「静かな大地」を遠く離れて
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2001年12月02日(日) ブリザード、ヌナブト、のど歌

また数日が過ぎました。満月を挟む数日。
“甲府詣で”もしたし、キャラメルボックス「ブリザードミュージック」も見たし、
古井由吉先生にもお会いできた。いくつかの時間の層が交錯する日々をやり過ごす。
決してテンションは高くない、なにか静かに潜行する事態を怖れるように進む時間。

まずは、一年前の11月28日に寮美千子さんのBBSにカキコミした僕の文章を、
以前ここに再録したけれど、もう一度再々録してから話をはじめよう。
寮さんが花巻で1922年のアインシュタイン博士来日に触れられていたのに反応
しての「呼応する時間」という一節。

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呼応する時間 投稿者:G−Who  投稿日:11月28日(火)01時11分21秒
 そう、モダーンの果ての20世紀。物理学とアートは四次元の啓示を謳う。
 ロシアでは革命が起こり、各国はシベリア出兵の泥沼に足を突っ込んでいた。
 翌年、1923年には関東大震災が起こっている。
 昨日観たキャラメルボックスの芝居は、その時代を背景としていた。
 キャラメルボックスの主宰・成井豊さんだったら、
 宮澤賢治とアインシュタインの交錯する大正を、どう描くだろうか?

 僕がサハリンへ行ったのは1995年春、東京が悪夢を見ていたころです。
 阪神大震災の余波は消え去らないうちに起きたテロ事件のせいで。
 初めて花巻へ行ったのも、仙台でキャラメルが賢治を題材にした芝居を
 上演したのを観た、その直後のことです。
 だから僕の中では、どうにもそれらの事象が連なって見えるのです。

 日本時代の名残りを留める現実のロシア極東サハリン州は、
 重層的な時間の地層が褶曲した断面を見せつける異空間でした。
 サハリンに身を置いて「樺太」を幻視すること。
 そこから逆照射して北海道を、ひいては日本列島を観ること。
 戦争や経済や歴史の時間、ヒトやクマの時間、森や岩石の時間。
 それらが呼応しあう空間を縦横無尽に読み解くことができれば・・・。
 北の空には、そんな幻像が渦巻いて視えました。

 そうした希求を、同時代に力強く表現の形にしている人がいました。
 当時北海道に住んでいた僕は、その人の仕事に強く惹かれました。
 はるかな過去、北海道とも地続きだったという土地に居を構えて、
 北の空に時折り視える、時間が褶曲した地層の断面を写しとって
 そこから採集した標本を丹念に言葉に移し替えようとしていました。

 翌年、1996年にロシア極東カムチャツカで亡くなった、あの人です。

 どういうわけか花巻から届けられた強い蒸留酒のような「北」の空気に
 あてられて、サハリンから遙かアラスカにまで思考が飛んでしまいました。
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思えば90年代の僕の軌跡は、トウキョウから花巻はおろか北海道、サハリンから
アラスカにまで思考が飛ぶ、精神的北方指向の時代だったのかもしれない。
精神的な理(ことわり)の順番としての、ホシノミチオ信仰告白を精確にやるならば
上のようなことになるだろう。その後、北海道でヒグマの穴に潜るハメになるような
“必然”の渦に、既に深く絡め取られている時期だった。

「ホシノミチオとは、どうやって出会いましたか?」と誰かに問われて、
「池澤氏の本を読んでいるうちに何となく…」という回答は事態の正確さを欠くもの。
その説明ならざる説明を、上の駄文は拙くとも試みてはいるかもしれない。
僕のミチオ・ライフ(?)と想うところに関しては、この日録でも何度か触れた。
http://www.enpitu.ne.jp/usr2/bin/day?id=25026&pg=20010717
http://www.enpitu.ne.jp/usr2/bin/day?id=25026&pg=20010718
http://www.enpitu.ne.jp/usr2/bin/day?id=25026&pg=20010608


■演劇集団キャラメルボックス「ブリザード・ミュージック」
 池袋サンシャイン劇場でクリスマスまでやっています。是非みんな見てください(^^)
 そのうちネタバレありの長いマニアックなレビューでも書こうかな。
 そのときには上の文章をもう少しほどいて敷衍することにしよう。

さらに北方へ、一気に北極圏カナダまで飛ぶ。

■磯貝日月『ヌナブト イヌイットの国その日その日 テーマ探しの旅』(清水弘文堂書房)

先日ここで紹介した本。分厚いのだが結構軽い感覚で読み進められる。
著者の若さと、旅の途中で書いたというライブ感覚ゆえか。
これは面白い。そして大事な仕事。魅力的なテーマ。
ウェブで発表されたものの出版化本を読むような感じもある(実際はさにあらず)。
彼は家系といい、環境といい、言ってみれば“北極圏フィールドワークのサラブレッド”、
“生まれついての筋金入りフィールドワーカー”なのだけれど(<ご本人は厭がるかな)
「電波少年」の企画ものの旅日記でも読むつもりで、ぜひ手にとってみて欲しい。
「寒いのは勘弁!」という方でも、「静かな大地」を読み星野道夫本を読んでいる方なら
彼が若くして自分のフィールドに見定めた“カナダ・ヌナブト準州”には関心を惹かれず
にいられないはずだ。なによりこの活きのいい、生まれたてのフィールドワーカーの仕事
を“先物買い”する楽しみも味わえる。瑞々しい極上の青春記としても読める。
清新な“テーマ探しの旅”の行き着くところ、何と爽快なことか!
“未来の巨匠のアーリー・デイズ”をお楽しみあれ♪

この本のラストでヌナブトのイヌイットの若者たちが来日した際、盛岡、白老、札幌、函館
などを回ったのにボランティアで同行した顛末が触れられている。とても興味深いのだが、
詳細は次の本で語られるらしい。そこで仲良くなった若者たちを、次の夏、すなわち今年の
夏、ヌナブトに訪ね歩いて、きっと格段に深いフィールドワークの成果を得たことだろう。

ご関心の向きは、とにかく直接お読みいただくとして、ちょっと聞き捨てならない記述に
引っかかった。最後のイヌイットの若者の日本滞在の部分、写真のキャプションに
「訪問先の各地でイヌイットの遊び、のど歌、ドラムダンスを披露した」って…、
“のど歌”という「業界用語」(?笑)が使用されていることからしても関係者の関与が
予測できる感もありますが、新大陸のモンゴロイドに“のど歌”文化が在ることって常識?
鳥や動物の鳴き声を真似ると喉頭音めいたものが倍音を伴いそうな感じはしますけれど、
それと“のど歌”という用語は、さて直結するものなりや否や。
#嵯峨治彦さん、赤坂友昭さんあたりへの照会を要するネタかもしれません。 

…さて、未読ですがフィールドワーク話が出たので触れておきます。
以前NHK「人間大学」のテキスト用に書かれたものに加筆、というよりは分量的には
書き下ろしと言っていいんじゃないかという新刊。
佐野氏の前著『旅する巨人』は発刊当時、御大も耽読絶賛されていた本です。
あの本に出てきたアチックと、『ヌナブト』の磯貝日月氏との縁もとても面白い。

■佐野眞一『宮本常一が見た日本』(NHK出版)
(帯惹句)日本を丸ごと抱きしめた男
 人生の7分の1を旅に費やし、16万キロを歩いた「経世済民」家・宮本常一。
 司馬遼太郎ら「知の巨人たち」が敬愛したその思いとまなざしが、いま蘇える。

 戦前から高度成長期にかけて、日本じゅうの村という村、島という島を歩き、
 そこに生きる人びとの生活を記録した宮本常一は、人をとろかすような笑顔と
 該博な知識をもって地域振興策を説き、人びとに誇りと勇気を与えつづけた。
 宮本が残した厖大な資料をもとに、第一級のノンフィクション作家である著者
 が日本各地を取材、そのまなざしの行方を追い、いまこそ求められている
 宮本的「経世済民」思想と行動の全容を綴る。
 読者に深い感銘を与えた大宅賞受賞作『旅する巨人』の続編作品。
 
これ、未読だけどすごく楽しみ(^^)
われらが「静かな大地」の方は、由良さんと長吉さん夫婦による“物語分析学講義”
の様相を呈しています。っていうか、もっと派手にやって(笑)
「物語」の作法、「物語」の強度、といったところは、大いに関心のあるところ。

「物語」、それとその背後にあるリアルな世界。
フィールドワークと“物語リテラシー”みたいなところも面白い。
実は物語であふれかえっている世の中のように見えて、
いろんな時間スパンで「物語」化能力が不足しているのが今の人類の不幸かもしれない。

  ≪あらすじ≫由良は伯父の三郎伝を書き進
 めている。明治13年秋に静内はバッタの群れ
 におそわれたが、三郎は地中の馬鈴薯をこっ
 そりアイヌにも分けながら冬をしのいだ。三
 郎が小さいときに聞いたアイヌの昔話を再現
 しようとするうち、由良は話の背後に横暴な
 和人の影を感じてくる。

題:165話 フチの昔話15
画:羊歯
話:熊の吐息が人の話す声のように若者の耳に響きはじめた

題:166話 フチの昔話16
画:夏蜜柑
話:イナウを削って、死んだ熊を丁寧に神の国へと送り出した

題:167話 フチの昔話17
画:スグリ
話:私はまた盛大な送りの儀式と共に熊を神の国に送り返した

題:168話 フチの昔話18
画:ヒサカキ?
話:恋なんてそんな雅なものではなくて、女漁りね。

題:169話 フチの昔話19
画:キヅタ?
話:チャランケには判事はいないの


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