| 2022年03月19日(土) |
手紙を書いていたらあっという間に真夜中になってしまっていた。一心不乱に過ごしていると何故こんなにも時はあっという間に過ぎ往くのだろう。時々呆然と、時の川の前で立ち尽くしてしまう。
疲れ果てて15分ほど炬燵で丸まって眠ってしまった。その間に、たった15分の間にびっしり夢を見た。 昔から繰り返し見ている夢のひとつ。 だだっぴろいコンクリのホームがあって。そこに私は居て、電車を待っている。待っても来ない。どうしたのだろうと思っていたら、突如警笛のようなものが響き渡り、あいつだ、あいつだ、という声が私の脳内に響き渡る。それは私の裡の声ではなく、外から響いてくる声なのに、なのに私の脳内で響き渡る。一斉にホームにヒトガタが流れ込んでくる。しかもそれらは私に向かって来る。あいつだ、あいつだ!と。 私は逃げる。殺される、と不意に思い、懸命に逃げるのだが、ぴょーん、ぴょーん、と、蚤が跳ねるみたいにしか動けない。私はだからひたすら、ぴょーん、ぴょーん、と跳ねて逃げる。いつのまにか周りは山になっていて、その山間を私はぴょーん、ぴょーんと跳ねて逃げる。ヒトガタの群れはびっしりと群れて、そして私の後を追いかけて来る。どんどんヒトガタは増えてゆく。 もうだめだ、追いつかれる、と思った瞬間、ヒトガタのひとつが私に覆い被さって来る。どくん、と心臓が脈打つ。その瞬間、そのヒトガタの心臓の部分に穴が開く。だめ、死んじゃダメ!そう叫びながらヒトガタの身体の穴を塞ごうと、両手で抑える。そして気づく。父だ、これは父だ、と。 他のヒトガタたちがざわつく。父殺しだ、こいつは父殺しだ、捕まえろ!とヒトガタが一斉にざわつく。そしてさらに私に覆い被さろうとする。私は慌てて逃げだす。お父さん、お父さん死んじゃう、と思いながらも、逃げ出す。 ぴょーん、ぴょーん、ぴょーん。 そうして気づいたら、線路にいた。ホームが見える。誰もいないホーム。あそこに逃げよう、とよじ登ろうと試みた時手が差し出される。咄嗟にその手を握る。そしてその手の先が誰なのか確かめようと顔を上げた瞬間。 私は絶望する。 そうして目が覚めるのだ。いつも、いつも、いつも。 15分の間に身体がすっかり冷え切ってしまっていた。寒い。そう思いながら上着を羽織る。それでも体の芯が凍え切っていてちっともあたたまらない。この夢を見た後はいつも、そうだ。
娘に頼まれて朝一番に息子を連れ娘宅へ向かった今朝。娘が病院に出掛けている間、私が息子と孫娘の世話。最初シャボン玉をしていたふたりだが、じきに飽きて、部屋の中に戻って来る。息子は漫画を読み、孫娘は何故かメイクをし始めた。いや、実際何か顔に塗りたくったわけではない。そうじゃなく。おもちゃのコンパクトと何かを持って、メイクをしているそぶりを情感たっぷりにしているのだ。 「上手だねえ!」と私が言うと、「だってママがいつもしてるもん!私知ってるの!」と。なるほど、母の真似というわけか、と心の中くすり笑ってしまう。それにしたって、首をちょっと傾げて、ほっぺたや額に何かを持って行っては、んふっ!と鏡に微笑むところ、もうすっかり女性だな、と感心してしまう。同時に、娘と孫娘は、同じ母子家庭でも、私と娘のそれとはまったく違う世界を築いているのだな、と。そのことをつくづく思った。それで、いい。
一度何かを疑い出すと、ドミノ倒しのように疑念が疑念を呼んでしまう。階段落ちするみたいだ。気持ちが凹む。 ちょっと疲れてしまった。もういっそ、どうにでもなれ、と放ってしまおうか。疑い出したらきりがないのだ、いつだって。それならもう、裏切られることを承知で信じてしまう方がずっと、楽だったりする。 |
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