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2003年11月26日(水)
■『第六大陸』2 ★★★☆☆

著者:小川一水  出版:早川書房  ISBN:4-15-030735-0  [SF]  bk1

【あらすじ】(カバーより)
天竜ギャラクシートランス社が開発した新型エンジンを得て、月面結婚式場「第六大陸」建設計画はついに始動した。2029年、月の南極に達した無人探査機が永久凍土内に水の存在を確認、もはや計画を阻むものは存在しないかに思われた。だが、再起を賭したNASAが月面都市計画を発表、さらには国際法上の障壁により、「第六大陸」は窮地に追いやられる。計画の命運は? そして妙が秘めた真の目的とは?―全二巻、完結。
【内容と感想】
 知らない間に2巻目が出てました。前回が「第六大陸1」だったので、2、3と続くのかと思っていたら、今回が完結篇でした。


 日本の民間企業により月に結婚式場を建設するプロジェクト「第六大陸」は、いよいよ本格的に着工した。しかしさまざまな問題が浮上し、「第六大陸」は窮地に追い込まれる。

 NASAは、それまで主力を注いでいた火星有人探査計画を変更して、月面都市リバティ島の建設計画に切り替えた。しかも建設地は第六大陸と同じクレーター内である。また、アメリカは日本政府に対し、「第六大陸」が国際条約に違反していると告訴した。すっかり大人になった妙の巧みな戦法で何とかそれは切り抜けたものの、ついに致命的な事故が起こり、プロジェクトは暗礁に乗り上げる。常に冷静だった妙が心理的に追い込まれ、青峰走也も妙を理解しきれなくなってしまう。また、マスコミ対策、人材養成、資金繰り、デブリ対策など、問題は山積で、計画は苦境へと追い込まれた。

 妙は自分の心に鬱屈していたものの正体に気付き、人々の声援を広報の一貫としてではなく素直に受け止められるようになったことで、成長する。

 ラストで、1巻から示唆されていた意味ありげな伏線が明らかになる。実際にはこういうことはあり得ないのだろうが、夢とか、ロマンの部分での読者サービスとして楽しめた。もしかしたらこういうこともあるかもしれないと思うとわくわくする。ラストをどう落とすのかと思っていたのだが、こぶりながらきれいにまとまっていたように思う。月ににょきにょき延びて聳え立つ、壮麗なサグラダ・ファミリア。見てみたいものだ。



2003年11月12日(水)
■『あなたの人生の物語』 ★★★★★

著者:テッド・チャン  出版:早川書房  ISBN:4-15-011458-7  [SF]  bk1

【あらすじ】(カバーより)
地球を訪れたエイリアンとのコンタクトを担当した言語学者ルイーズは、まったく異なる言語を理解するにつれ、驚くべき運命にまきこまれていく……ネビュラ賞を受賞した感動の表題作はじめ、天使の降臨とともにもたらされる災厄と奇跡を描くヒューゴー賞受賞作「地獄とは神の不在なり」、天まで届く搭を建設する驚天動地の物語―ネビュラ賞を受賞したデビュー作「バビロンの搭」ほか、本邦初訳を含む八篇を収録する傑作集

【内容と感想】
作者テッド・チャンはデビュー作「バビロンの搭」で一躍注目された若手SF作家だそうだ。発表作は現在のところこの本に収録されている中・短編しかないようだが、発表作品がこれだけの割に受賞暦が華々しい。実際読んでみると好評なのも納得できる。作品のテーマと表現方法を見事に調和させた構成も上手いが、何より作者自身がいちSFファンとしてSF好きのツボを押さえている所が面白さのゆえんかもしれない。

『バビロンの塔』
天まで届くバビロンの塔をより高くするために、空の丸天井に穴を掘りにやって来た鉱夫ヒラルムの物語。荷車を引きながらだとゆうに4ヶ月はかかるという搭の頂上までの道のりを、車力達と共に登り始める。ヒラルムの目を通して、搭の町で営まれている生活の様子が綴られている。そうして物語が進む中、ある段階でいきなり世界が我々の知らないものへと変容する。この落差が非常にSF的だ。物語風な語り口もとても私好みだ。ネビュラ賞受賞。

『理解』
新薬の実験で超人類となった男の物語。知能は向上し、肉体の制御力も増す。理解力が飛躍的に向上しため、物事の統一的全体像を瞬間的に把握でき、あらゆることに意味や予兆を見出せる。超人類となった主人公の能力と世界の見え方、超人類としてどう生きるかが、現代的な感覚で描かれている。超人類同士の対決が見物。

『ゼロで割る』
数論の矛盾を証明してしまった数学者レネーと彼女の夫の話。自らの心のよりどころを否定する証明をしてしまったレネーは、その事実に打ちのめされる。もしレネーがこの後に収録されている『顔の美醜について』に登場する「カリー」を処置されていれば、ここまで数学に全面的に依存しなかったのだろうか。少しステレオタイプな気もする。ところでテーマとなった数論はゼロによる割算を使用したものだが、はっきり言って難しくてよくわからない(笑)。章の構成がこの数論を反映させてあり、凝ったつくりとなっている。

『あなたの人生の物語』
エイリアンの通訳に携わった女性言語学者ルイーズの語る娘の一生の物語。エイリアンの表記方法を学ぶうちに、ルイーズはエイリアンのような物事の見え方が身につく。彼女が通訳をする過程が語られる中に、彼女の娘のエピソードが未来を予言する形で挿入されている。これがなんとも上手い。エイリアンの表記と物語の作風が見事に一致している。この物語はこういった書籍形式ではなく、寄せ書きのようにさまざまなエピソード群を一枚の大きな紙に書き連ねた形式で読んでみたい。どこからでも読めるその書き方はこの作品を表現するのにふさわしい体裁なのではないだろうか。なかなかの傑作だと思う。ネビュラ賞・スタージョン賞・星雲賞受賞。

『七十二文字』
粘土などで創ったオートマトンを動かすための「名辞」の物語。「名辞」は文字の組み合わせでできていて、エンジンのような役割を果たしている。オートマトンとはロボットのようなもの。と言ってもまだたいしたことはできず、粗雑に動くだけだが。時代はヴィクトリア朝だが、錬金術が息づきユニコーンやホムンクルスの実在する少し異質な世界が舞台。名辞師ストラットンは、複雑な動きをこなせる名辞を開発した。そしてこれを社会に広め、労働者階級の人々でも豊かに暮らせるよう産業革命を起こしたいという志を持っていた。一方、人類の未来に遺伝子レベルで問題があることが判明し、ストラットンはそれを解決する名辞の開発に抜てきされる。錬金術的な世界観が魅力的。ビジョルドの『スピリットリング』の世界観と少しイメージが似ている。文字により命を吹き込む「名辞」は、コンピューター言語や遺伝子に似ている気もするし、魔法の呪文のようでもある。錬金術とはいえ、一種の科学として描かれている。

『人類科学の進化』
超人類が存在する世界における人類の研究発表の意義を、研究論文風に書いた作品。とても短い。掲載されたネイチャーを意識して書かれたのだろうが、使用されている言葉が難しくてちょっとつらい(笑)。

『地獄とは神の不在なり』
愛する妻を天使の降臨で失ったニールが、いかにして神を愛するようになったかを描いた物語。この世界では天使は人間世界に唐突に降臨し、まるで自然災害ででもあるかのようにさまざまな奇跡を起こす。それは幸いにも禍いにもなる場合があり、人間には神の意志は理解不能だった。文字どおり天国に召された妻の後を追いたいニールは、自分も天国に行くために、神を愛そうと努力する。宗教を扱っていながら宗教くささがあまりなく、異質なエイリアンのように天使が描かれている。ネビュラ賞・ヒューゴー賞・ローカス賞受賞

『顔の美醜について――ドキュメンタリー』
見た目による差別を無くしたり、見た目に捕われない生き方をするために、顔の美醜を認識できないようにする処置、美醜失認処置(カリーアグノシア)の話。さまざまな立場からこの処置の是非が語られる。確かに見た目の差別は無くなるのかも知れないが、せっかくある認識能力をわざわざ認識できないようにしてしまうのはどうかと思う。



2003年11月11日(火)
〜 更新履歴 〜 ハーボット設置

流行り(?)のハーボットを設置してみました。
とりあえず無料版にしてみたので、機能限定だったり広告が入ったりしています。
設置方法を教えてくれた DOM さん Thanx でした〜。


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