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2001年12月08日(土)
□『天界を翔ける夢』 ★★★☆☆

著者:デニス・ダンヴァーズ  出版:早川書房  [SF]  bk1

【あらすじ】(カバーより)
21世紀、人類の大半は現世の肉体を捨て、ヴァーチャル・リアリティの楽園<ビン>に移住した。現実世界に残ったのは変人だけで、世界は荒廃するばかり。そんな世界に残っていた若者ネモは、一時訪問した<ビン>で、エイミー・マンの唄を歌うロック歌手ジャスティンと出会う。現実にいるかぎり、手の届かないジャスティンとの恋に落ちたネモは…仮想現実の女性をめぐる、謎とロマンスにみちたネモの冒険を描く話題作!

【内容と感想】
 人格をデジタル化することがニューマン・ロジャーズにより実現した。高軌道上に打ち上げられた、代替生命媒体集合(オルタナティブ・ライフ・ミディアム・アセンブリ、略称 ALMA 、通称<ビン>)に、人々はこぞってアップロードした。そこは病や死や暴力などの排除されたバーチャル世界で、人々は肉体を捨て、永遠の生を求めて<ビン>に入っていった。2080年になると120億人以上がビンにアップロードしていて、生身の人間は250万人ほどしか残っていなかった。

 こういった時代背景がプロローグでさらっと述べられただけで、話は<ビン>に住むジャスティンと、現実世界に住むネモの、ラブロマンスが中心となってくる。

 ネモは<ビン>を嫌っており、両親が肉体を捨てて<ビン>に入った後も嫌々年に2度会いに行く程度だった。24時間以内であればアップロードしても<ビン>から戻ってくることができた。それ以上時間がたつと肉体的な障害が出て戻れなくなる。彼は以前火葬場で、<ビン>に入った人の肉体が何百体と焼かれるのを見たことがあり、その光景が忘れられなかった。21歳の誕生日に両親を訪れたネモは、そこに同席していたジャスティンと恋に落ちる。

 ジャスティンは<ビン>に入って間がなく、記憶があいまいだった。彼女は歌手で、ネモの祖母の好きだった歌手を同様に好きだった。ネモはその祖母を非常に気に入っており、二人は気が合った。お互いに夢中になった二人は、毎日<ビン>で会う。ネモはやがて<ビン>に入る決意を固めた。しかしジャスティンが過去を思い出すにつれ、思いもよらなかった事実に二人は衝撃を受ける。さらにネモは、カルト宗教家のガブリエルに接触され、陰謀に巻き込まれていく。


 ストーリーはほとんどが、異なる社会で生きるネモとジャスティンの引き裂かれる恋がテーマとなっている。大きく関わっているSFとしての材料はやはり<ビン>である。また<ビン>の開発段階で生み出された「コンストラクト」が大きな役割を果たしている。コンストラクトとは、異なる何人かの人格の記録からつぎはぎで統合され作り出された人格で、急速成長させたクローンの体に入れられていた。奉仕労働をさせるために作られたいわば奴隷のような存在だった。外見が人間だと使う側が使いづらいため、人間以外のDNAが取り入れられて人間とは異なる外見をしていた。
 
 話自体は悪くはないのだが、あまりに恋愛物となっているのがちょっとどうかと思う。カルト教団が出てくるのもよくありそうな話だし、最近ではバーチャル空間で暮らすというストーリーもよくある。ただ、ほかと違って肉体を捨ててというところが新しい。話の構成もリアルとバーチャルがあるので少しわかりにくい。ジャスティンの見る夢も異なる環境でのエピソードが語られていて、それらがどうつながってくるのかわからなく、最初は戸惑う。ガブリエルの登場も、それ以前に少しだけ出てきた人物がいきなり再登場してくるので、誰だったか思い出せなかった。


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