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■ 今だけの言葉
今しか言えない言葉がある。
けれど、だからといってそれを口にするのは容易ではない。
「キラもうすぐ出撃だ。」 「……。」 「キラ、キラ!」
肩を強く揺さぶられ、キラは呼ばれていることに気づいた。
「あっ、ごめん!準備しなくちゃね。」
そう言って首元を緩めていたパイロットスーツを正す。 そんなキラの姿を見てか、アスランはため息をついた。
「お前、ちゃんと休んでるのか?疲れていないわけはないが、ちゃんと休める時に休んでおけよ。次の休憩がいつになるかわからないんだから。」 「大丈夫だよ。ちゃんと休んでるから。ちょっと考え事してただけだから。」
もうすぐ戦いが始まる。きっとこれですべてが決まるであろう。この戦いの勝者、もしくは結果が。
「あ、アスラン!」
部屋から先に出て行こうとするアスランの背中を呼び止める。すると、アスランはすぐにキラの方へと振り返った。
「なんだ?」 「あ、あのね、その……。」
自分から声をかけたというのにも関わらず、うまく口が回らない。なんて話をしていいかわからない。なんて滑稽なんだろうか。
「なんでもない、忘れて!」
いたたまれなくなってアスランに背を向ける。
「そんな気になることわざわざ言うなよな。」 「…ごめん。」
もしキラが同じことをアスランから言われたら、今のアスランと同じように気にするだろう。 もうすぐ大事な戦いが始まるというのに、気を散らせてしまったことをとても後悔した。けれども、アスランはそれ以上問いつめることはなかった。
「いや、いいよ。この戦闘が終わったらゆっくり聞くから。」
ぽんと頭に軽く手を置かれる。そんなことをされると思ってなかったキラは、とっさに顔をアスランへと向けた。 すると、そこには真剣な表情をしたアスランがいた。
「だからお前も忘れるんじゃないぞ。」
それは、生きて帰るという約束。死ぬつもりなどないが、生きて帰れる保証なんて戦争にはどこにもない。だけれども、大切な行為。
『キラ、アスラン、クサナギから通信が入ったわよ。』
戦場に赴く前とは思えないほどに穏やかな空気は、通信によって終わりを告げた。 通信者の声に振り向くと、画面にカガリの顔が映っていた。
『二人とも平気か?』 「あぁ、お前こそ戦いに参加したいとか言い出しそうで心配だな。」
アスランの手がキラの頭から離れ、会話も視線もカガリへと向けられる。そのことに、キラは胸がちくりと痛んだ。
『そうしたいのは山々だが、あいにく機体もないし、私が出ていっても足手まといになるだけだろうからな。』 「クサナギで指示を出すことも重要なことだ。指揮官が堂々と構えていれば、前線も安心して戦える。」 『そうだな。……キラ、具合でも悪いのか?』
何も言わず画面から視線をずらしていたことを気づかれたのか、カガリはアスランとの会話を中止してキラへと声をかけた。 そんなカガリに思わず作り笑いを浮かべて何でもないと手を振った。
「ご、ごめん。僕、先に行ってるから。」
後ろで二人に声をかけられていることに気づかない振りをしてキラは慌てて部屋を出た。
「どうしたっていうんだ?キラは。」
アスランは軽く首を傾げるように疑問符を浮かべる。すると画面の向こう側にいたキラによく似た人物はアスランを睨みつけた。
『……おい、他に言うことはないのか?』
声のトーンが先ほどよりも数段下がっている。しかし、アスランはそんなことを気にした様子はなかった。
「特にないだろ。カガリの方はマリューさんやラクスと話し合って…。」
もう作戦会議も済ませたから特に話はない。あとは出撃命令を待つだけだ。しかし、その言葉にカガリは大げさすぎるほどのため息をついた。
『そうじゃなくてキラにだ。誤解をちゃんと解いておけよ。』 「俺は誤解されるようなことはなにも…。」 『なにも気付かないっていうのか、お前は。』 「一体何にだよ。」 『はぁ、馬鹿だな、お前。ハツカネズミだけじゃなくて馬鹿もあったんだな、お前の頭は。』 「だから、何だっていうんだ。」
画面の中のカガリは怒って、そして呆れているようだったが、アスランにはその意味が理解出来ずにいた。
一方、部屋を出たキラはは廊下で一人の少女と出会った。この艦の指揮官でもあるラクスだった。
「もう準備はお済みですか?キラ。」 「ラクス…うん、ちゃんと着替えたし、整備も終わってるし。」
大丈夫、と笑うと少しだけ悲しげな表情で首を横に振った。
「そうではなくて。…キラ、今は戦争中です。私は誰一人として失いたくありませんし、そうさせるつもりもありません。ですが、今しか言えない言葉もあると思いますよ。」
何も言っていないけれど、ラクスにはわかっているようだった。本当なら隠しておきたいことだったが、今更そんなことをしてもしょうがない。それに帰ってこれるかどうかわからない戦いの前だからなのか、キラは素直に口を開いてしまった。
「今、だから言えない言葉もあるんだよ、ラクス。それに約束はしたんだ。話の続きをしようって。だから、大丈夫。今じゃなくても言える。」 「キラ…。」 「それに誰が欠けても君は悲しむから。そんなことはさせない。」
弱気になってはいけない。オーブ軍での最前線はキラとアスランなのだ。自分たちを信じてついてきてくれる仲間を不安にさせるようなことは決してしてはいけないのだ。 キラの決意を知ると、ラクスはぎゅっと目をつぶり、そしてゆっくりと開いてからキラを見つめた。先ほどと違って強いまなざしで。
「無理はなさらないでくださいね。」 「必ず帰ってくるよ。」
ラクスと別れ、自らの乗り込む機体が置かれている場所へと急ぐ。そして、フリーダムを見つめて、気を引き締める。 それから少しだけ遅れるようにアスランもその場所へとやってきた。
「す、すまない。」 「アスランも話終わった?」 「あぁ。」 「じゃあ行こう。」
帰ってきたときにこの気持ちを伝えたら彼はどんな顔をするだろう。少しはうれしいと思ってくれるか。それとももう二度とこうして話しかけてくれないだろうか。 けれど、きっと伝える。そのために帰ってこなくては行けない。 今だから言えたかもしれない。戦争が終わったら忙しくて、そしていつでも言えるという甘えが出るかもしれない。 けれど約束した。言わざるを得ない状況を作り出した。それは意図したものじゃないけれど。 自分を奮い立たせるように、両頬を叩き、キラはフリーダムへと乗り込んだ。
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いつも恋心はアスラン→→→キラな感じなので、今回はキラからの片思い。アスランは全く気付いていないという状態です。けどアスラン以外の周りにはみんなばれているという鈍感アスラン。
2010年05月10日(月)
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