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■ 君の望むことを 望むだけ
いつもと同じ朝。いつものように目が覚める。少しだけいつもと違うのは。
「おはようキラ。」
今日は一年で一度だけの日だということだ。 だからと言って眠気に勝てるわけではない。キラは開けた目をゆっくりと元に戻していく。するとコツンと頭を小突かれた。
「寝るな。今日はみんなが誕生会を開いてくれるんだろ。」 「うー。そうだけど、それは夕方で……まだ朝…。」 「あのな。だからこそ午前中に終わらせなくちゃいけないことがいっぱいあるだろ。ほら、早く起きて。」
アスランに布団を引っ張られ、しぶしぶキラは起き上がる。するとアスランは嬉しそうに口を開いた。
「お誕生日おめでとう、キラ。」
今日一番最初に、誰よりも早く言われた言葉にキラは顔を緩ませた。
「プレゼントは?」 「そうだな……キラの欲しいものをあげるよ。けどあんまり高いものはやめてくれよ。」 「考えておくよ。」
今日という日の為に色々とスケジュールを調整した。他の誰の誕生日も盛大に祝うことなんてないのに「せっかくのキラとカガリさんの誕生日ですからね。」というラクスの一声でいつのころからか毎年この日に誕生会が開かれることとなった。 普通に考えれば歌姫であるラクスの誕生日を盛大に開くべきなのだろうが、ラクスの誕生日は追悼式典の準備で毎年忙しく休みを取ることが出来ない為に一度も開催されたことはない。メッセージとプレゼントを送る程度だ。アスランや他のみんなの誕生日も似たようなものである。 今ではオーブの代表となったカガリの誕生日ということであれば国をあげての盛大に開かれそうだが、毎年親しい友人だけでパーティーが開かれていた。それでも数十人という単位の出席者のいるパーティーなわけで。 二人の誕生日ということになっているが、きっと一年分まとめてのみんなの誕生日会なのであろう。 ラクスが手配したレストランを貸し切ってのパーティーはちょっとした同窓会であった。毎年この日しか会えない人も多い。
「お誕生日おめでとうございます、キラ、カガリさん。」
用意された轟華な椅子。そこに座る二人の前に本日の主催者であるラクスがやってきて、深々と頭を下げた。
「悪いなラクス。毎年こんな盛大に祝ってもらって。」 「忙しいのに、ありがとうラクス。」 「いえ、私はお二人の姿をこうして見られるだけで幸せですから。それに一年に一度くらいこうしてみんなで楽しく騒ぐ日も必要かと思いますので。」
そうして一人ずつ二人に挨拶に来ては、久々に会う知人友人と騒ぎだす。二人の誕生日は騒ぐ口実というわけだが、それでもみんなが楽しそうにしているのを見ているのは気分がよかった。
「そういえば、アスランはどうしました?」
いつもキラの隣にいるアスランの姿がない為か、ラクスは周りをきょろきょろと見回した。
「そういえばいないな今日は。いつも鬱陶しいくらいキラにべたべたしているのに。」
カガリの言葉にキラは苦笑いすることしか出来なかった。確かにアスランはキラの横にいることが多いが、そういう風にカガリの目に映っていたのかと。
「ちょっと他の人に話があるって言ってどこかに行っちゃった。」 「あら、そうですか。では、私も少しだけ失礼しますわね。楽しんでいらしてくださいませ。」
ラクスと入れ替わるようにまた新たな客人が到着し、二人に挨拶をする。久々に会える人たちに嬉しくて、キラはカガリと笑い合いながら食事と会話を楽しんだ。
一年に一回の日。みんなから祝福されてとても楽しかった。これ以上嬉しいことなんてないはずなのに何かが物足りない。何か満たされない。腹八分という言葉があるくらいだから欲張りすぎちゃいけない。
部屋に帰ってきて、ソファーへとダイブする。楽しかった。興奮はまだ収まらない。けれど疲れた。このまま眠りにつければとても幸せだろう。
「ほら、そのまま寝るなよな。」
アスランの声が聞こえる。怒っているわけでも呆れているわけでもなく、くすくすと笑った声がキラの耳に届いた。
「あ。」
そうしてようやく一つのことが頭を過った。何か足りない満たされない。それが一体なんだったのかようやく理解した。当たり前過ぎて気付かなかった。 今日はキスどころか触れることすらしてない。いつもなら手を繋いだりキスをしたり。さすがに公衆の面前でのことはほとんどないが、二人きりの時はそういったことがある。 けれど今日は朝起きてから何もない。パーティーの時もアスランはどこかに行ったまましばらく帰ってこず、帰ってきたと思ったら客人を案内して来た。
「アスラン?」
ソファーから顔をあげる。
「なんだ?」
いつものようにアスランはキラに笑いかける。嫌われたということはないらしい。けれど服をぎゅっと掴んでみてもアスランはなにもしない。 欲張り過ぎてはいけない。けど誕生日なんだから少しくらい欲張ってもいいよねと足りないものを思案する。 もしかしたらこういうことをもう自分とするつもりはないのだろうか。だから節目の誕生日という日を選んだのだろうか。 そうだとしても、そんなこと聞いてない。アスランの中だけで勝手に決められたことなんてキラは知らない。
「ちょっと来て。」
手招きしてソファーのそばにアスランを呼ぶ。するとゆっくりと近づいてくる。その身体に両手をのばす。
「起こして欲しいのか?」
アスランが身体を屈めてキラの身体を持ち上げようとする。けれどそれよりも先にキラはアスランの首へと腕を回し、アスランの唇に自分の唇を寄せた。
「誕生日プレゼント。もらってなかったから。」
そう言ってアスランに回した手を離す。 そうして起き上がろうとしたのだが、その身体をソファーへと押された。
「キラはそんなんで満足なの?」 「……え。」 「今日はキラの誕生日だからキラの望むことしかしないよ。言っただろう?今年の誕生日プレゼント。」
そうしてようやく、キラはアスランが今日一日触れてこなかったことの理由に気付いた。なんて意地悪な恋人なのだろう。
「………だから、今日は僕に触れないしそばにいなかったってこと?」 「キラが何も言わないから。」 「意地悪だねアスランは。」 「これほど優しいプレゼントはないと思うけど?」
小さく、キスしてとねだればちゅっとキスされる。もっと、他のところにもと言えばキラが求めるように。
「他には?」
意地悪な表情を浮かべてアスランはキラを覗き込む。
「わかってるくせに……。」
これ以上なんて恥ずかしくて言えない。いつものように何もわからなくなるくらいにめちゃくちゃにして欲しいだなんて。
「アスランの……好きに、して?」
これが精一杯の譲歩。
「……っ!」
アスランの顔が赤くなる。
「どうなっても知らないからな。」
泣きはらした目をゆっくりと開けるとそこはいつも寝ているベッドだった。目をこすりながら起き上がると、パジャマを着ていた。身体に不快感が全くないので、アスランがきれいにしてくれたのだろう。 最初のころの記憶はおぼろげに残っているのだが、一体いつ気を失ってしまったのか全く記憶にない。 色々ねだったというか、ねだらされた気もする。一つずつ残っている記憶を辿り寄せると恥ずかしくて仕方ない。 自分が誕生日だったのにアスランの好きなようにされた気もするが、結局は自分もアスランを欲したのだから、何も言えない。
「誕生日プレゼントありがとう、アスラン。」
横に眠るアスランの額に軽くキスを落とし、キラは再度ベッドへと潜り込んだ。
2010年05月18日(火)
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