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あるこのつれづれ野球日記
あるこ
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2002年05月21日(火)
“for you&me”(読書感想文+α)

 先週末、兵庫→仙台と野球旅をしていた間にお供としてリュックに忍ばせていた一冊の本がある。中村素至著「もうひとつのフィールド・オブ・ドリームス〜伝説のエース小川健太郎物語〜」(新風社)という本だ。

 小川健太郎というピッチャーを私は知らない。しかし、本や雑誌でときに話題にされることがあり、どんなピッチャーだったのかには興味があった。

 小川投手は、昭和40年代中盤、オートレース事件による「統一契約書の不正履行」により、球界から姿を消さねばならなくなったのだが、彼の現役時代を知らない私のような人間は、そのイメージが先行してしまがちである。

 この作品を読んで、“報道機関が真実を伝えるためのものである”という概念を考え直さなければならないとすら思った。

 小川投手は、野球を真剣に遊んでいた人だという印象を私は持った。彼の顕著な特徴である背面投げは、自身やファンを楽しませるエンターテイメント的要素でもあり、強敵に立ち向かうための苦肉の策でもあった。

 また、試合前に公園で子供とキャッチボールをしたり、疲れた日でも子供ファンにきちんとサインをしてあげたというエピソードがあるが、単にファンサービスというのではなく、自身が純粋に子供が好きだったからだという。(夫人が筆者に「あれは本人が遊びたかっただけですよ」とも語っているのだが)

 私はどうも「人のため」とか「あなたのために」という言葉を受け付けない。そんなアホなと思ってしまう。

 私が最初につとめた会社の社訓に「まごころ・for you・思いやり」という言葉があった。でも、お客さんからお金をもらっている以上、“for you”ではなく、“for you&me”だと思う。

 自分が人に対してしたいことが、結果的に人のためになっている。それでいいと思う。だから、「人のため」とか「あなたのため」というのは、相手が決めることであって、こちらが決めることではない。

 (だいたい、人に「〜してあげる」という言葉が口につくこと自体傲慢だと思う。そういう人に限って、感謝されなかったり、見返りがないと腹を立てるケースが多い)

 小川投手が多くの少年ファンに愛されたのも、一連の行動が、子供のため、野球のためではなく、自分のためという要素があったからではないかなと思う。

 そんな少年ファンも、今は3,40代に達している。事件が発覚し、彼が球界から追放されたとき、みんなはどう思ったのだろう。子供だから、事件の真相も重要性もよくわかっていなかったかもしれないが、「裏切られた」と思った子がいなかっただろうか。そうだとしたら、やっぱり悲しい。

 でも、少なくとも少年時代彼のファンだった筆者はそうは思っていない。だからこそ、こういう作品を世に送り出したんだろう。

 子供が好きだった故人は、この作品の存在を天国で誰よりも喜んでおられるかもしれない。