ささやかな日々 / 浅岡忍

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2020年04月11日(土) 
ここ数日夜明け前後の空はぼんやり霞んでいる。地平線の辺りが桃色に、そして空の天辺は群青色に、その間を結ぶグラデーションはまるで水彩画のよう。たっぷりと水を含ませた平筆でざっと描いた水彩画。

娘と孫とが遊びにやって来る。遊び相手がいなくてしょぼんとしていた息子の表情が、今日は生き生きと輝いている。孫相手に笑ったり泣いたり怒ったりめげたり、実に忙しい。孫の方はマイペースで、年上の息子を相手に堂々渡り合っているのが面白い。
それにしても孫の成長の早いこと。この間遊びに来たときは片言の言葉を二、三個言う程度だったのが、今日は立派に言葉でやり返している。「待って、いややいで!(待って、行かないで)」「これああちゃんの!あげない!」「おいしいね!」などなど。そしてはっと思い出す。娘が幼かった頃、言葉が出るのが本当に遅くて、この子は喋れないんじゃないかと私は真剣に悩んでいたことを。なのに三歳の誕生日を迎えると同時に、いきなり片言ではなく文章を喋り始めた。ぎょっとして「今なんて言ったの?」と私が問うと、「これああちゃん好きじゃないの」とはっきり言ったっけ。私はあの、初めて彼女の言葉の声を聴いた時のことを、忘れることはできない。ちょっとハスキーなソプラノの声だった。

息子と孫とが部屋の中追いかけっこをしているその間に、私と娘は台所でクリームチーズを練る。滑らかになるまでしっかり練る。途中砂糖を二度に分けて加え、さらに混ぜる。なめらかになったら生クリームを加え、もったりするまでまたさらに練る。
オーブンは230度に温めておき、45分強じっくり焼く。バスクチーズケーキ。
娘がアルバイトする店が入るビルで、コロナの感染者が出、そのため直後からビル自体が閉鎖になり、つまり娘は仕事にあぶれることになった。仕事がないと保育園も今は子供を預かってはくれない。
ベランダで息子と孫がシャボン玉遊びを始めた。互いにシャボン玉をぶつけ合って、そのたびきゃぁきゃぁ喜声を上げる。耳を澄ますと近所の動物園からライオンの唸る声がしていることに気づく。風向き次第で、その声は大きくなったり小さくなったり。さざ波のよう。

午後はあっという間に過ぎてゆく。時計の針に追いかけられるように私たちも、しりとり合戦をしたりトランプをしたり、はたまたくすぐりごっこで布団の上転げまわったり。思いつくことは全部やっているのだが、息子も孫もちっとも満足してくれない。次から次に、これも、あれも、と注文が出る。そうしているうちに私も娘もすっかり草臥れ、まるで干からびた雑草のようになってしまった。

「ね、ああこのこの頑固さって誰に似たのかな?」
「そりゃあんたでしょ」
「えー、それは違うと思う。ママだよ、ママ!隔世遺伝だよ!」
「何をおっしゃる。君は自分のことがつくづくわかっていないらしい。あなたほどの頑固娘、見たことないわ!」
「えー、そこまで言うかっ!」

楽しい時間というのはどうしてこんなにきらきらしているんだろう。窓際に吊るしたサンキャッチャーみたいだ。周りを虹色に染める。


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