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2002年06月24日(月)
■『カメレオンの呪文』 ★★★★☆

著者:ピアズ・アンソニイ  出版:早川書房  FT]  bk1

【あらすじ】(カバーより)
魔法がすべてを支配する別世界ザンス。この地では、誰もが独自の魔法の力を持っていた。だが、青年ビンクだけは別だった―魔法の力がないのだ!25歳をすぎても魔法の力がない者は、この異世界にとどまることはできない。これがザンスの掟だ。ビンクもあとひと月で25歳。彼は、己の内に潜む魔法の力を捜して旅に出たが…。鬼才が緻密なプロットと奔放な想像力を駆使して描いた、1978年度英国幻想文学賞受賞作。

【内容と感想】
魔法の国ザンスシリーズ第1作目。魔法のある土地ザンスに生まれ、魔法の力を持っていることを証明できないために追放されようとしている青年ビンクの冒険の物語。


ザンスは魔法の存在する地である。人間は、魔法のない土地マンダニアから移住してザンスに住み着き、長年その地で暮らすうちに魔法の力を使えるようになった。現在ザンスは生きものの出入りを封じるシールドで覆われていて、マンダニアの人々の目に触れずひっそりと隠されている。

ザンスでは魔法を使えない人間は追放されることになっている。特にこれといった力を示すことの出来ないビンクは、力のある魔法使いハンフリーに自分の力を証明してもらうため、旅に出た。ザンスでは生命のないものでも魔法の力を持っていて、道のりは危険が多く、旅は困難の連続である。ビンクの旅と共にザンスの歴史が語られ、不思議なザンスでの魔法の在り方が紹介される。


魔法の世界を扱ったファンタジーとは言え、魔法が万能とは扱われていないところが良い。ある一定の法則の働いているし、扱える魔法の種類も個々人の得意分野に限定されていて、さまざまな制約事項に縛られている。この辺の理詰めの成り立ちがSFっぽい。ビンクは魔法の力は示せないものの、知恵を働かせることによって困難を切り開いてゆく。

魔法でさまざまなことが可能なザンスではあるが、それ以外はむしろ、非常に理詰めにストーリーが進んでゆく。魔法よりも、論理的な発想や試行錯誤で困難を切り抜け、何よりも忠誠心や正しいと思うことに勇気を持って忠実に行動していることに好感が持てる。悪しき魔法使いでさえ、卑怯なことなどせず、かなりまっとうに行動しているのである。

また、魔法もさまざまなものが登場していて楽しめる。想像上の生き物のドラゴン、バシリスク、コカトリス、スフィンクス、ハーピー、フェニックス、グリフィン、キメラなど総動員だし、他にも独創的な魔法で守られているものがたくさん出てくる。成り行き上一緒に旅をすることになるカメレオン娘やトレントも個性豊かで、共に苦難の旅を乗り越えていく。


ビンクがザンスにとどまれるかどうかをかけた冒険はひとまずこの巻で決着がつくのだが、ザンスにまつわる謎はまだまだあって期待をそそる。なぜザンスの地には魔法の力が働くのか。それはどういった性質の物なのか。シールドで交流が閉ざされたザンスはこれでいいのか。この1巻だけでも話は完結していて楽しめるが、伏線も多く張られていて、それがどのように展開するのか楽しみである。


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