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2003年12月26日(金)
■『話を聞かない男、地図の読めない女』 ★★★★☆

著者:アラン・ピーズ/バーバラ・ピーズ  出版:主婦の友社  ISBN:4-07-226514-4  [EX]  bk1

【内容と感想】
 男性と女性では、感じ方や物事の解釈が大きく異なり理解に苦しむことがよくある。本書は、科学的な研究で解明された男女の身体の構造から来る違いを、できるだけ専門用語をはぶいて一般の人にも分かりやすく説明したものだ。生活の中で誰もが思い当たる具体的な事例に落とし込みながら説明してあるので、取っ付きやすい。何年か前にずいぶんブームになった本だが、今さらではあるが読んでみた。文庫本もすでに刊行されているようだ。さすがはブームにもなっただけあって、目から鱗の落ちるような事例がいくつかあり、面白かった。


 人間は文明的な生活を始める前に何十万年という長い狩猟時代を過ごしてきた。男性は狩猟に適するよう空間能力を発達させ、女性は子育てや社交に適するようコミュニケーション能力を発達させた。身体の構造の違いもさることながら、脳でさえ構造や働き方が男女では異なっていて、考え方もそれに伴い異なっているらしい。

 男性は話をするとき左脳しか使わないのに対し、女性は左右の脳の連絡が非常に良くて両方を使うことが出来るそうだ。発話を担当する中枢も、男性は特に無いのに対し、女性ははっきりと存在するのだそうだ。そのため、女性はいくつもの話題が脈絡なく展開されても話題についてゆけ、話をしながらでも別のことができる。一方男性は一度に一つのことしかできない。そのためか、論理的に話し、途中で口をはさまれると邪魔されたと怒る。女性はコミュニケーションを重視して相対的に物事を考えるのに対し、男性は空間能力を刺激するものに興味を示し、絶対的に物事を考える。

 狩猟をしなくても良くなった現代でも、こういった身体の違いや考え方の違いは生きていて、誤解の元となっているようだ。これを読むと思い当たる経験がいくつもあり、説明しても説明しきれなかった感じ方の違いや、誤解の元となったすれ違いの謎が解けた気がする。

 考え方や興味の対象が違うということは以前からわかっていたものの、身体の構造の違いに伴って考え方までこうも違うものだとは、思っていなかった。どちらが良い、悪いではなく、違うということを認識し、お互いそれに合わせて譲歩する必要があるようだ。また、自分自身、意識していなかったにもかかわらず、まったくプログラムされたとおりに考えていたことにあらためて驚いた。

 その他にもホルモンが身体や考え方に与える影響、ゲイやレズビアンはなぜそうなるのか、男女のセックス感の違いなど、数々紹介されていて面白かった。男女がお互いや自分自身を理解するための助けとなるだろう。

男が暖炉の火をぼんやり眺めていると、女は愛されていないと思いこむ。

男は問題を解決するために、ひとり石に腰かける。
女があとを追いかけても、蹴りおとされるのが落ちだ。

男が石に座りこんで考えにふけりはじめると、
女は見捨てられた、愛されていないと感じて、母親、姉妹、女の友達に電話をかける。

どんな気持ちなのか、何を悩んでいるのか女が聞きだそうとすると、男は抵抗する。批判されていると感じるし、自分は無能で、彼女のほうが良い解決策を持っていると思うからだ。だが女の言い分はちがう。アドバイスすることで彼の気持ちを楽にしてあげたいし、相手と信頼関係を築きたいだけで、男のことを弱虫だとはちっとも思っていない。

男は男で、女の言葉を個人攻撃と受けとめず、本来の意図を正しくとらえるよう努力するべきだ。男の間違いを指摘することが、女のねらいではない。愛する男にもっと良くなってもらいたいと思っているからだ。だが男は、女に何か言われると、自分が無能だと感じてしまう。誤りを認めたくないのは、女に愛想をつかされるのが怖いからだ。でもほんとうは、素直に自分が悪いと言える男を女は愛する。


女が悩みについて話すのは、ストレス軽減策にすぎない。聞いてもらいたいだけで、解消してほしいとは思っていないのだ。

一日分のコミュニケーションをこなすために話しているとき、女は口をはさまれることも、解決策を教えてもらうことも望んではいない。

ストレスやプレッシャーを受けている女は、苦労している自分を慰めるために夫や恋人と話をしたがる。だが、男にしてみれば、それは問題解決プロセスの障害でしかない。女はおしゃべりして、抱きしめてもらいたいのに、男は安楽椅子にひとり座り、暖炉の火を静かに見つめていたいのだ。女から見れば、そんな男は薄情で無関心に映るし、男にとっては女は訳知り顔でうっとうしい存在になる。こうした感じ方のちがいは、脳の構造や優先順位のちがいなのだ。

女が興奮してしゃべっているとき、解決策を提案したり、感情を踏みにじるようなことを言ってはいけない―話を聞いているというそぶりを前面に押し出すことだ。

女は腹が立つと友人に電話をかけて思いをぶちまけるが、男は腹を立てると車のエンジンをいじくったり、水漏れする蛇口を直したりする。



2003年12月18日(木)
■『魔王の聖域』 ★★★☆☆

著者:ピアズ・アンソニィ  出版:早川書房  ISBN:4-15-020044-0  [FT]  bk1

【あらすじ】(カバーより)
魔法がすべてを支配する別世界ザンス。なぜ、この地にはかくも魔法が満ちているのか? この謎を解明せんと、王室調査官ビンクは魔法の源を求めて旅に出た。護衛役はセントールとグリフィン、しかも案内人は魔法使いハンフリーという顔ぶれ。まさに鬼に金棒、敵意ある魔法の脅威など恐るるにたらぬとばかり、ビンク一行はザンスの秘境へと向かったが…。アメリカ本国で大ベストセラーを記録する人気シリーズ第二弾。

【内容と感想】
 魔法の国ザンスシリーズ第2作目。あまり店頭で見かけないザンスシリーズだが、大きな本屋に行く機会があったので購入。ぼちぼちと読んでいくつもりだ。


 前作『カメレオンの呪文』で、新しい王が魔法の国ザンスの王位に付き、ビンクが王室調査官に任命されてから、1年がたった。ビンクは王の命令で、ザンスの魔法の源を見極めるための旅に出る。同伴者はセントール(上半身が人間で下半身が馬)のチェスターと、兵士クロンビー。クロンビーの持つ魔法の力は、正しい方向を察知し指し示すことができるというものだった。移動の便のためにクロンビーはグリフォンに姿を変えられ、ビンクはチェスターの背中に乗って、旅に出た。途中強力な魔法使いハンフリーと、グリフォンになったために言葉が通じなくなったクロンビーの通訳としてゴーレムのグランディが加わり、旅は続けられる。

 それぞれ自分の求める答えを得るために旅をするところは、『オズの魔法使い』と少し似ている。グランディは自分が本物の生き物ではないことを悩み魂を手に入れたがっている。チェスターは魔法を忌み嫌う種族のセントールではあるが、自分自身に魔法の力があるかどうかを知りたくて悩んでいる。ハンフリーは知識を求め、ビンクは自分の力の性質がザンスの魔法の源とかかわりがあって命を狙われている原因を探ろうとしている。

 旅はザンス特有の魔法の力でさまたげられ、スラップスティックともいえる騒動が次々とおこる。ザンスにはドラゴンやマンドレイク、グリフォンなどといった伝統的な怪物も多いのだが、ザンスにしかいないであろう魔法的な存在も多い。例えば靴の実る靴の木や、サクランボ爆弾の木、酸を吐く酸化猫、ドアノブの木、絵画羽バエ、頭脳サンゴ、etc…と、単に便利なだけのものから思わぬ危険なものや、何だかわからないものまでさまざまなものがあり、ひとつとして同じ魔法はない。旅ではこれらの魔法が原因で騒ぎが引き起こされるのだが、真剣に戦っていてもどこかおかしみがある。

 幽霊を人間に戻し、ドラゴンに追いかけられ、悪魔を瓶から助け出し、星座の攻撃をかわし、セイレーンやゴルゴンの誘惑を退け、ニンフと恋に落ち、ザンスの魔法の源を解き放つ、そんな大冒険が繰り広げられるのがこの物語なのだ。あっけらかんとした明るさと、ビンクの持つ道徳的な正しさが、このシリーズのハチャメチャさ加減とうまくバランスをとっているように思える。


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