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| 2003年05月29日(木) ■ |
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| 初めての経験 |
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聞いてくださいよぉ〜。
こないだ、生まれて初めて高校野球の監督と“話し”たんです。ほんまに「会話」やったんですよ。それも取材とか、コネクションとかそういうのではなくて、100パーセント素の身分、一人の野球ファンとして話すことができたんです。びっくりしました。
試合前、私は父兄さんのそばに座って、プレイボールの声を待っていました。すると、後ろで声がしたんです。「東山は浄土宗?知恩院さんだよね?うちは、浄土真宗。親鸞の浄土真宗だよ。ふふふ」
声のする方を見ると、ユニフォームを着た大柄で白髪の年輩男性。めがねをかけていました。足が悪いようで、一歩一歩にちょっと時間がかかっていました。見覚えのあるような、ないような…。相手の監督さん?いや、相手校の父兄さんに声をかけるなんてこと、ないもんな。当の父兄さんは試合前の準備に忙しかったため、私が「はい、そうですけど」と答えました。その人は、何も言わずにうなずくと階段を下りて、ベンチそばの石段に腰掛けました。試合前、軽いキャッチボールをする自校の選手たちをじっと見つめていました。
この人とは話ができるんじゃ。 そんな直感が働きました。 そばにいた顧問らしき教師やコーチがいなくなったのを見計らって、すすすっとその人の隣の忍び寄りました。(話を聞くときのいい距離感なんだとライター塾で教わりました)
「試合前はこうして選手の動きを見てはるんですか?」 それが私の第一声。その人は、たいして驚くでもなく。「ああそうだよ」と優しい口調で答えてくれました。でも、その目線が選手からは動きませんでした。別にそれを不快には思いませんでした。「動きを見てると、選手の調子とかが分かるんですか?」、私は質問を続けた。なんか年輩の方だし、ベテランの指導者には人を見抜く力があるような気がして。ところが、「そんなの、分かるわけないよ」。その人はそう言って、さっきと同じように「ふふふ」と含み笑いをした。「そうですよね、そんな簡単にわかるわけないですよね」。私は一人うわごとのようにつぶやいて、これからどうしよかと思案した。これで十分だ。「ありがとうございました」と言って失礼しようか。すると。
「あんた、ここの卒業生?」 んげっ。そうきましたか。「はい」と言ったら丸く収まる気もしましたが、私なんかに良心的に話してくださった方にそれもどうかと思い、「いえ、相手の東山を見に…」。「そうなんだ。熱心だね。弟さんがいるとか?」。そうなんだよね、多くの人がそう思うんだよね。普通そう思うよね。でも、ここでも丸く収められず。「いえ、全く関係ないただのファンです。おっかけというか、応援というか…」。ここで“おっかけ”という言葉を使った自分がちょっとズルいと思った。「おっかけも大変でしょ」。その人の一言に、やっぱり自分はズルいし、何一つ克服できていないと思った。「いえ、楽しいですよ」。半分ホントで、半分は嘘。
何の質問をしてそういう答えが返ってきたのかは忘れてしまったが、それでこの人がここの監督さんだと知った。「23年間、(愛工大)明電でやってたんだけど、監督。60になって、もういいかなと思って。でも、最後にひと花って、ここで五年間だけ」
! 明電の監督さんやったんや。さっき見覚えがあるような…と思ったのは、それでなんや。ヤボながら、「あのイチロー選手の母校ですよね?」と聞いてしまった。「そうだよ。ぼくの教え子だよ」。でも、ここでイチロートークをしてもしょうがない。それより目の前にいるチームがどんなチームなのかを知りたい。
もうそろそろ名前を書かなきゃ話がつながらない。ここは愛知県豊田市。真っ赤なユニフォームで甲子園にも名前を刻んだ豊田大谷高校。春はベスト4。すでに夏のシード権は確保している。でも、監督さん曰く、「とどめがさせないんだよ。残塁が多くて」。準決勝。7回まで2点リードしていた。「これは決勝かなあ」と思っていたら、3点入れられて…というのは試合展開。注目選手は、ピッチャーとショート。試合観戦ガイドを監督直々にしていただくとは、なんとまあ豪勢な。
また練習試合しましょうとか言って(なんで私に?!)、終始和やかな雰囲気だったが、そんな時間もいつかは終わる。98年、甲子園で見たブルドックが姿を消していた。おおよその理由はわかる。でも、聞いてしまった。「甲子園で見たときは、腕んとこのなんかマスコットキャラクターみたいなのがついてたように思ったのですが」。一瞬の間(ま)、空気が冷たく感じた。やっぱりよすんだった。「ああ、アレね。ブルドック。高野連がね問題だからって…」。やっぱりそうか。何を言っていいかわからず、沈黙が続いた。話を初めて、ときどきこっちを向いていた監督の目線は、もうこちらに戻ることはないと思った。「試合前にすみませんでした。ありがとございました。失礼します」。私は足早に階段を駆け上がり、元の場所に戻った。
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