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2001年12月24日(月)
□『樽』

著者:F・W・クロフツ  出版:早川書房  [MY]  bk1

【内容と感想】
 発掘書評第三弾。

 頑丈な樽の中から女性の死体が出てくる。最初『樽』なんて変な題名だと思っていたのだが、この樽が実に興味深い小道具として使われていて、事件の重大な鍵となっている。問題の樽は捜査陣の到着前に忽然と消えてしまい、行方を追って警察や探偵が奔走する。

 着々と進む捜査の中で一人の容疑者が起訴される。彼の弁護士達はその容疑を晴らすために活躍する。別の人物の完璧に見えるアリバイを突き崩していく。次第に追い詰められていく真犯人。犯人の抵抗する場面は息もつかせない面白さがある。さすがにクロフツの代表作となっただけのことはある。



2001年12月18日(火)
□『皮膚の下の頭蓋骨』

著者:P・D・ジェイムズ  出版:早川書房  [MY]  bk1

【内容と感想】
 発掘書評第二弾。『女には向かない職業』の続編。やはりこれも、どんな内容だったかを覚えていない(笑)。

 離れ小島でコーデリアの依頼人クラリッサが顔を滅多打ちにして殺される。シェークスピアから引用された脅迫状や古めかしい城、「悪魔の湯沸し」で行われた殺人などが不気味な雰囲気を出している。普段和やかな日常の下に隠された憎悪や欲望が複雑に絡み合い、事件は展開していく。そんな中で相変わらずコーデリアは清潔感があり、事件の陰惨さと対比している。



2001年12月15日(土)
□『女には向かない職業』

著者:P・D・ジェイムズ  出版:早川書房  [MY]  bk1

【内容と感想】
 発掘書評第一弾。よく覚えていないので評価は無し。主人公のコーデリア・グレイがなかなか私の好きなタイプで(というか私の友達に似ていて)、内容も面白かったと思う。また、女性の書く、女性を主人公とした推理小説の草分け的な小説だったかと思う。この後にスー・グラフトンやサラ・パレツキーといった女性作家たちが女性を主人公としたハードボイルドを書き始め、ブームとなった。

 共同経営者の自殺によって探偵事務所を経営することになったコーデリア・グレイが、最初に手がけた事件。最初はただの自殺に見えたマーク・カレンダーの死の原因を探っていくうちに、これが他殺であることを彼女は確信する。事件の目撃者は意外と多く、それぞれの思惑が事件を複雑にしている。コーデリアは、会ったこともないマークに対する敬意のために、犯人をつきとめる。

 推理の要素としては単純な部分もあり、マークの出生に関してのことなどはすぐにわかってしまった。しかしコーデリアの誠実さとひたむきさが全編を彩り、好もしい作品となっている。



2001年12月14日(金)
〜 発掘 〜

部屋の整理をしていたら、ずいぶん昔に書いた書評を発掘。以前から、思いついては蔵書リストや読書記録の類を書こうとし、すぐに飽きたり忘れたりしてたようです。発掘したこのメモも、書いた記憶がさっぱりありません。どうやらワープロを買って嬉しかったようです(笑)。本の内容も思い出せないものもあります。もっとも忘れるだろうから粗筋や感想を書いているのだけれど。


2001年12月09日(日)
■『エンド・オブ・デイズ』(上・下) ★★★★☆

著者:デニス・ダンヴァーズ  出版:早川書房  [SF]  bk1bk1

【あらすじ】(下巻カバーより)
現実世界にそっくりでありながら病気や貧困、死から開放されたユートピアのような世界<ビン>―この仮想現実が地球の軌道上につくられて、百年あまり。仮想現実に入らなかった信仰心あつい人々をひきいる狂信的リーダー、ガブリエルは、破壊されたはずの<ビン>がまだ機能していると知り、ふたたびその破壊を企てていた…人々の夢と希望がつくりだした仮想現実世界と現実世界のあいだで展開される恋と冒険の物語

【内容と感想】
 『天界を翔ける夢』の続編にあたる。シュワちゃん主演の同名の映画とは全くの別物。前作の設定を踏襲しているが、内容は別の話で時代も70年後である。何人かはどちらにも登場している人もいるが、前作は読まなくてもほとんど支障がない上に、こちらの方がSFとしてはよくできてると思う。そもそも前作は<ビン>の成り立ちなどはほとんど省かれていたのだが、この作品では<ビン>が作られた当時どういうことがあったのかが詳しく語られていて面白い。コンストラクトが作られた経緯ももっと詳しく語られている。


 ニューマンが人格のデジタル化に成功していたとき、ティルマンによりクローン人間を急速に成長させる技術が実現していた。<ビン>が建設され軌道に打ち上げられるまでは、<ビン>のかわりにクローンの肉体に人格をダウンロードしていた。彼らを雇って開発を進めていた人々は、その技術を使ってコンストラクトを生み出し奴隷制度を復活させた。ティルマンはそれを知って止めようとしたが、失敗し、自分の人格を<ビン>のプロトタイプのコンピュータに死にかけながらアップロードする。そうしてそこにたった一人で囚われたまま、100年が過ぎていた。

 前作で<ビン>はカルト教団から身を守るため、地上との通信を絶ち、切り離されていた。地上は今ではガブリエル率いるクリスチャンソルジャーにより破壊されていた。彼らが敵とする<ビン>は破壊されたはずだったが、彼らの信じる「終わりの日」は来ず、相変わらず敵を作っては破壊する集団だった。

 ティルマンの人格の入ったコンピュータは、クリスチャンソルジャーのサムに発見された。本来ならすぐに報告しなければならないのだが、サムが自分の人格をアップロードしたとき、そうしようと思えばティルマンはサムの肉体を奪うこともできたのにそうはしなかったという理由で、サムはティルマンの望みをかなえようと自分の身を危険にさらす。

 コンストラクトの住む町でティルマンを<ビン>にアップロードする手筈を整えていたサムは、コンストラクトの売春婦ローラに出会う。ローラは切り離された<ビン>と交信する手段を持っており、ティルマンの人格と共に<ビン>に向かった。

 <ビン>には、ニュービーと呼ばれる<ビン>生まれの人々がいた。ドノヴァンもその一人で、最初から肉体を持たずに生まれてきた彼は「死」について研究を続けていた。<ビン>では生命は永遠に続くため「生」が意義深いものとならない、意義ある「生」を送るために「死」が必要であると、彼は講演していた。その講演を聞き、死にたいと申し込んできたステファニーは、ティルマンのかつての恋人だった。また、ローラはステファニーの遺伝子から作られたクローンの子孫だった。

 アップロードしたいティルマンと、ダウンロードしたいステファニーがようやく巡り合い、二人はサムとローラの助けを借りて一緒に生活できるようになる。

 一方ティルマンの入っていたプロトタイプのコンピュータが発見されたことにより、<ビン>は再びガブリエルにより狙われていた。ニューマンは<ビン>が破壊されても大丈夫なように対策を講じ、死にとらわれているドノヴァンをダウンロードさせてガブリエルの元へと送り込む。


 ストーリー自体もなかなか面白いが、それ以外のテーマもなかなか面白かった。ステファニーはスーパーモデルとして非常に有名で、自分の肉体を嫌がっていた。一方ティルマンは非常に醜く、自分の容姿にコンプレックスを持っていた。二人とも肉体はすでになく、自由に見かけが変えられるバーチャル世界で、それでもなお、かつての美醜にとらわれている。また、ドノヴァンの死へのこだわりも、いろいろエピソードがあり、ストーリー全体の流れの中でそのこだわりが大きな役割を担っている。

 エピローグがなかなか良くて、生命の流れといったものを感じさせる。ずっとテーマとなっていた、死も形もここでは問題ではなくなっている。

質問:若さとは心の状態です。でも、教えてください、ドクター、それほど死に興味をもっておられるのなら、なぜご自身が自殺なさらないのですか?

 たぶん彼もできないのだ、とステファニーは思った。

答え:自殺は絶望ゆえの行為です。ぼくが望むのは意義ある死なのです。
質問:では、なにが死に意義をもたせることができるのでしょう?
答え:意義ある生ですよ。(本文より)

“あらゆるものに価値がある、さもなければ価値あるものは、ひとつもない。”(本文より)

「真実は美しいわ」ステファニーは言った。(本文より)




2001年12月08日(土)
□『天界を翔ける夢』 ★★★☆☆

著者:デニス・ダンヴァーズ  出版:早川書房  [SF]  bk1

【あらすじ】(カバーより)
21世紀、人類の大半は現世の肉体を捨て、ヴァーチャル・リアリティの楽園<ビン>に移住した。現実世界に残ったのは変人だけで、世界は荒廃するばかり。そんな世界に残っていた若者ネモは、一時訪問した<ビン>で、エイミー・マンの唄を歌うロック歌手ジャスティンと出会う。現実にいるかぎり、手の届かないジャスティンとの恋に落ちたネモは…仮想現実の女性をめぐる、謎とロマンスにみちたネモの冒険を描く話題作!

【内容と感想】
 人格をデジタル化することがニューマン・ロジャーズにより実現した。高軌道上に打ち上げられた、代替生命媒体集合(オルタナティブ・ライフ・ミディアム・アセンブリ、略称 ALMA 、通称<ビン>)に、人々はこぞってアップロードした。そこは病や死や暴力などの排除されたバーチャル世界で、人々は肉体を捨て、永遠の生を求めて<ビン>に入っていった。2080年になると120億人以上がビンにアップロードしていて、生身の人間は250万人ほどしか残っていなかった。

 こういった時代背景がプロローグでさらっと述べられただけで、話は<ビン>に住むジャスティンと、現実世界に住むネモの、ラブロマンスが中心となってくる。

 ネモは<ビン>を嫌っており、両親が肉体を捨てて<ビン>に入った後も嫌々年に2度会いに行く程度だった。24時間以内であればアップロードしても<ビン>から戻ってくることができた。それ以上時間がたつと肉体的な障害が出て戻れなくなる。彼は以前火葬場で、<ビン>に入った人の肉体が何百体と焼かれるのを見たことがあり、その光景が忘れられなかった。21歳の誕生日に両親を訪れたネモは、そこに同席していたジャスティンと恋に落ちる。

 ジャスティンは<ビン>に入って間がなく、記憶があいまいだった。彼女は歌手で、ネモの祖母の好きだった歌手を同様に好きだった。ネモはその祖母を非常に気に入っており、二人は気が合った。お互いに夢中になった二人は、毎日<ビン>で会う。ネモはやがて<ビン>に入る決意を固めた。しかしジャスティンが過去を思い出すにつれ、思いもよらなかった事実に二人は衝撃を受ける。さらにネモは、カルト宗教家のガブリエルに接触され、陰謀に巻き込まれていく。


 ストーリーはほとんどが、異なる社会で生きるネモとジャスティンの引き裂かれる恋がテーマとなっている。大きく関わっているSFとしての材料はやはり<ビン>である。また<ビン>の開発段階で生み出された「コンストラクト」が大きな役割を果たしている。コンストラクトとは、異なる何人かの人格の記録からつぎはぎで統合され作り出された人格で、急速成長させたクローンの体に入れられていた。奉仕労働をさせるために作られたいわば奴隷のような存在だった。外見が人間だと使う側が使いづらいため、人間以外のDNAが取り入れられて人間とは異なる外見をしていた。
 
 話自体は悪くはないのだが、あまりに恋愛物となっているのがちょっとどうかと思う。カルト教団が出てくるのもよくありそうな話だし、最近ではバーチャル空間で暮らすというストーリーもよくある。ただ、ほかと違って肉体を捨ててというところが新しい。話の構成もリアルとバーチャルがあるので少しわかりにくい。ジャスティンの見る夢も異なる環境でのエピソードが語られていて、それらがどうつながってくるのかわからなく、最初は戸惑う。ガブリエルの登場も、それ以前に少しだけ出てきた人物がいきなり再登場してくるので、誰だったか思い出せなかった。


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