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2002年01月21日(月)
■『放浪惑星』 ★★☆☆☆

著者:フリッツ・ライバー  出版:東京創元社  [SF]  bk1

【あらすじ】(カバーより)
地球の月の近くに忽然と出現した未知の惑星《放浪者》。刻々と変わる不気味な相貌を持つこの星は、巨大な重力で月を捕えて粉砕し、地球にも地震や津波を引き起こす。だがやがて《放浪者》の宇宙船に拉致された地球人の前に明らかにされたのは…宇宙の体制に抵抗して警察星の追跡を受けながら超空間の海を永遠にさまよい続ける、この星の運命だった! ヒューゴー賞受賞巨編。

【内容と感想】
 復刊フェア2001として再版されたもの。1964年度のヒューゴー賞受賞作品だそうだが、すっかり設定や表現が古くさくなっていて、今更読むには辛い。当時の時代背景を色濃く反映していて、アメリカとソ連が宇宙の開発競争を続けていたり、《放浪者》に住む知的種族達がヒッピーっぽかったりする。またその知的種族が超高度に発達した文明を持ちテレパシーを使って話をするという設定も、すっかり陳腐化してしまっている。他にも黒人差別があからさまに出てきたりと時代の流れを感じさせるが、さすがに「乳当て」なる訳には笑ってしまった。


 日食の最中、突如金と紫の模様のある惑星が月付近に出没する。一方月は粉砕され、《放浪者》と名付けられたその星に取り込まれてしまう。月の観測基地にいたアメリカ軍宇宙飛行士ドン・メリアムは観測艇バーバヤーガに乗ったまま《放浪者》の内部に導かれ、その惑星が巨大な宇宙船であることを知る。様々な形態をした色々な種族がその巨大な建造物で生活していた。

 一方地球では、《放浪者》の出現と月の消滅で各地で地震や高波が起こり、世界各地で多くの人命が失われていた。多くの人物が次々と登場し、彼らの様々なエピソードによって地球上での被害の有様が綴られる。酔いどれの詩人、盗みの最中の盗賊、豪華客船の反乱分子、死に行く登山家、負傷した大金持ちの老人KKK会員、ニカラグアの革命家、etc …。

 中でもメインで語られるのが、ドン・メリアムの恋人マーゴと、冥王星での重力の歪みを撮影したポールである。二人は災害時たまたま一緒だった円盤研究者のグループと共に、高潮を避けて軍の施設を頼って行くが、その途中《放浪者》からの宇宙船に遭遇。ポールはマーゴの愛猫ミャウと共に拉致され、乗っていた猫型知的生命体のタイガリシュカと出会う。ミャウを知的種族と取り違えて保護したタイガリシュカは、テレパシーで感知した精神が実はポールのものであった事を知り、猿呼ばわりして猫に対する扱いを怒る。しかし彼女らが地球に対してした事をポールが攻めると、追われていて緊急事態だった事を認めるのである。


 登場人物がたいへん多く、エピソードを追いづらい。誰がどういう人物で何をしていたかを、次に登場した時に思い出すのに時間がかかる。惑星がまるごと宇宙船であり月をその燃料とするために取り込んだというスケールの大きさや、金と紫の惑星の時間を追うごとに変わる模様の描写の美しさはそれなりにいいと思うが、設定自体の古さはどうしようもない。SFの中には時代を経ても陳腐化しないものもあるが、なまじ当時はリアルさが売り物だったであろうだけに、40年近くたった今、あらためて読むにはちょっと辛い。



2002年01月02日(水)
■『プラネテス』2 ★★★★☆

著者:幸村誠  出版:講談社  [SF]
【内容と感想】
 モーニング掲載の漫画。1巻が買えず2巻のみを読了。絵柄もなかなかうまく、背景も含めてデッサンがしっかりしている。

 地球の軌道上を回っている宇宙のゴミ(デブリ)を回収する仕事に就いている星野八郎太(通称ハチマキ)が主人公。時代は2075年で、EDC(地球外開発共同体)により木星系における資源採掘基地の建設が進められていた。ハチマキはその先駆けとして建設中の木星往還船の乗組員になりたいと、厳しい試験に備えて必死で努力している。しかしその木星往還船の設計者ロックスミスは宇宙船以外愛せない性格で、人の命も何とも思わず部品としか捉えられない人物だった。

 ハチマキの職場に彼の試験期間中のピンチヒッターとして新しく入ったタナベは、仕事はまだ半人前のくせに自分の信念を強く持っており、ハチマキに対して「それは間違っている、愛のない選択は良い結果にならない」と強く主張する。自分の夢、自分の望みのみを追っかけて、周りを思いやる事なく宇宙に行く事にがむしゃらになっていたハチマキに、タナベはそれでは駄目なんだと説得を続ける。ハチマキは自分の原動力となっている宇宙船乗りのヒロイズムを否定され、揺さぶられる。むかつきながらも反論できない。

 タナベの影響で変わり始めたハチマキは、自分の目指していた宇宙空間は空っぽで孤独な世界であることに気付き「これが自分の望んでいる宇宙か?」と愕然とする。そして地球でさえも宇宙の一部であることを理解し、自分が一人で生きているのではないことを実感する。


 私が思うに、生物は生活環境を広げて繁殖しようとするかなり強い指向性を持っている。水の中から大地へ、空へ。自らの形を変え、環境に働きかけ、生命は活動空間を広げようとしている。人類は地に満ち、ついに宇宙に進出したのである。この流れ自体は変えられないだろう。宇宙を目指すということは生命に刻み込まれた欲求なんだと思う。身体を変化させることで環境に適応してきた生命は、今、道具を使用したり環境に手を加えたりすることで過酷な宇宙空間に適応しようとしているのである。

 だが、ハチマキの目指しているようなただ一人だけが宇宙に進出するというのでは意味がない。宇宙に定住する事が必須なのだと私は思っている。英国のことわざに「一つのかごにすべての卵を盛るな」というのがあるが、宇宙的な規模で考えると一つの惑星のみに生命が集中しているのは滅亡の可能性をはらんでいて危険である。危険を分散させるためには、地球外、太陽系外でも繁殖することが大切なんだと思う。

 生物として種を維持しようとすると個体数としては最低でも40体くらいが必要だ、とどこかの大学教授が話していた。最低でもそのくらいの、現実的には社会が築けるくらいのもっと多くの人数で宇宙に定着する事が必須だと、私は思う。地球から出ること、太陽系から出ること、増え広がり宇宙に満ちること。その第一歩を踏み出した時代をリアルタイムで経験できるのは、ラッキーだと思う。人類の未来に平和と繁栄を。


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