている。

この作品のヴァージニア役で、ニコール・キッドマンはアカデミー主演女優賞をとりましたが、ジュリアン・ムーア、メリル・ストリープも素晴らしく、誰が主役とは言えないくらいでした。白状すると私、メリル・ストリープの顔が苦手で(苦笑)彼女の出ている作品は避けがちなんですが、実際観てみるといいんですよね〜。ごめんな顔で選んで。ヴァージニアはいずれ自殺してしまうし、ローラは自分が犯した罪をずっと背負っていく覚悟を決めている。ストリープが演じたクラリッサだけは、前向きになれるものを感じた。それはとてもはかなくて、すぐに壊れてしまうものかも知れないんだけど。彼女の娘(クレア・デインズ)の存在も大きかったな。ここらへん、原作はともかく監督の味なのかしら。『リトル・ダンサー』もいろんなものを犠牲にしつつ、前を向いている話だったし。

最大の目当てだったジュリアン・ムーアはほんっとによかった。ヴァージニアは精神の病に不安と苛立ちを感じながら作品の構想を練っている。クラリッサはかつての恋人に死が近付いているのを予感しつつ、不安定な日々を送っている。そしてムーア演じるローラは、日常そのものとその未来に恐怖のようなものを感じている。いちばん思い切った行動に出たのもローラ。3つの話を繋ぐ人物でもある。

ローラをどう解釈するかで、この作品の印象はかなり分かれそうだ。「わかるわ〜」と言う部分がない訳ではないが、それでも「ひどい!」と思う部分もある訳で。「何が不満なの?あんなに夫に愛されていて、かわいい子供がいて」だけでは片付けられない“何か”にどこ迄共感出来るか。責めるのは簡単だけどね…。そこらへんの微妙な感情の揺れをムーアが見事に演じていました。上の空でケーキを作っているシーン。泣き叫ぶ息子を置いて車を走らせるシーン。クラリッサと話すシーン。どれもが大事。

『スパイダー』での演技が記憶に新しいミランダ・リチャードスンもよかった。『スパイダー』とはまた違った印象で、デリカシーがなく、妹ヴァージニアの不安に無頓着だが悪人ではない、結構複雑な役柄でした。決して長くない時間で、それを印象づける力はすごいなあ。あとリチャード役のエド・ハリスもよかった…(泣)

そして、あの子!ローラの子供・リッチー役のジャック・ロヴェロ!この子が素晴らしかった。あの目がね…。実は後のリチャードなんだけど。それが判ってからは、すんごい気持ちが沈みましたよ…。うーん、彼のことを考えると、ローラがやったことは決して正しくはないよなあと思うね…。でもそれはローラ本人も自覚しているからね。自分の人生だしね。

帰り道、一緒に観た姉がぼそっと「この映画、タイトル『女に振り回された男たち』でもいいよね…」と言いました(笑)た、確かに。やっぱりいちばん気の毒だったのはローラのだんなさんだな…。彼(ジョン・C・ライリー)『シカゴ』でもロキシーのだんなさん役で気の毒だったんだよね…(涙)