野生の森
高瀬志穂



 残せるもの *

 密室に立ちこめる湯気。鳴り止まない音。
 かき出されたそれは排水溝へと流れていく。生命を、未来を繋いでいく一番最初のものは、未来に何も残さずに消えていく。

「あぁ。これは何人目だろう。」

 シャワーにかき消されるほどに小さな声で呟く。
 もし自分が女であったのなら、一体何人の子をこの身体に宿していたのか。けれどこの身体は子を宿すことはない。吐き出されたものはかき出され、消えていく。
 生産性の全くない行為だとわかっているのにそれに溺れる。
 少しでも一部を体内に残しておきたいと思うのに身体はそれを拒む。
 所詮、相容れないと誰かに言われている気がした。

「けど俺はキラのここ以外にそれを入れたいと思わないよ。」

 キラの秘孔に指を入れて中に放ったものをかき出していたアスランは、その指をまるで円をかくようにキラの中を広げた。

「んっ、ちょ…。」

 先程までぐちゃぐちゃになるほどにアスランのモノでかき回していたその場所は、簡単にアスランの指に従う。

「それともキラは誰かにそれを注ぎたいと思うのか?」
「それは…別に。」

 他の誰か、男でも女でも、アスラン以外とこういった行為をしたいという気は起きない。
 ただアスランにしてもキラにしても子供がいらないと思うわけではない。血を受け継ぎ、子をなして、そうして歴史は続いていくのだ。

「僕はカガリがいるからいいけど、アスランはその…兄弟いないんだし…。」

 彼の身内はもう誰もいない。もしかしたら遠い親戚はどこかにいるのかもしれないけれど、それを探す手がかりはない。

「別にザラの名前を残す気はないよ。だからキラが気にすることはない。」
 
 これはアスランが望んだ未来だとそう告げる。

「キラの両親には悪いと思うけど……カガリに二人産んで貰えばアスハもヤマトも無くなることはないだろうしな。」

 いない人のことを勝手に決めるのは良くないとは思うのだが、カガリなら二つ返事で了解するだろう。

「アスランはそれでいいの?」

 ゆっくりと振り向いてアスランの顔を見ると、笑っていた。後悔も悲しさも全くないというように。

「あぁ。よくも悪くもザラという名前はしばらく残るだろうしな。こんな思いをするのは俺だけで十分だろ。」

 戦争の英雄アスラン・ザラ。コーディネイターこそ優秀な人種だと唱えたパトリック・ザラ。どちらも崇拝も蔑まれることもされる立場だ。
 同じように戦争を生き抜き、尚且つ他のコーディネイターよりも優れているとされるキラだが、その名前も顔も世間に好評されてはいない。

「キラがいてキラの両親がいて、カガリがいてラクスがいて。…それだけで今は十分幸せだよ。それに子をなすだけが未来を作るというわけじゃない。俺達にしか出来ない他のこともたくさんある。そうだろ?」

 水が流れ込んでいる排水溝をじっと見つめる。シャワーから出るお湯は二人の身体を伝ってそこへと流れ込む。
 子をなすことは二人では無理だ。けれど世界をより良い方向へと変える努力なら出来る。

「そうだね。僕らじゃない他の子供達の為の未来なら作れるかもね。」

 もう二度と戦争なんて悲しいことを繰り返させない。殺しあうなんて悲しいことは自分たちの代だけで十分だ。
 自分たちの遺伝子は残らないけれど、意志は残せる。それは無駄なものではないはずだ。

「ほら、あんまりこんなとこいたらのぼせるだろ。」

 そう言われて引かれた手に素直に従った。


2010年05月09日(日)
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