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2001年11月28日(水)
□『スター・レッド』★★★★★

著者:萩尾望都  出版:小学館  [SF]  bk1

【内容と感想】
 萩尾望都は少女漫画界の天才である。その独特の感性の鋭さと繊細さは誰にも真似できない。また構成力が抜群で、短編や原作付の物など読むとその上手さがよくわかる。彼女の漫画を初めて読んだのがこの作品であり、私の一番好きな作品でもある。こんな大御所がSFの描ける数少ない少女漫画家の一人だったのは、なんと幸運だったんだろうと、しみじみ思う。


 徳永星(セイ)(本名セイ・ペンタ・トゥパール)は、5世代目(ペンタ)の火星人である。地球人徳永博士の養女として、火星人の特徴の白い髪、赤い目を隠し、地球人を装って暮らしていた。しかし火星に強く惹かれ、いつか火星に帰る日のことを強く願っていた。ある日セイは、謎の男エルグに正体を突き止められる。エルグは火星人の特殊能力についてデータを集めていた。

 火星人は本来は地球人の子孫である。火星は人が住めるようテラフォーミングされたものの、なぜかそこでは子供が生まれなかった。そのため火星は流刑地となり、その後しばらくの間忘れられていた。地球人が再び火星に目をとめた時、流刑者の子孫達は知らないうちに増えていた。聖地と呼ばれる特定の場所では子供が生まれ得ることを流刑者達は知り、子を設け世代を重ね、独自の文化を築き上げていた。火星で生まれた者達はいわゆる超能力を持っていて、世代が下るに連れてその力も強大なものとなっていた。 空気が希薄で乾燥した、過酷な自然環境のこの地で、彼らは超能力で明かりや空気を作り出し、環境に適応して生活していた。こうして彼らは火星人となった。

 火星に目を向けた地球人が火星人の子供を人体実験しようとしたことから、両者の対立が始まった。また唯一子供の生まれることが可能な聖地をめぐって、地球人は火星人と争った。戦争当時幼かったセイだが、両親が命がけで逃がし、それを徳永博士が助けて育てたのだった。現在は火星人は皆どこかへ姿を消してしまい、地球人がドームの中に都市を作って住んでいた。

 エルグはセイの特殊能力に関心を示し、何世代目の火星人からその力が現れるのか探ろうとする。エルグもまた、セイ同様にちょっとした超能力を使えた。また彼は、見たこともない奇妙な機器類をマンションに持っているなど、謎の多い人物だった。

 セイはエルグに連れられて、恋いこがれていた故郷火星にやってきた。しかし火星は、セイが夢にまで見た故郷とは違っていた。二人は行方知れずとなっている火星人を探すため情報を集めはじめる。生きた火星人を捕らえようとする火星人研究局や、セイの命を狙う火星人なども絡んで来て、それぞれの思惑で動き、スケールの大きいストーリーとなっている。エルグの正体も見逃せない。


 萩尾望都のSFを構築する基本要素が、このころからすでに多く取り入れられている。流浪の民、乾いた風、遺跡、物語、伝説、夢、時間、といったイメージで、独特の世界観と雰囲気を作り上げている。火星に恋する少女のイメージが鮮烈で、テーマのほとんどが男女の恋愛の少女漫画界の中で異彩を放っている。かといって全く無縁というわけでもない。滅びゆく火星に代り彼女の火星に成り得るかどうかと、いつの間にかラブストーリーへとすりかわっているのである。

 ストーリー展開はかなり意外で、ラストも「うーん、こうなってしまうとは…」といったものだった。ハッピーエンドでもなく、かといってアンハッピーエンドでもなく、予感や希望を感じさせる。SFとしては科学的な根拠はあまりないかもしれない。しかしイメージに流されるのではなくかっちりと設定されていて、クラークの『幼年期の終わり』などを思い出させる。

 凄いのはかなり深刻な内容を扱っているわりに、脇役陣がスラップスティックなところだ。「こんなノリでいいのか?」と思わせる程である。しかも服のセンスまでがなかなか凄かったりして、スラップスティック度を高めている。これはもう萩尾望都の独特の技で、やはり天才としか言い様がない。三世代目(トリ)の火星人達のネーミングが「シラサギ」「ヨタカ」「黒羽」なのも天才たる所以で、彼女以外では通りそうもないネーミングである(笑)。

 現在幼児虐待をテーマとした長編漫画『残酷な神々が支配する』が連載中であるが、私としては早く彼女の次のSF漫画を読みたいところだ。


わたしの目は赤い。 わたしの髪は白い。 わたしは これをかくし続ける。 この地球では…。 でもいつか…! いつか! わたしは わたしがわたしでいられる国へ行ってやる。 かならず!
そこでは わたしは黒いコンタクトをもうはめない。 まゆも 髪も まつげも黒く染めない。 あの星では…。 だれにもわたしのじゃまをさせない。 火星…! わたしの赤い星…!(本文より)

惑星が泣いている…。
ちがう。 ちがう。 きみが感じたことだ。 きみの内部から来たものだ。 この柱が墓標のように立ち並んでいるものだから。
そう? ―そうかしら。 わたしには なにかが見えたように 思われたの。 それが わたしの心臓の上を こすっていくのよ…。 高いトーンで…。(本文より)

すごいわ。 生体の存続は この星ではそれほど罪悪なのね。 否定 否定 否定…。
さあ やっつけましょうよ…。 なぜなら…。
…しょうがないわ。 …無には無の 死には死の 意味があるのかもしれないから…。(本文より)

あれが火星? サンシャイン。
―火星はもうないんだよ… ジュニア。 いつも この時期には見られたんだがな。(本文より)
(句読点は勝手に追加)



2001年11月14日(水)
■『パーンの竜騎士8-竜の挑戦』〔下) ★★★★☆

著者:アン・マキャフリイ  出版:早川書房  [SF]  bk1

【内容と感想】
 途中別の本をいろいろ読み返していたのでなかなか読み終わらなかった。

 パーンの竜騎士シリーズの第8弾の下巻。上巻で、南ノ大陸で発見された「アイヴァス」によりパーンは大きく変わりつつあった。糸胞根絶の可能性が提示され、それに向けての準備が進められる。各工舎の技術は飛躍的に向上し、優れた質の、人々が見たこともない新しい製品が、次々と開発された。しかし急激な変化への反発はどこでも起こるもので、「アイヴァス」を忌わしいものとする一派により破壊計画が進められる。上巻が「アイヴァス」にまつわる新しい知識とそれを授けられた者達の驚異や感動が主だったのに対し、下巻では「アイヴァス」はひっそりと影を潜め、むしろパーンでの社会的な動きが中心となって来る。

 糸胞根絶の計画が持ち上がってから4年が過ぎ、準備は着々と進められた。「アイヴァス」の計画も、実行する人々の知識がようやく追い付いて来て明らかになった。しかし用心していたにも関わらず反対派の妨害工作は起こり、事体は緊迫する。困難の末にとうとう実施に移された計画は大規模で、竜騎士達が揃って出陣するさまはなかなか壮麗だった。

 このシリーズは竜と竜騎士という魅力的な道具立てからファンタジーっぽい感じがあるが、こうやって全体を通して読んでみると(ところどころ読んでない巻があるんだけど(笑))、根っこはSFだなぁと思う。頻繁には行われないものの、竜の特殊能力である時の跳躍は、時間のパラドックスの問題を扱ったものだし、外伝で扱われているパーンへの入植の話との関わりも切れないものとなっている。未知の知識の与え方にしても、もともと持っていたが廃れてしまったもののみを与え、そうでない技術や知識は与えないところ等、スタートレック他伝統的なSFの、地球外文明との接触の姿勢を忠実に踏襲している。また、騎士と名付けられてはいても、誰かに忠誠を捧げるわけでもなく土地を争ってお互いどうし戦うのでもない。どちらかというと竜騎士は、人々のために一丸となって糸胞という意志なき共通の敵と戦うボランティアである。その構造事体がすでに中世の社会とは違っている。しかもついには竜に乗った竜騎士達は、赤ノ星まで行ってしまうのである。宇宙服に身を固めて…。

 最後の竪琴師の老齢な長老ロビントン師と「アイヴァス」のかわす会話が印象深く、話をラストに向けて盛り上げている。「アイヴァス」は今回のみの登場としているところが潔くて良かったと思う。
“すべてのことには季節があり、そして天(あめ)が下のすべてのわざには時がある”



2001年11月13日(火)
□『友なる船』 ★★★☆☆

著者:アン・マキャフリー、マーガレット・ポール(共作)  出版:東京創元社  [SF]  bk1

【あらすじ】(目録より)
卒業したてでいよいよ今日が初飛行の宇宙船、ナンシア。乗客の若者たちは、いずれもこれから新しい赴任先へ向かう良家の子女に見えた。ところが彼らの会話はどうも尋常ではない。良家とは名ばかりで、その実、欲に目がくらみ悪事をたくらんでいるやくざな連中だったのだから。幸先の悪いスタートにナンシアはどう出る?シリーズ第四弾。

【内容と感想】
 「歌う船シリーズ」の第4弾。今までもところどころで出てきた華族(ハイファミリー)という上流階級の人々が多く登場している。

 ハイファミリーの一員、ペレス・イ・デ・グラス家のナンシアは、選択の余地なくしてシェルピープルとなった。優秀な成績でアカデミーを卒業し、ブレイン船として初任務に就く。ハイファミリーの若者5人をヴェガ宙域のナイオタ・ヤ・ジャハ星域の星々まで送り届ける任務だった。

 ナンシアはブレイン船だと名乗りそびれ、5人の乗客から無人船だと思われていた。彼らはいずれも一族の中の厄介者で、それぞれの理由で僻地の工場などに送られていたのだった。彼らの話を聞いていてあまりの道徳観念のなさにあきれたナンシアは、ついにブレイン船だと告げずじまいだった。無人船と思って乗客達は、自分たちの赴任先でいかに儲けるかを語り、賭け始める。誰が一番成功するかが賭けの対象で、年一回確認の会合を持とうということになった。しかし儲けるための手段は犯罪行為だった。

 結局口をきく気にもなれず、無人船と思われたままナンシアは5人を目的地まで送り届け、帰りにブレインを亡くしたブローン、ケイレブを乗せる。船内でかわされた悪巧みをケイレブや仲間のブレインに仮定の話として相談したところ、意外にも、ブレイン船であるのを隠して情報を得たことは囮捜査ととらえられかねないとされ、倫理的に問題があると指摘される。

 ナンシアは、ケイレブの清廉潔白で完璧を期す性格に惹かれてパートナーを組み、特使サービスの仕事をこなしていった。ナンシアの仕事はハイファミリーに関わる仕事が多かった。一方乗客だった5人のハイファミリーの若者達も、それぞれの赴任先で活躍していた。似たもの同士お互い便宜をはかり合いながら、次第に5人とも利益をあげていくのだった。ハイファミリーのコネの中で、ナンシアはやがて彼ら5人の起こした事件の捜査にあたることになっていく。


 今まではブレインとブローンが2人だけで活躍する話が主だったけれど、今回はパートナーだけではなく、他の人達ともチームを組んで活躍する話となっている。絡んでいるのはいずれもハイファミリーの一員で、一般の人だと腐敗を暴くにもハイファミリーの資産や圧力に屈してしまいがちだからということらしい。

 ブレイン、ブローンの活躍だけでなく、5人の悪事とその事情が詳しく描かれ、それを捜査していく過程が見所か。優秀だが、甘やかされて育った若きハイファミリーの倫理観は低く、殺人さえも厭わない。自分の野望のために他人を利用することしか考えず、残忍である。しかし5人ともただ単に悪いというのではなく、それぞれの事情がある。また、微妙な状況では単純に規則に忠実なだけでは駄目な時もある。ナンシアは自分の倫理観とケイレブの倫理観の間で悩みながらも、成長し、バランスを取った考え方を身につけていく。規則一辺倒の清廉潔白なやりかただけでは解決しないこともあるのだと学び、大人になっていく。ナンシア自身の家庭の事情もところどころで出て来て、彼女自身の悩みも解決していく。
「じゃあ―ああして正しかったの?」
「もう大人なんだよ、ナンシア。自分で判断しなさい。きみはどう思うんだ?」(本文より)
 ただ、ナンシアの性格があんまり私好みではない。何だかんだ言っても結局お嬢様育ちで、ハイファミリーということにプライドを持っている。ちょっと感情的なところも目につくし。脇役で活躍している退役軍人のミカヤが、ひょうひょうとしていてなかなか味がある。前作で活躍したシメオンも友情出演している。ナンシアの特異点ジャンプはまるでスポーツの華麗な技であるかのように表現されていて、なかなか気持ち良さそうだ。



2001年11月08日(木)
〜 更新履歴 デザイン変更 〜

デザインは既成のものをほぼそのままの形で使用していたんですが、全体的な構成を見直し、読みやすいよう文字の大きさや行間などを調節しました。

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