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2002年05月30日(木)
『欲望という名の電車』

シアターコクーンオンレパートリー2002
『欲望という名の電車』@シアターコクーン

ロビーで伊藤さんの話をしているひとがいる。もうそれだけで泣きそうになる。ここ数日は2ちゃんねる見て泣くくらいだったもので…。やばい、情緒不安定な時にこの作品はキツい。しかし千秋楽だったので、カーテンコールでかなり場がくだけてなんとかなった。役者さんが、役から離れた顔を見せてくれたので。大竹しのぶさんがぴょこぴょこ跳ねて客席に手を振ってくれた時は本当に嬉しかったと言うかホッとしたな。ほら大竹さんイタコ女優((C)永瀬正敏氏)だからさ…あのまま終わったら打ちのめされっぱなしです。

と言う訳で大竹さんに尽きる。凄まじいブランチを見せてくれました。ここ数作舞台では最終的にオカシクなる役が続いている(マクベス夫人、高村智恵子、ブランチ)のは何故なんだ。神経がずっとピリピリし通しで、どっちに転ぶかわからない不安定さはちょっとした仕種にも目が釘付け。姿勢を変える余裕もなく、翌日筋肉痛です…凄いもんを観ると、こちらの身体も酷使することになる。ラストの退場シーンでは客席のあちこちからすすり泣きの声が。反面笑えるシーンも満載で(テネシー・ウィリアムズの作品って親子とか兄弟のやりとりが面白いんだよね)、観客をひきつけ通しでした。優れたコメディエンヌはどんな役も出来る。ここでまた伊藤さんを思い出したけれども。

スタンリーも健闘。堤真一さんは脱いだり着たり脱いだり着たり脱いだり着たりで鍛えられた身体を見せつける。まずそこでアピールしておかないと、ブランチとの対比が出ない。荒っぽい言動、それでいてステラに甘える時のコドモっぷりの落差は面白かった。堤さんも役に全身全霊を傾けるタイプの役者さんなので、舞台仕事が入ると目に見えて痩せるし、後半戦になるとやつれて目がギラギラしてくる。今回は肉体維持の方も相当大変だったんじゃないだろうか。とはいえ観客はそんな事知ったことではないし、舞台の上での結果が全て。「役者は超人でなければならない」と言うのは、ある意味正しい解釈だと思う。

しかし皆さんケガが多かったらしい。あれだけ激しい動きがあるからね。堤さんも初日にセット壊したらしいし(笑)大阪公演が終わる迄大きな事故がありませんように。

蜷川組の装置、照明、音響は毎回申し分ないのだが、最高レヴェルのものを見せてくれた。ひしめいたアパート街を表現する為だろう、今回は得意の奥行き使いを封じている。客席にせり出してきそうなぎゅうぎゅうのセット、ブラインドから差す陽光(劇場に入った時点で「ああ、来てよかった!」と思える美しい照明だった)、大音量で流れるニューオーリンズ・ジャズとトランペットの生演奏、歌い手の生歌。生命力溢れる街の音、人間達の息吹が伝わってくる。蜷川さんは死への美意識がとても高く感じられるのだが、その分生きる喜び(勿論その陰の部分も含め)も伝えることを忘れないひとだなと思う。

ブランチの幻聴となるポルカ(ワルシャワ舞曲)や銃声は、幻聴だけに実際には鳴らさないでもいいっちゃあいいのだが、戯曲に忠実なことを絶対条件とする蜷川演出ではそこもキチンと再現しており、その音響が結構ゾワッとする巧い編集をしていた。特にミッチと話している時に幻聴を聞き出したブランチが「銃声が鳴ればこの音は止む」と言った時に鳴る音は凄かった。怖かった。

脚本に関しては、すまんこれ本当に個人の好みなのだけど、小田島雄志氏訳を読みつぶしているので、今回の小田島恒志氏訳(雄志氏の御子息ですな)は違和感があった。普通の口調を心掛け、「ブランチ」を「姉さん」にしたとの事だが、ブランチは歳を異常に気にしているので(ミッチに「私はステラより年下だ」と迄言うくだりもある)「姉さん」とは呼ばれたくなく、ステラに名前を呼ばせていたのではと言う解釈も出来るので、これは疑問。それと同性愛者の表現を何故あんなに遠回しにしたのだろう。現実に押し潰されるブランチ、と言う図がぼやけてしまう。ここらへんも疑問。

昨年の篠井英介ブランチ・鈴木勝秀演出では、最後に戯曲のト書きにはない(ないだけに演出の意図が問われる)演出があった。鈴木版では、ステラはスタンリーの手を離れ退場する。ユーニスもこれに続く。蜷川版では、泣きじゃくるステラに、ユーニスが泣いている赤ん坊を渡す。赤ん坊はステラの腕の中で泣きやみ、ステラも泣くのをやめる。そこをスタンリーが抱き締める。鈴木演出だと、ステラは家を出ていったのではないかと思わせられる。この違いは面白かったし、興味深く観た。

しかしこの戯曲は大好きな戯曲なだけにハードルも高いのだ(笑)と言う訳で難癖をつけると(ごめんホントにこれにはウルサイのよ)、大竹さんと寺島さんが上流階級出身に見えない(寺島ステラは健康的な美しさはあったが儚さが足りなかった)、堤さんが巻き舌過ぎる(粗野な男を演じるにしても…映画版『殺し屋1』の高山みたいだったよ…)、ミッチは「腹もひきしまって」と言ってる割に腹が出ている(ご、ごめん六平さん…)、幻聴音響は面白かったがあまりに続くと違和感が出てくる、大石継太さんは何でもこなす器用さと度胸がある好きな役者さんだがスティーヴには合わないのでは(声が高めなのも今回はマイナスポイント)…てなところか。しかし六平さんはオーバーオールが似合うなあ、新発見。そして髪がある六平さんは貴重です(ヅラだけど)。一瞬誰かわからんかった。そういえば六平さんは篠井スズカツの『欲望〜』を観に来ていたなあ。

しかしこの1年でこんなにレヴェルの高い『欲望〜』を2本も観てしまうと、今後はよっぽどのメンツが揃わないと行く気がしないかもな。10月にク・ナウカがやるらしいんだけどどうだろう。…て言うか篠井さん、再演お願いしますよ。上演権の問題はクリアしたので、ライフワークでコンスタントに上演して貰いたいものです。勿論スズカツ演出で。


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●余談1。東京千秋楽と言うこともあり客席も豪華でした。串田和美さんやらSABUさんやら堀部圭亮さんやら。ニナガワカンパニーダッシュの面々も来ていました。難波真奈美さん、近くで見たけどすごいほっそくてすごいかわいい。串田さんは『〜あさま山荘』で観たばかりだったので「うわ〜スクリーンで観たひとが〜」とちょっと感動。蜷川さんとロビーで談笑されてました。堀部さん、上演中くらいは帽子をとりましょうよ(笑)通路を役者が行き来する、客席多用の演出だったので一幕目から目について「帽子とれよ〜誰だよ〜」と思ってたら堀部さんだった…。それにしてもSABUさんは格好よかった。オシャレで。座っても頭ひとつ出ていた。後ろのひとは観にくかったかも知れないね(笑)休憩時間、必要以上にキョロキョロしてしまいました。

●余談2。多少元気が出て足取りも軽く家路へ…の筈が、代々木駅の火災で山手線全線ストップ、普段の3倍近くの時間をかけて帰宅。よろよろ。