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| 2002年03月22日(金) ■ |
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| 火災発生?! |
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人間、何が一番怖いかって、自身の生命の危機を感じたときなのかもしれない。
現在の仕事に限らず、通勤となるとたいてい地下鉄を使う。京都市街に出るにはこれが一番安くて便利な手段なのだ。
今日は、仕事が早上がりになり、ご機嫌で帰路についていた。いつもよりやや大きなボリュームでウォークマンを聴きながら電車を待っていた。
駅のホーム、目線を上げると、電光掲示板がある。どこ行きのホームで、また次に来る電車は今どこら辺を通過しているのかがわかるあれだ。ホームについたとき、次の電車は二つ前の駅を出たところだった。あと、2〜3分で来るな。その思い、しばらくウォークマンから流れる音楽に聴き入っていた。
すると、何故かわからないけれど、ただごとではない雰囲気を感じた。なんだか周りが騒がしい。
「!」
私は慌てて、イヤフォンを外し、当たりを見渡した。何やらアナウンスがあったようだ。でも、状況がまだつかめない。
そして、何を思ってか、電光掲示板に目をやった。
「中2階で火災発生」
!!!!! さっきまでのどかに電車の通過状況を知られていた暖色系のランプではなく、周りは真っ黒。2倍大の赤い文字が仰々しく目に飛び込んできた。
火災って、火事のことやんなあ? どっか燃えてるってことやんな? 大変だ、大変だ、どうしよう、どうしよう。
頭の中がパニック状態になった。 本当ならすぐにでも逃げるべきなのだけど、こういうときに限って、足がすくむ。それに、火災発生は中2階。ここは地下2階。一体どこに逃げればいいんだ?!
これから自分はどうなるのだろうと思った。 こうしているうちにどんどん火は広がっているのだろうし、それでも逃げ場はない。そのうち、場内アナウンスで何か指示があるだろう。
そういえば、地下鉄で災害にあったときのこと、何も知らない。非常階段とかいった類のものはあるのだろうか。何気なく乗っているけれど、地下鉄に乗るっていうことはある意味命を預けることだなあと思った。
人間、自身の「死」を思うとき、様々なことが走馬燈のように頭を駆けめぐるのだという。
私の趣味は、野球。試合も見るし、こうして野球日記をつけているため、日常生活をしているときにおいても常に野球を意識している。旅行に行っても観戦を兼ねていたり、どこかの高校のグランドに行ったりと、ほぼ片時も野球のことから頭が離れない状態が続いている。
そんな自分だから、きっとそういうときも野球のことを考えるのだろうと思った。「ああ、阪神の優勝を味わうことなく死んでしまうのか…」「春季大会、見たかったなあ」「ホームページどなしよう」等々。
ところが実際は違った。 脳裏から野球のことなど、すっぽりと抜け落ちていた。 自分が野球が好きであることどころか、この世の中に野球というスポーツがあることですら、すっかり記憶からそぎ落とされていた。頭の中の大半を占めていたことが、一瞬で吹き飛んでしまったのだ。
まっ先に浮かんだのは、これからまもなく起こるであろうパニック現象の中に組み込まれている自分の姿だった。黒い煙が充満する中、ハンカチで口を押さえて逃げまどう。…あ、今日、ハンカチ持ってきたかな。ふとズボンのポケットの中を探る。一酸化炭素中毒って苦しいんだろうな。どれくらい苦しいんだろう。あーあ、イヤだな苦しみながら死ぬのは。「九死に一生スペシャル」みたいに何とか助かる方法はないかな。そういえば、以前本屋で立ち読みした手相の本に「九死に一生の相」が載っていた。自分の手を見たら、同じものは左手のひらにあったっけ。
あ、そういえば、電車がこちらに向かっていたはずだ。 気になって再び電光掲示場を見た。すると、すでにそこには恐怖の館のような「火災発生」の文字はなく、再び電車の通過状況が示されていた。電車は一つ前の駅を通過し、こちらにむかっているようだ。
そうだ!ここが火事でも、電車に乗って現場を去ればいいんだ!
早く来て、頼むさかい、早よ来てぇや。
景色がないから地下鉄はおもろないとか、車体がダサいとか、階段多すぎるからお年寄りの天敵だとか、運賃高すぎるとか、駅構内に売店がなくて不愉快だとか…。そんな文句言ったことは謝るからさ。
地下鉄の駅間は大体2〜3分程度なのだが、今日ほどこの時間を長く感じたことはない。周りのことなど、考えられなかった。とりあえず、「自分さえ助かれば…」と思った。
そんな思いをよそに、電車はいつも通り、ゆっくりブレーキをかけて停車した。しばらく開いているその時間も惜しい。もういいから、早く!
ドアが閉まり、電車が動き出した瞬間。「勝った〜」と思った。生きることを勝ち取った気分だったからだ。ホッとして、肩でため息を一つついた。
追伸:このあと車内で、火災発生は「点検中」であり、確信情報でないことを知った。コンピューター等で制御されている装置は、過剰反応することが往々にしてあるのだという。けれど、気になるので明日はちょっと早起きして、朝刊に目を通そう。
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