野生の森
高瀬志穂



 Caramel Syrup番外編。

 気配を消して足音も立てずキッチンを覗き込む。目当ての人物は料理の真っ最中である。フライパンで何かを炒めているらしくジュージューという音と、いい匂いが部屋を占領していた。そっとその人物に近付き抱きつこうと手を伸ばした瞬間、
「おはよ、キラ。」
 振り向くこともなくそう言われた。
 キラはそのまま伸ばした手を引っ込めること無くその背中に抱きついた。
「おはよ、アスラン。ねぇどうして分かるのさ。気配も何もかも完璧に消してるのに!!」
「何でって分からなかったら危険だろ。火も使ってるんだし、朝食が駄目になる。」
「そうじゃなくて!」
 カチンと火を止め、アスランは身体に巻き付いている腕を外させ向かい合って頬にキスをした。
「どんなに気配を消しても分かるよ。好きな子何だからさ。」
「うー・・・。」
 何だか上手く流されたような気がする。キラだって一応は吸血鬼。人間のアスランに気配を感じ取られるのはやはり悔しかった。
 毎朝繰り返される行為。いつかキラはアスランを驚かせてやろうと思っていた。しかしどうやってもキラはアスランにはかなわないかった。
「アスランってもしかして人間じゃない?」
 ふと、キラはそんなことを思ってしまった。
「は?」
「じゃなかったら足音も気配も完璧に消してる僕に気付くはずないんだ!!!」
 どうやらキラはそうとう悔しいらしい。どうにか自分が不利な理由を探したいようだった。
「俺は正真正銘の人間だよ。」
「おかしいよ!僕より体力あって力もあってもいくら血を飲んでも倒れないなんて!」
「キラ・・・かなり俺を人間扱いしたくないのか。」
「そうじゃないけど・・・。」
 何もかも上回っているはずの吸血鬼。しかし一度も彼を守れたことも、彼のために何かしてあげたこともない。いつもいつもしてもらってばかり。
「俺はもうキラなしではやっていけない身体になっただけだよ。だからキラがどこにいても分かるよ。」
 キラの頬を持ち、目を合わせながら言う。一言一言いう度にキラの頬は赤く染まっていった。
「だから、そういうことをそういう顔で言わないでよ〜。」
 それは極上の、キラどころか誰もを惑わす極上の笑顔。こんな顔を見ていて照れないはずはない。
「ほら、ご飯冷めちゃうよ。」
 そんなキラを知って知らずか、くすくすとアスランは笑いながらキラを促す。その態度にキラは頬を膨らませた。
「絶対からかってる。」
「そんなことないよ。ただキラがあまりにもかわいいからさ。」
 誰かと暮らすという生活。二人にとっては最初は新鮮なものだった。けれど、今はそれが当たり前になってきている。
「今日は僕がご飯作るからね!」
「あぁ、楽しみにしているよ。」
 それはいつかお互いが願った、ささやかな幸せの形。



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 ずっと放置していたものですけど、まぁいなくなる前に更新。
Caramel Syrupの続きというか、なんと言うか。
Honeyの後なんだか前なんだかは分かりませんけど。
いつか続きだしたいものです。
Caramel Syrup→Honeyって形でかなり続いてしまっているので、次に出す時はHoneyの再録からスタートですな。

2004年03月16日(火)
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