| 2022年06月06日(月) |
のっぺらぼうの雪だるま。刺した楊枝は喜んでいるように見える。でも、そうとは限らない。表情のわからない雪だるま。胸のところにぽつん、小さな穴ぼこがある。これは中高の時にある日突然全員から無視されるようになった、その後もひどい虐めに遭った、あの時の傷。そうして不登校になった。それまでは部室に毎日居座ってた。そういう時の、傷。 彼はできあがった粘土の雪だるまを前にして、そう言った。そしてこうも付け加えた。 無なんですよ、表情なんてないんです、ほんと無。表情は無。そして、雪が溶けてなくなれば、これもまた「無」。楊枝の腕も喜んでいるように一見見えるけど、溶けてしまえばそうじゃなくなる。これもまた、「無」。 彼の言う無が、波紋を拡げ二重三重に波紋を静かに拡げてゆく。彼の悲しみ、痛み、悔しさ等、様々な思いを連れて、拡がって行く。
これは親父ですね。いつも食事の時どかんとそこに居た。すごく圧迫感があって、食事中お喋りをすることなんてもってのほかで、礼儀作法を叩き込まれるばかりの場だった。食事だけじゃない、いろんな場面で、親父の圧力はすごかった。 できあがった足を胡坐に組んだ粘土人形。少し俯いた形になってはいるが、その威圧感はありありと現れ出ている。
ぱっと見、笑ってるように見えるけどこれは仮面で、その実、下の表情は泣いてる、っていう、そういう感じでしょうか??? 彼の作ったヒトガタは、被った帽子には笑顔が書いてあり、実際の顔には涙がぽろぽろ零れている。
どうしても被せてあげたかったんです、大丈夫だよ、っていう意味を込めて。それからこれは太陽で、岡本太郎の太陽の塔を真似したんですけど、光が降り注ぎますようにっていう願いを込めて作りました。 彼女の粘土人形は大きく身体を曲げて、大きな大きな花の中に座っているかのように見える。
定期的に幼少時から見る夢があるんですよ。その夢の中に、この形のものが出てくるんですけどすげー怖くて。一番怖い。今も、関係ないように思える夢の中に定期的にこれが出現するんです。 蜘蛛の様な長い足を四本持って、ぶらんと下がる腕も四本あって。そういう虫のような形をした怖いモノは、何処までも彼を追いかけていきそうな勢いがあった。
これは昔からの僕のカタチで心臓とも言う。心とも言う。それらが重なり合っているカタチ。楊枝をぶっ刺しましたけど、こんなふうにあちこちの角度からいろんなものが突き刺さってる。そういうのを表現したいと思いました。
―――アートセラピーで「インナーチャイルドを形にしよう」というテーマで粘土に触ってもらった。絵よりも具現化しなければならない粘土。それでも彼らのカタチは唯一無二の光を放ってそこに在る。
承認欲求それはそのまま他人軸なんだな、と。誰かに認められたい、受け容れられたい、このままでいいよと言われたい、何処までも何処までもこのままじゃ他人軸なんですよ。変えたいですよね。 家人が録画したテレビ番組を二人で観ていた。誰かに認められたい、受け容れられたい、は、誰もが思うことで、決して特別なものではない。むしろ、それを自覚しているのなら、次に進める可能性がいっぱいだ。
雨の中出掛けた依存症回復施設でのアートセラピー講師の時間。外で野良猫がみぃみぃ泣いていた。八兵衛の声は聞こえなかった。雨だけが音を立てて降り続いていた。 |
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