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| 2002年08月10日(土) ■ |
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| 神様の根負け |
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友人が応援している神奈川代表の桐光学園の戦いぶりを見ようと、朝からテレビの前に張り付いていた。試合はみなさんすでにご存じの通り、延長13回に及ぶ大熱戦で、12回裏までスコアボードには24個の“0”が並んだ。
大会前、その友人と話をした。今年の神奈川の最有力校は東海大相模だったようで、その友人も応援していながら、「今年は東海大相模なんじゃないかな」みたいなことを言っていた。そんな友人に甲子園行きを決めた最大の要因を訊くと、間髪入れず、「ピッチャー」という答えが返ってきた。
エースである清原投手は、大会を通じて大きく成長したようだ。元々実力のあるピッチャーだったようだが、優しい性格(友人談)。最後の夏に芽生えた「責任感」という気持ちが同校を日本一の激戦区の頂点に導いたのだという。友人は「責任感」という言葉を使ったが、私は彼の話を聞いていると「精神力」という言葉にたどり着いた。
失礼ながら、緒戦は快勝するのではないかとのんびり見ていたが、6回くらいから「え、ヤバイんじゃないの?」と不安になり、姿勢を正した。スタンドのどこかで見守っている友人にあと3日後の自分を重ねていた。
野暮かもしれないけど、私は“野球の神様”の存在を信じる。今日の試合で痛感したのは、その神様はがんばっている人にラッキーをもたらすだけではないんだということだ。
対戦相手の2年生・内山投手は、私の思い描くエースのイメージの典型的なタイプだ。背が高くて細身で、やや色が白く、端正な顔つき。そんな彼は神様に気に入られたようで、試合中に目に見えるように成長を遂げていった。勉強においては、元々頭にいい子はちょっとヒントを与えただけですらすらと問題が解けるようになるが、ちょうど彼の投球はそんな感じだった。
しかし私が釘付けになったのは、清原投手の方だった。内山投手がエースのイメージを地でいくタイプなら、彼はその全く逆を行くタイプ。背は高いのだと思うが、少々肉付きがいいため、そう感じることができなかった。色は日に焼けて黒く、顔のパーツ一つ一つがしっかり自己主張をしている。眉毛が太かったのは、個人的に好印象。
神様は、そんな彼がちょっとお気に召さなかったらしい。いや、嫌いではない。むしろ好きな部類なのだが、神様にすがることなく、しっかり自分を持ってたくましくなったであろう彼にちょっと嫉妬していたんだ。もっと、ぼくを頼りにしてよって。だから、ちょっと試してやろうと思ったのかもしれない。「君は、この夏、神奈川大会で大きく成長したようだね。ほう、どれだけ成長したか見せてくれないか」そう言って、次々と苦しい場面を用意する。
初回と中盤、先制のチャンスを逃す。そして、延長に入ってからは常にピンチの連続。試合の流れは相手有利。味方のエラー、思ったように決まってくれない変化球、挙げ句の果てには疲労の限界に来ているときに頼りにしているキャッチャーにアクシデント。いつ集中力を切らして、自滅してもおかしくない。そんなシチュエーション。
でも、彼は乗り越えて行く。味方がエラーしたときには三振を奪い、ピンチのときも冷静に打ち取る。次から次へと試練を課す神様に対して、怒るだけでもなく、嘆くわけでもなく、助けを懇願するわけでもない。きっと内心はすごくしんどかったと思う。でも、表に出さない。表に出すと、神様が「ざまあ見ろ」とあざ笑うだだろう。いや、もしかしたら神様になどかまっているヒマがなかったのかもしれない。勝ちたい、その気持ちだけを持ち続け、味方が点を取るまでは相手にホームベースを踏ませない、大げさに言えば、彼の仕事はそれだけ。
あの手この手で、神様は彼を試した。彼が泣き言と言ってきたら助けてやろうとも思った。でも、そんな彼を見たくないとも思った。神様は、試練を用意しながらも段々彼を応援し始めてきた。13回、夏に日差しはピークに達した。暑い暑い。はあ、もう意地張るのも疲れた。やめ、やめー。
延長13回表、足を痛めたキャプテンのランニング3ランが決勝点となり、彼は勝利投手となった。試合終了後の彼の表情を見た。喜びが爆発…してはいなかった。ホッとしたような笑顔。いや、それほど笑ってもいなかったかもしれない。神様を挑発しないように。
意地悪をすると、しんどいのは相手より自分。これは、私もすごく痛感していること。神様、次は彼の味方になってあげてね。
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