
|
 |
| 2002年11月10日(日) ■ |
 |
| 私の彼 |
 |
彼は自分のことをあまり語りたがらないが、高校時代にしていたクラブについてはわりとよく話す。身長165cm、体重50kg台前半。未だに学生と間違えられてもおかしくないほどの童顔。彼が、「高校時代、アメフトをやっていた」と言うと、100人中100人が驚く。何を隠そう、私もその一人だ。
野球好きでずっと野球部に入りたかった彼だが、坊主頭がどうしてもイヤで、野球部に所属することはなかった。そんな彼が選んだのは、アメリカンフットボール。スタートがみな同じというのが気に入ったらしい。ヘルメットは、バイク用のスプレーとビニールテープを使って自分で装飾するのだとか、マネージャーが発注したユニフォームが小さすぎて格好悪かったとか…。話すたびにエピソードが増えていく。
小柄で足の速い彼は、何というポジションかは忘れたが、ボールを受け取って、走るのが役割だったという。野球で言うと、ピッチャー並に目立つところだ。あわよくばタッチダウンも決めることができるポジションだが、彼にはその経験が一度もない。せっかく独走状態に入っているのに、ほどけた靴のヒモに躓いてこけたりして、何故かチャンスに恵まれなかった。でも、それは実力だった言えるかもしれない。彼は、高校3年の春に引退した。
その後、チームは全国大会出場を決めた。「悔い、残ってへんの?」と何度か訊いた。ところが彼から返ってくる答えは、「受験があったしなあ」とか「俺は(監督に)あまり重要視されてへんかったから」と訊くたびに違う。要するに、はぐらかされている訳だ。ただ、必ず口することがある。
「社会人のチームと試合をしたんや。ブォーンと吹っ飛ばされんねん。片手で…」
彼は、おどけてぶっ飛ばされたときの顔マネをして笑うのだが、私は一緒になって笑えなかった。
ある日、そんな彼と初めてアメフトの試合を見に行った。アメフト観戦デビューの私は何も知らない。だから、アホみたいに、「タッチダウンって何?」とか「今、何か黄色い物体が飛んできたけど、あれは何?」といちいち質問していた。最初は丁寧に答えてくれた彼だが、試合が進むにつれて寡黙になった。隣に私がいることなど忘れてしまったかのような真剣なまなざしでフィールドを見つめていた。見たことのない目をしていた。
|
|