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■ 忘れな草。37 にょ
「あ、キラ…。」
アスランがゆっくりと目を開けると、キラはにこにこと笑いながらアスランを見つめていた。
「おはよ、アスラン。」
ちゅっと頬にキスをされる。そんな子を引き寄せ、アスランは唇にキスを返した。
「おはよ、キラ。朝からどうかしたのか?」 「ううん。ただ今日の夢が…。」
そう話してキラは口を動かすのをやめた。思い出したくない、というように。
「夢?」
一体どんな夢を見たのか、とアスランは首を傾げた。しかし、心配させてしまった、とキラは慌てたように表情を明るくした。 ずっと昔から。辛くても辛いとすぐに言えないキラ。夢よりももっと辛い死というものと隣合わせに生きてきたから。
「あ、うん。アスランが出てきたから会いたくなっちゃって。」
時計を見ると起床時間までまだあった。外もまだ暗く、まだ誰も起きていないであろう。 ほんの少しだけ冷たくなっているキラの身体をさらに引き寄せ布団の中に入れた。
「怖い夢でも見たのか?」 「え?」
ゆっくりとアスランはキラの頭を撫でる。おびえる子供を安心させるかのように。
「ならこうしててやるからもう……少し寝てろ。」
まだ起きる時間ではないし、何よりアスランは眠くて仕方がなかった。
「別にそういう訳じゃ…。」 「けど一人でまた寝たくなかったからこんな朝から来たんだろ?」
一人で何でも耐えてきた細い身体。耐える事に慣れているはずの心。けれどキラはアスランに助けを求めた。アスランだからこそ、甘えたのだ。
「…ごめんなさい。」
アスランの事も考えずにこんな朝早くから、とキラは申し訳無さそうに話した。別にアスランはそんなことを気にしているわけではないのだが。
「別に怒ってないよ。けどまだ早いから俺はちょっと眠い。俺の睡眠に付き合ってくれ。」
そう言ってキラをぎゅっと抱き締める。それは抱き心地のよい抱き枕。けれどキラはかすかに首を横に振った。
「寝たく…ない。」
ぎゅっとアスランのパジャマを握りしめる。何かに耐えるように、何かから逃げるように。
「こうしてても嫌か?」
アスランはキラの背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。もうこれ以上近づくことが出来ないくらい、強く。何があっても離さないというかのように。
「だって…目を瞑るだけでさっきの夢が…。」 「どんな夢?」
アスランが問いかけると、キラは首を横に振った。
「言えない。」 「怖い夢は誰かに話すといいんだよ。」 「けど…話したら現実になりそう。」
アスランのパジャマを握っていた手がいつの間にかアスランの背中にへと回され、抱きつく格好となる。
「そんなに怖い夢だったのか?」 「うん…。」
話して欲しい、とアスランは思う。けれどアスランが今どんなに言ってもキラは話さないであろう。自分からアスランに話したいと思わない限り。
「じゃあキラが話したくなったら話して。」 「分かった。…ごめんね、色々と。」 「気にしてないよ。寝るのが怖いなら何か話でもするか?」 「うん。けどアスラン眠いならいいよ。こうしてるだけでも落ち着くから。」 「そうか…すまないな。もう少しだけ…。」 「おやすみ。」
最近おかしい。寝ても寝足りない。まぁ遅くまでラクスと話をしているせいもあるだろうが。 それだけではきっとない。力がない証拠。命がなくなっていってる証拠。 ならこのまま死んでキラを悲しませるくらいなら…とふと考えてしまう。
次に目が覚めたらキラはいなかった。さっきのが夢だったように。
「キラ?」
呼んでも返事がない。部屋に帰ったのだろうか。普段は甘えたりしない。確かに側によってきたりはするのだけれども、どこかキラは自分で何もかもをどうにかしようとする。 アスランは起き上がろうと身体に力を入れる。
「…冗談だろ…。」
けれどその身体に思うように力が入らなく、ちょっと起き上がりたいだけなのに、長い時間がかかった。
「もう時間はないということか…。」
新月は近い。ただこうしているだけでも時間は過ぎて行き、命は無くなっていく。 なら決断するのなら今のうち。自分の身体が動くうちに、キラの魂が彼女に狩られてしまう前に。
昼間だというのに屋上には誰もいなかった。まるで誰かが他の誰かをここには近づけさせないようにしているかのようだった。
「私もあまり暇ではないのですよ。それとも私に惚れてしまいましたか?」
アスランが屋上のドアを閉めるとふわりと風が吹き、そこに少女が現れた。
「今の俺がただキラを抱いてもキラは助からないのか?」 「……あなたは彼女の思いで生きていますからね…。もしその指輪を使って抱いてもあまり変わらないかと思いますわ。けれどあなたがこうして動いているということが彼女への負担を大きくしているのもお分かりですか?」 「え…?」 「あなたは彼女の命によって支えられている。彼女は今、二人分の命を削っているのですわ。」 「俺が側にいるから…キラはあんなに苦しんで…。」 「彼女にとってはあなたが側にいることは幸せなことなのでしょうけどね。」 「……それでも、俺は…!!!」
この手にキラ以外を抱くなんて出来ない。きっと身体が受け付けない。
「けれどこのままでしたら…あなたの後ろにも見えるようになりますわ、死が。そんな悲しい思いをさせるのですか?」 「…方法はないのですか?他に。」 「そうですわね……。」
二人が話をしていると、後ろでぎぎっと重い扉が開く音がした。そしてそこにいたのは。
「アスラ…?ら、クス………。」
ラクスの姿を見て目を丸くさせ、身体を固まらせた少女だった。今までこうして彼女と話している間にここに誰かがくることはなかった。それは彼女の力だとアスランは思っていた。けれどどうして、一番見られたくない彼女がそこにいるのだろうとアスランは思った。 そしてキラは死神の名前を口にした。
「どうして…!!なんで!?どうしてラクスがここにいるの!!!」 「……。」
ラクスは何も言わなかった。それとも何も言えなかったのか。
「キラ、どうして彼女のことを…。」 「だって…だって、ラクスは僕が…!!僕が殺したのに…。」
前にキラが罪を犯したと言っていたのはこのこと。けれどアスランには分からなかった。
「殺したって…。」 「アスラン…?覚えてないの、ラクスのこと……。」 「ラクス…のこと?」
知らないはず。ここで初めて会ったはず。けれどキラはそうではないと言う。 頭の隅に追いやられた記憶。自分ではない誰かが封じ込めたかのような記憶。
「あ………。」
彼女の名前はラクス。キラとカガリ、そしてアスラン。さらにもう一人の少女。 彼女はキラとカガリのいとこでよくキラの元に遊びに来ていた。そしてアスランはラクスに出会った。それはもう随分と前の事。 ラクスはカガリやキラのように話しやすく、すぐに仲良くなった。家からなかなか出られないキラのところによく遊びに来て、色々な話をしていた。 けれど今はもういない。 最後にラクスと話したのは偶然街で出会った時。その後些細な話をして、別れた。その直後、彼女は車に引かれ、帰らぬ人となった。 どうして忘れていたのだろう。最後に彼女を見たのは自分なのに。ピンク色の奇麗な髪の毛が泥と血で汚れた姿が今でもはっきりと思い出せるというのに。
「ラクス…ラクスなのか?」 「……。」
そうアスランが問い掛けると、ラクスは悲しそうに微笑んでクビを縦に振った。
「消したはずだったのに…やはり全部消せてなかったのですわね。」 「どうして…なぜ……。」 「私の仕事に支障が出てしまいますからね…。だからあの日、全てを消したのに。」 「ラクス…!!どうしてここにいるの!?アスランを…アスランを連れて行くの?」
いつの間にか涙を流し、キラはそんなことを言っていた。そう、ラクスは確かに死んだのだ。ここにいるラクスは人間ではない。
「僕が悪いって全部分かってる…だって僕がラクスを殺したから…けれどアスランは…アスランを連れていかないで!!」
その場に膝をつき、キラは泣き出してしまった。すぐにアスランは抱きしめようとしたのだが、抱きしめられなかった。 ラクスがアスランを連れていくのではない。アスランが自らラクスの元に行くか、ラクスは気らを連れて行くかのどちらかなのだから。
「…キラ、彼女は俺を連れて行く訳じゃないよ。」 「なんで…どうして……だって、ラクスは…アスランが好きだったんでしょ?だから僕は……あの日、言えなかった…。」
言えなかった言葉。ただたった一言。言わなかった為にラクスは死んだ。キラはラクスを見殺しにした。
「…キラ、私はあなたを恨んでなんていませんわ。あの頃のあなたの力がまだ弱かったことも知っていますし、あなたがあの日のことを言わなかったから私は死んだのではありませんわ。」 「けど僕は知っていた……あの日に何かあるって。とても大変な事になるって…けれどあんなに…あんなことになるなんて…。」
嫉妬。それが小さな心の中に芽生えた。今まで外に出る事なんてほとんどなく、友達もいなかった。 そんなキラに初めて出来た友達がアスランだった。そして初めて淡い気持ちを抱いたのもアスランだった。 だからアスランと仲の良かったラクスに嫉妬した。彼女は自分と違って可愛らしくて、普通の女の子だったから。 あの日からキラは罪人となった。小さな心が痛んだ。自分の死と人の死と。人の命を奪ってしまった自分。だから誰かに好きになってもらうなんて許されないことだった。 けれどアスランを好きになった。アスランに愛されたいと思った。思ってはいけないのに、望んでしまい、アスランはその思いに答えてくれた。それが嬉しくて辛い事を忘れそうになると、自分の後ろにある死を感じ、忘れる事なんて出来なかった。
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勢いだけで更新。色々おかしいけど直さずにとりあえずアップ。 しかしまだ4日目だったりする大変な状況。 あと11日…? すでに明日とかには終わるんじゃないかっていうネタだよ。だってきちゃったもん、ここまで。 あー…後でどうにか…どうにか?
2006年01月28日(土)
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